幼気

 やけにざわついているところがある。反応は2つ。2人一緒に起こったか。

 まず人混みをかき分けるのは無理。時間がかかる。走った勢いで、上に跳ぶ。

 目標確認。男性2人が暴走中。まだ人は食われていない様子。周りには幸いにも『何か』のみ。人はいない様子。と、思ったところ、今日何度も聞いている声が鼓膜を揺らした。


「コウー!」


 え!?母さん!?どうやら追いかけてしまったらしい。するとだ。『何か』2人はそっちに跳び上がった。母さんが人間だとバレた。とりあえず何かを口にしたかったのだろう。捕まりづらそうな俺より、ほぼ無力な母さんの方が安全。


「え…!?」


 母さんの顔が白くなる。多分頭をよぎったのは父さんだろう。いくら夫と言えど、怖いものは怖い。痛いものは痛い。だってほら、腕を押さえてる。


「クソがっ…!」


 ちょっと乱暴に踵落としをくらわせる。その時だ。ビュオオッ!と風の音がして、もう1人は倒れた。


「あれ!?コウがいる!?」


 モナだ。相変わらずの鈴を転がすような声で驚いている。そしてすぐに宝石を潰す。俺も潰しておいた。


「はじめまして。コウの母です。いつもお世話になっております。」

「い、いえいえ!コウには迷惑ばっかりかけちゃって…。あ、コウの友達兼後輩の栗花落モナです…。」


 先ほどとは打って変わって、ホワホワ空間が広がる。あんまりモナには会いたくなかったけど、まあ仕方ないと思って過ごすことにした。でもなんだか恥ずいから、聞き耳は立てないでおく。回収されようとする『何か』を見ていた。


♢♢♢


「それじゃあ、私はこれでっ!コウ、次は任せてよね!」

「はいはい頑張れよー。」

「お母さんも、ありがとうございました!」

「いえいえ。気をつけてね。」

「はい!」


 モナちゃんはそういうとどこかへ走っていってしまった。


「母さん怪我は?」

「大丈夫。」

「重いでしょ。荷物持つよ。」

「このくらい平気よ。」

「いいから。今日くらい良い顔させてよ。」


 息子が、立派になっていた。こうやって仕事してたんだーと間近で見て、余計に思った。身長も追い越され、頼れる雰囲気にもなり、少しの気遣いもある。…段々と、私の手を離れている。嬉しくて、寂しい。


「母さん?」

「あ、ごめん。」

「考え事?」

「…少し、ね。…なんで私が会いたいなんて言ったか分かる?」

「なんだろう…普通にふと思ったのかと解釈してた。」

「…実はゲンさんから定期的に連絡をもらってて…。この間、ちょっと無茶して死にかけたんですって?」

「あ〜…まあ…。」

「それを聞いて、心配になっちゃって。今日、もし本当に様子がおかしかったら退職するように言おうと思ってたの。でも…大丈夫そうみたいね。」

「うん。心配してくれてありがとう。」

「…なに大人ぶってんだこの〜!」

「ちょっ母さんやめてって、恥ずいから。」


 撫で回された頭を少し自分でも触ってしまうコウが、とても可愛かった。

 どこまで行っても、結局は私の息子なんだ。そう思った。


「コウは可愛いね。」

「はぁ?可愛くないから。」

「少なくとも私にはめっちゃ可愛く見えるよ。」

「…そう。」


 大人になったね、コウ。

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