第ニ章:11話 芸術の都の「完璧な美」と冒険者、裏側に潜む、醜い噂と情報の価値
恭平が、憤怒のマスターの追跡を振り切り、フランスへと密かに潜入した頃。パリの中心部に出現した「傲慢のダンジョン」は、その名の通り、完璧な美意識と格式で運営されていた。ダンジョン全体が、古代ギリシャの神殿のような純白の大理石で構成され、その内部の魔物は、「醜い」と判断された種は全て排除され、「優雅な戦闘美」を持つ魔物だけが残されていた。
傲慢のダンジョン専門の探索者、Aランクパーティ「テンプラー・ブレイド」のリーダー、エミール・ルブラン(32歳)は、今日もダンジョンの中層階で、優雅に剣を振るっていた。彼の戦闘スタイルは、一分の隙もなく、まるで美術館の展示品のように美しい。
「素晴らしい、エミール。今日の『優雅なガーゴイル』との戦闘も、まるで完璧なバレエのようだったわ」パーティの魔導師、コレットが感嘆の声を上げた。
エミールは、自らの剣の切っ先を拭いながら、誇らしげに答えた。「当たり前だ、コレット。傲慢のロードのダンジョンでは、『不格好な戦闘』は、『無能』と同義だ。我々は、ロードの『美の哲学』を体現する、最高の冒険者でなければ稼げない」
傲慢のダンジョンの冒険者たちは、高額な報酬よりも、「完璧な美の追求」、そして「自分たちの才能が世界最高であることの証明」に最大の価値を見出していた。ダンジョンが安定しているため、稼ぎも安定しており、彼らの日常は「芸術的な努力」に満ちていた。
「今日の素材は、『純粋な魔力結晶』の評価が高いはずよ。私たちの『完璧な才能』への対価ね」コレットは、満足げに微笑んだ。
しかし、完璧な美の裏側には、常に不協和音も存在した。エミールたちが休憩のためにダンジョン外のカフェに戻ると、街の雰囲気には微妙な変化が生じていた。
「エミール、見て。また『汚染』のニュースよ」
カフェのテレビ画面では、暴食のダンジョン周辺の経済活動が混乱しているという速報が流れていた。そして、その原因の一つとして、「東洋のダンジョンで発生した、原因不明の『魔力の汚染』」が挙げられていた。
「汚染?不愉快な響きだ」エミールは、コーヒーカップを静かに置いた。「我々の傲慢のダンジョンには、そんな『醜い不純物』は存在しない。ロードは、常に完璧に管理している」
しかし、カフェの隅で、情報屋が囁く、別の噂がエミールの耳に届いた。
「聞いたか?東洋で、『チキンソード』とかいう、最低ランクの逃走用魔導具を探し回っている奴がいるらしい。そいつは、ダンジョンマスターの『完璧な管理』の裏側を、『最も汚く、不格好な方法』で穿っているとか」
「『卑屈な逃亡者』だって?馬鹿げている。そんな『無価値な努力』が、世界の均衡を崩すなどありえない。世界を変えるのは、常に『英雄の完璧な才能』だ」エミールは、その噂を一蹴した。
彼のプライドは、「卑屈さ」や「汚染」といった概念を、『無価値なゴミ』として排除するよう洗脳されていた。
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