第6話 なぜ、足のない魚が陸上では「足が早い」のか?

青魚や果物などの、腐りやすい食材を「足が早い」といいます。

なぜ、足のない食材であっても「足が早い」というのでしょうか?


「足がはやい」には3つの意味があります。

・走る速度が速い

・食物などが腐りやすい

・商品などの売れ行きがよい


「足がはやい」とひらがなで書いたのは、漢字によって意味を使い分けているからです。

「速い」は、移動や動作、進捗などの速度を指し、スピードが速いことを意味します。例)迅速、高速

「早い」は、時間の経過を指し、時間経過が短い、または時間的に先であることを意味します。例)早起き、早朝、早退


したがって、腐りやすい、または売れ行きがよい意味で使うときは「足が早い」と書きます。


「足が早い」という慣用句の語源としては、一般的には以下の2つの説があります。


1.漁師の言葉を由来とする説

船の能力を表すときに、安定性や速さを「足が強い」「足が弱い」と評価します。そこから鮮度がすぐに落ちる魚を「足が早い」というようになった。


2.飛脚を由来とする説

江戸時代の宅配便である飛脚(ひきゃく)は、驚異的な速度で手紙や荷物を運んでいたようです。足が速い飛脚でも、長距離を移動すれば食材の鮮度は落ちてしまいます。そのため飛脚の足の速さを上回る早さで、鮮度が落ちることから「足が早い」というようになった。


どちらも説得力のある説です。どちらも語源として正しいのかもしれません。魚に限っていえば、漁師の言葉の方が時代としては古い可能性があります。


さて、2の飛脚を由来とする説を、もう少し深掘りすれば、飛脚の足の速度ではなく、初めから時間経過の早さを表現していたと考えられます。


江戸時代までの移動手段は基本的には徒歩でした。そのため距離を「日数」で表すことが一般的でした。例えば、江戸から京都までの旅程は「男の足で約12~15日」「女の足で約15~20日」といわれていたようです。


現代でも、距離を伝えるとき、体感的に分かりやすいように、実際の距離ではなく、徒歩何分とか、車で何分と伝えることがよくあります。


日数の幅は年齢や体力などの個人差といえますが、江戸を出発した男性が、12日間よりも短い日数で京都に着けば、「足が早い」ということになります。


標準よりも日数が短いことを「足が早い」と表現したので、商品の売れ行きがよいことも「足が早い」と表現したのでしょう。


この表現が転じて、他の食材よりも日持ちがしない、腐りやすい食材を「足が早い」と表現した、と考える方が筋が通っているように思います。



~あとがき~


「足が早い」を調べたきっかけは、「足」は「悪し(あし)」が転じたものではないか、という推論でした。調査結果としては、「足」に「悪し(あし)」の意味はまったくないようです。こういう空振りは、よくあることです。


ちなみに、商品の売れ行きがよくて「足が早い」を上回るときは、「飛ぶように売れる」と表現します。この記事も「足が早い」を上回って、「飛ぶように読まれる」といいのですが。

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