第四章:30話 英雄の突入と、恭平の追跡
翌朝。暴食のダンジョン入口は、いつも以上の熱気に包まれていた。スネーカーのチャンネルは、「単独!ダンジョンマスターとの秘密会合へ!」という刺激的なタイトルで、過去最高の視聴者数を記録していた。
スネーカーは、カメラに向かって力強く宣言した。
「私たちが、人類とダンジョンマスターとの架け橋となる!この国を、そして世界を、大罪戦争の危機から守ります!」
彼は、恭平から送られたルート座標を完全に信用し、誰にも明かさず単独で、ダンジョンの深層へと突入していった。彼の表情は、不安よりも、歴史的な任務に挑む高揚感に満ちていた。
恭平は、群衆の中に紛れながら、スネーカーが去るのを静かに見送った。
『マスター。スネーカーは、完全に貴方様の策謀にハマりましたね。彼の『傲慢』が、貴方様の『卑屈』な罠を完璧に受け入れました』
チキンソードの評価に、恭平はわずかな嫌悪感を覚えつつも、すぐにそれをビジネスライクな思考へと切り替えた。
「行くぞ、チキンソード。奴がロードとの交渉を始め、傲慢の魔法使いの目を引いている間に、俺が『真の取引』を成立させる」
恭平は、スネーカーが選んだルートと同じ裏ルートから、ダンジョンへの潜入を開始した。そのルートは、暴食のダンジョンの中でも、最も「汚くキツく」て「暗い」通路で、通常の冒険者は絶対に使用しない。しかし、チキンソードの解析と恭平の知識により、このルートは、傲慢の魔法術師団の先遣隊が仕掛けるであろう魔法的なトラップを回避し、かつ、スネーカーの派手な行動から最も離れる、究極の逃走経路でもあった。
地下5階。恭平は、スネーカーの通過によって開かれた、いくつかの小さなモンスターの残骸と、わずかな魔力の乱れを追跡しながら進んでいた。スネーカーは、自身の戦闘技術と装備を過信し、恭平が送った「魔力干渉術式」すら使わず、力任せに敵を排除しているようだった。
「馬鹿な奴だ。無駄な労力ばかり使いやがって」
恭平は、スネーカーの残した戦闘痕を避け、慎重に移動する。彼の目的は戦闘ではない。
深層階、「食糧庫」エリアのすぐ手前で、恭平は、異様な緊張感を察知した。それは、暴食のダンジョン特有の魔力ではない。高密度に集約された、異質な魔法の魔力だ。
「チキンソード。傲慢の魔法使いか?」
『はい、マスター。傲慢のロードの先遣隊、高位術師が展開しています。彼らは、スネーカーの進入を待ち構えているようです。恐らく、スネーカーの『目立つ』行動が、彼らの『プライド』を刺激し、排除対象として認識されたのでしょう』
恭平は、身を隠し、慎重に状況を観察した。傲慢の術師たちは、スネーカーが通るであろう通路全体に、複雑な魔法結界を敷設していた。結界は、物理的な接触だけでなく、大声や派手な魔力発動にも反応するように調整されている。
(スネーカーめ、お前は自分の『傲慢な英雄願望』のために、自ら最高の標的になったというわけだ)
恭平は、ここでスネーカーが結界に引っかかり、傲慢の術師たちと壮絶な戦闘を繰り広げることを望んだ。それが、恭平が暴食のロードと安全に接触するための、最大の『囮』となるからだ。
恭平は、レールガンを構え、いつでも介入できる準備を整えた。ただし、その介入は、スネーカーを助けるためではない。スネーカーが死に瀕し、『囮としての価値』が失われた時に、彼を結界の破壊工作に利用するためだ。
その時、通路の奥から、スネーカーの威勢の良い声が響いてきた。
『待ってろよ、暴食のロード!俺が、平和の協定を締結する!』
スネーカーは、派手なエフェクトを伴う魔導ブーツで、結界が敷設されている通路へと、堂々と突入してきた。
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