第四章:31話 英雄の悲劇と、卑屈な漁夫の利

 スネーカーは、自身の持つ最新鋭の装備と、視聴者に向けたパフォーマンスに夢中になり、傲慢の術師団が敷設した緻密な魔法結界に気づかなかった。

​彼は、通路の中央を駆け抜けながら、魔導剣から派手な光を放つ魔力波を放ち、周囲のわずかなスライムを蒸発させた。

​キュオォン!

​スネーカーの派手な魔力発動は、結界を瞬時に起動させた。通路の壁面から、無数の光の鎖が飛び出し、スネーカーの四肢を高速で拘束した。

​「な、なんだ!?」スネーカーは驚愕するが、魔力的な拘束は彼の強化された肉体をも動かなくさせた。

​直後、通路の奥から、傲慢の術師団が現れた。彼らは、優雅なローブを纏い、スネーカーを見下ろす。

​「低俗な道化め。我らの偉大なダンジョン内で、無秩序な魔力を振りまくとは。貴様の『英雄願望』は、この傲慢のダンジョンにとって最大の汚点だ」

​術師団の一人が杖を振り上げると、拘束されたスネーカーの周囲に、鋭利な魔力の刃が高速で回転し始めた。

​「くそっ、助けろ!誰か!この英雄を助けろ!」スネーカーは、カメラが回っていることも忘れ、助けを求めて叫んだ。

​恭平は、影の中で息を潜め、状況を冷静に分析した。

​(このままでは、スネーカーは数秒で排除される。囮としての価値が失われる。だが、ここで正面から助けに入るのは、最大の愚行だ)

​恭平は、チキンソード(魔力は空だが知性は残る)を握りしめ、最小限の介入方法を探った。

​『マスター。傲慢の術師は、『優雅な魔法』を好みます。彼らが嫌うのは、『汚い、無秩序な魔力ノイズ』です。彼らの魔法の結界は、そのノイズを排除する労力を惜しみます!』

​恭平は、即座に動いた。彼は、レールガンを構えるのではなく、携帯していた「広域魔力ノイズ発生器(科学兵器)」を、通路の天井に向けて発射した。

​ヴヴヴヴヴ……キィィィィン!

​高周波の電磁波と魔力ノイズが、傲慢の術師団の敷設した結界全体を襲った。傲慢な術師たちは、その「低俗なノイズ」に顔を歪め、一斉に手を耳に当てた。

​「な、なんだこの汚い魔力は!結界が乱れる!」

​彼らが一瞬、ノイズへの対処に気を取られたその時、恭平は、レールガンを抜き放ち、拘束されたスネーカーの体ではなく、拘束に使われている光の鎖の『魔力供給源』を精密に狙撃した。

​ダッ!ダッ!

​狙撃は完璧だった。光の鎖の魔力供給源が破壊され、スネーカーを拘束していた鎖は、音もなく霧散した。

​「逃げろ!低俗な道化め!」恭平は、怒鳴る傲慢の術師団の混乱に乗じ、スネーカーに向かって叫んだ。

​スネーカーは、体が解放されたことに驚き、恭平が潜む影の方を見た。

​「お、お前は……!あの時の貧乏くさい…」

​スネーカーが恭平を認識する前に、恭平は再び姿を消し、通路の反対側へ全速力で逃走した。

​傲慢の術師団は、ノイズと結界の破壊に怒り狂い、恭平が逃走した通路へと、強力な追跡魔法を放った。

​「汚い鼠め!あの卑屈な魔力ノイズ!必ず捕らえて、最も汚い方法で排除してくれる!」

​術師団は、恭平を「ノイズ発生源」として認識し、彼の追跡に注力し始めた。

​(成功だ。俺は、ノイズと卑屈な逃走で、奴らの注意を完全に引きつけた。スネーカーめ、お前はここで死ぬなよ。まだ囮の役割がある)

​恭平は、自身の「逃走」によって、傲慢の術師団の目を、完全に暴食のロードの居場所から逸らすことに成功した。

​一方、解放されたスネーカーは、混乱の中で、自身の英雄的な瞬間が台無しにされたこと、そして、自分を救ったのが、自分が軽蔑したはずの「貧乏くさい冒険者」の卑屈な技術だったという事実に、激しい屈辱を覚えていた。しかし、彼の英雄願望は尽きない。彼は、恭平が逃げた方向とは逆の、ロードの居場所へと向かって、再び走り出した。

​「待ってろ、暴食のロード!この屈辱は、会合で晴らしてやる!」

​恭平は、このスネーカーの動きを予測していた。スネーカーは、恭平が囮として役目を終えた今、暴食のロードとの交渉という「英雄的な舞台」を優先するだろう。

​恭平は、傲慢の術師団の追跡を躱しながら、彼らを遠くへ誘導した後、再び『食糧庫』エリアの奥へと向かった。そこには、スネーカーが知るはずのない、暴食のロードへの真の秘密の通路が存在する。

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