第5話 「足元をすくわれる」と大変なことになる!

商売や交渉の場面で使われることが多い「足元を見る」という慣用句

意味は「相手の弱みを見抜いて、それに付け込む」です。


価格や条件などの交渉の場面で「相手の弱み」というカードを切って、交渉を有利に進めようとするのは、映画やドラマでもよく描かれます。


「足元を見る」の語源は、昔の旅人と駕籠(かご)かき(駕籠に人を乗せて運ぶ人)に由来します。

駕籠かきが、旅人の足の汚れや、わらじの状態から疲れ具合の見当をつけて、疲れていて、すぐにでも駕籠に乗りたい旅人には、高い駕籠賃を吹っ掛けたことが語源とされます。


この場合の「足元を見る」は、足の下部や足先を見ています。現代でも、ホテルマンや銀座のホステスは、客が履いている靴を見て、客の懐具合を判断するそうですが、まさに「足元を見る」です。


しかし、本来の「足元」の意味は、足が地についている所や、その周りのことをいいます。挨拶で使われる「お足元の悪い中」という表現は、足が悪いのではなく、雨や雪などで地面の状態が悪く、歩きにくいことを指します。


よく使われる慣用句「足元を見る」の「足元」の意味が本来の意味と違うことで、「足元をすくわれる」という誤用を生んでいます。「足元」をすくうためには、相手の足がついている地面からすくう必要があり、かなり大掛かりなことになります。


正しくは「足をすくわれる」で、意味は相手に隙をつかれて失敗させられることです。油断や不注意が原因であることを暗に含んでいます。


この他にも、以下のような「足元」を使う慣用句があります。

・「足元を固める」(自分の立場や状況を安定させること)

・「足元にも及ばない」(相手の実力があまりにもすぐれていて、自分とは比べものにならないこと)

・「足元に火がつく」(危険が身に迫っていること)

※「足元」は「足下」や「足許」とする場合もあります。


また、「足元を見る」には「自分の立ち位置や状況を把握する、見直す」という意味もあります。こちらは本来の「足元」の意味で使っており、自分自身の「足元」を見ています。相手の「足元を見る」ときには、粗探し(欠点や過失を探し出すこと)の意味が強くなります。


さて、ホテルマンや銀座のホステスが、客の履いている靴を見るのは、服装や時計などと違って、靴は手入れをする必要があるからです。


高価な靴を履いていても、汚れていたり、傷んでいれば、時間的な余裕や心の余裕がない、あるいは、メンテナンスにかける金銭的な余裕がないと判断されるのです。


大事な交渉のときには、相手に足元を見られないように、まずは靴にこだわり、靴磨きを欠かさないようにすべきかもしれません。

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