余毒
「どこにいるか知ってんの?」
「うん。行ったことあるから。」
もう変装は解いて階段を駆け上がる。途中に会った奴らは全て割っておいた。でもやっぱり強くなっている。きっとそれはモナの血を一滴でも飲んだから。
「お兄ちゃん!」
バコンとドアを開けると、お兄さんは笑顔でデスクの前に座っていた。気持ち悪いほどの笑顔だった。手下らしきやつらもゾロゾロと入る。
「…そいつはどうしたの、モナ。」
「ごめんなさい。でも…もう決めたから。」
「…俺はただモナが好きだっただけだよ。」
「本当に好きならこんなことしないよね。」
「そいつになにか吹き込まれたんだ。すぐに消してしまおう。安心してね。」
「…それはちょっと無理かな。私たち、ずっと前に『生きて帰ってこよう』って約束したもん。」
「あー竜の時か。そんなのもあったな〜…。」
「…そっか。残念だよ…。でも俺は、たとえモナに殺されようと本望なんだ。えーと…こうだっけ?」
お兄さんがモナの手を自身の胸につける。すぐにでも宝石は握れる。
「…お兄ちゃんありがとう。大好き。」
そう言ってモナが目を閉じた。…時だった。
ガリッ
お兄さんがモナに噛み付く。モナが苦しそうな声を漏らした。でもまだ抱きしめている。いける。ここは俺の場所じゃない。
だが後ろでは、そんなモナをめがけた剣が振り下ろされようとしていた。危ない!
精一杯走って、モナを突き飛ばす。
ザクッと音がして、背中に熱い感覚が。
頭がグラグラして、背中が熱い。モナの声がこだまする。あれ?俺大丈夫かな…。
「コウ!やだ!コウ!」
力が入らない。
「許さない…!お前ら…!」
霧の中にいるようだ。
「その宝石、かち割ってやるから…!」
だが一気に現実感が戻ってきた。モナが笑っている。思い出すのはあの夢。赤い雨の夢。あれと全く同じように笑っている。
雅に、艶やかに、無感情に。
舞が始まった。軽やかな足運びで優雅に腕を振るう。音楽などないのに、ひとつの曲の上を滑っているように見えてくる。
いつのまにか起き上がり、モナの方を見ていた。
「綺麗…。」
これは俺の感想だ。
お兄さんは倒れて動かなくなっていた。でもまだ息はある。割る直前だったのだろう。代わりに手を重ねる。
フワフワとしたなんとも言えない空間に漂う、ひとつの宝石。やはりヒビは入っていたが、とても綺麗で、透き通ってはいないが美しかった。
パリン
ありがとうございました。お兄さん。
そしてその10分後。モナが赤く染まって帰ってきた。マジであれ、正夢だったんだ…。
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