第四章:34話 嫉妬の波紋と、暴食のロードの戦略転換
嫉妬のダンジョンマスター討伐の魔力的な衝撃波が収まらない中、暴食のロードは巨大な体を震わせ、その空間全体に恐怖と警戒の魔力を放出した。
「馬鹿げている!嫉妬のロードは、その自滅的な性質ゆえに最も危険なマスターだったが、まさか人間ごときに討たれるとは!」ロードの声は、怒りというよりも、自己の存在に対する根源的な不安に満ちていた。
恭平は、魔導端末に表示されたニュースを凝視したまま、冷静を装い、この状況を利用する方法を探った。
「グラトニー・ロード。これで、強欲の勢力は、三つの大罪を統合しました。そして、その討伐を果たした『真紅の刃』は、間違いなく強欲のロードの支配下に入る。彼らの目的は、『七つの大罪のダンジョンを全て治めることで手に入る、万能の聖杯』だという噂はご存知でしょう」
恭平が持ち出したのは、ダンジョンマスターの間に囁かれる究極の秘宝の噂だ。七つの大罪のダンジョンマスターが全て倒され、その支配権が一つに統合された時、世界に現れるとされる「万能の聖杯」。それは、どんな願いでも叶える力を持つという。
グラトニー・ロードは、恭平の言葉に反応し、その重い舌で唇を舐めた。「聖杯……。我々マスターの間では、単なるお伽噺とされてきたが、強欲のロードは本気でそれを狙っている。そして、嫉妬のマスターの討伐により、新たな『嫉妬』のダンジョンが、韓国に出現することが確定した。この世の『大罪』の総量は変わらない。新たなマスターが、人間から誕生する可能性もある」
恭平の頭の中で、チキンソードが慌ただしく解析を続ける。
『マスター!これは、究極の危機であると同時に、究極の機会です!七つの大罪のダンジョン全てが不安定化すれば、『逃走経路』も増えます!』
恭平は、ロードとの対話を再開した。
「ロード。私の提案を強化します。貴方は『安寧』と『飽食』を望む。しかし、強欲の統合勢力は、貴方のダンジョンを『効率よく略奪できる食料庫』と見なしています。私の『逃走と攪乱の知識』だけでは、もはや貴方の安寧は守れません」
恭平は、一歩前へ踏み出した。彼の提案は、もはや単なる取引ではない。
「私に『対抗するための最大のリソース』を提供してください。『暴食のダンジョン内の最深部の未公開構造図』と、『ロードの魔力の一部を瞬間的に吸収できる特殊な魔導具』。私は、これらのリソースを使い、傲慢・憤怒の軍勢の侵攻そのものを、彼らが最も嫌う『無駄な混乱と無秩序な戦闘』によって、完全に崩壊させます」
ロードは、恭平の要求の大きさに、巨大な眼を細めた。「私の魔力の一部をだと?それは、私への裏切りと、ダンジョンの弱体化を意味する。卑屈な鼠め、私の本質を理解していないな」
「理解しています。貴方は『飽食』を望む。そして、私の提案は、『目先の小さな損失を差し出し、恒久的な安寧という最大の利益を得る』という、究極の『飽食の経済学』に基づいています。もし、貴方が私へのリソース提供を惜しめば、強欲の勢力は貴方の全てを奪い、貴方を飢餓に陥れるでしょう」
恭平の論理は、グラトニー・ロードの「飽食」という哲学の核心を突いた。ロードは、最も嫌う「飢餓」を避けるためなら、わずかな「不快な労力」を容認する。
ロードは、長い沈黙の後、重々しく答えた。
「よかろう、人間。君の『卑屈な経済学』に乗ろう。私は飢餓を嫌う。君に、私の最も秘匿された構造図と、私の魔力を一時的に安定して保持できる『汚れた胃石』を与えよう。ただし、失敗すれば、君は私の『食料』となり、最も長く、ゆっくりと消化される」
恭平は、契約が成立したことを確認し、深く息を吐いた。彼は、一介の冒険者でありながら、ダンジョンマスターを、自分の「安全第一」な老後を守るための駒として利用することに成功したのだ。
彼は、暴食のロードから受け取った、血と粘液に塗れた『汚れた胃石』を手に、新たな戦いの準備を始めた。彼の次のターゲットは、強欲の勢力が狙う、傲慢と憤怒の軍勢の合流阻止だ。そして、その裏には、嫉妬のマスター討伐によって不安定化した世界情勢と、新たな「嫉妬」のマスターの誕生という、予測不能な要素が待ち受けていた。
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次の更新は12/7予定してます
怠惰を極めるため、世界をリセットしました @A-Ka2
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