未聞

 久しぶりの実家。なのに少し気まずい。だって最近会ってないし、会ってない間に成長期来ちゃって身長めっちゃ伸びてるし。ゲンから渡すように言われた手土産が隣で揺れる。

 このこじんまりとした一軒家が、大きく見えた。


 ピンポーン


 丸い音でベルが鳴る。するとドアがガチャリと音を立てて、長い髪を後ろで束ねた女性がひょこりと顔をのぞかせる。


「コウ!おかえりなさい!」

「…ただいま。」


 一軒家に母さんは1人で住んでいる。ちなみに40歳。俺が17だから…まあ出産年齢は察してくれ。父さんとは歳の差婚だったのだ。


「これゲンから渡せって言われた。」

「あら、ゲンさん元気?ありがとうございますって伝えておいて。」

「ゲンは普通にピンピンしてるよ。」

「そう?ならよかった。仕事の方は大丈夫なの?竜いた時もあったじゃない。」

「全然平気。」

「ゲンさん…は、もう現役引退だから…1人で倒したの?」

「…いや…2人。」


 それを聞くなり母さんの話すスピードが加速する。誰なんだ。どんな人なんだ。いい人なのか。

 昼食の準備をしながら母さんのマシンガントークは炸裂していた。

 用意されたのは卵炒飯とパリパリサラダ、鶏がらスープだった。

 母さんの味は覚えていない。けど、とても美味しい。


「で?どんな人なの?」


 母さんがコップに麦茶を注ぎながら聞く。


「…これ。」


 見せたのはモナの写真だった。桜を見に行った時に撮った写真。後ろの背景がほぼピンクに染まっている。


「…え!?女の子なの!?」

「…まあ。」

「しかもすごい可愛い子…。ラッキーじゃない?」

「別に普通だよ。すぐ転ぶし怪我するしでめんどくさい。…けどまぁ、嫌い…ではない。」

「好きなんだ。」

「違うって!」

「あら珍しく怒ってる。」

「……おかわり。」

「はいはい。」


 やっぱり母さんは変わらない。明るく優しく、時折ふざけてみせる。でも包容力のある人だった。

 昼食を済ませて、2人で商店街へ出かける。買い物だ。


「この服とこの服、どっちの方が似合うかな。」

「どっちも似合いそうだけどね。」

「え〜?」

「…せめて言うなら、左手に持ってるやつの方が新鮮かも。母さん青っぽい服多いじゃん。」

「確かに…。じゃあこっちにするね。」


♢♢♢


「なにをお探しで?」


 次は肉屋だ。量り売りが特徴で、ここのメンチカツはとても美味しい。

 

「鶏もも肉一枚お願い。」

「あいよっ。それじゃあ…400円くらいでどう?」


 ちなみに俺は母さんの真似をすることがたまにある。


「…もう少し安くできない?」


 ほらこれもだ。以前俺がモナと武器屋に行った時のテンション。これは母さんが行っているのを見て学んだ。


「じゃあサービスで380円!」

「それじゃあそれにプラス、おまけでメンチカツをひとつ。今日息子が久しぶりに帰ってきてるのよ。いつもは全然会いにきてくれなくて…。」

「…それじゃあおまけでつけるしかねぇな!分かったよ!」

「ありがとう。助かるわ。」


 結局おまけでついてきたメンチカツはサクサクで、本当に美味しかった。


「コウ、これ好きだものね。よく小さい頃なんて『お母さん買ってー』って服引っ張りながらおねだりしてて…。」

「恥ずいからやめてよ…。」


 ふと気づく。母さんってこんなに小さかったっけ。多分俺の背が伸びただけだろうけど、母さんは実はこんなに身長が低かったのかと思ってしまう。昔はすごく背が高く見えたはずなのに。今や俺の方が高いのだ。

 そんな時、ふとザラザラとした感覚が。結構近い。商店街の中。


「コウ?」


 いや、モナに任せればいい。でも近くで起きていることを休暇を理由に見過ごしていいのだろうか。


「…母さんごめん。ちょっと仕事してくる。」

「え!?」


 メンチカツをすぐに平らげ、服の紙袋を預け、本当に一応、確認しに行く。モナを信用していないわけじゃない。ただ少し、確認しに行くのだ。


「すぐ戻るから。」


 それだけ言って、駆け出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る