客裡

 吐き気やだるさはないんだけど、やけにぼーっとしてしまう。ソファに座って落ち着くのを待つ。


「大丈夫?ちょっと顔赤いよ?」

「………。」


 モナが隣に座って不安そうに見つめる。まつ毛長いな…。髪も今日はお馴染みの髪型…モナはハーフツイン団子って言ったっけ…。

 なんか今日はやけにモナが輝いて見える。モナの細かな動作ひとつひとつが目につく。なんかこのままじゃ危ない気がして、外の空気を吸うことにした。


 エレベーターで1階にあがり、近くのベンチソファに腰掛ける。あ、水でも持ってくればよかったかも…。


「………。」


 水と解毒剤を持ってモナも来る。心配なのか俺の隣に座ってチラチラ見てきていた。なんか気まずくて逆に見つめてみたら、モナは視線をそらした。


「…なんで来ちゃうかな…。」

「え?なんか言った?」

「…なんでもない。水ちょうだい。」

「あ、うん。」


 水を受け取るフリしてモナの左手首をつかむ。そのまま壁に押し当てた。本当にぼーっとしていた。そしてそのままモナの唇に…


「コウ…!?」


 …と思ったらあと少しのところでモナに口を押さえられた。


「…え。俺何してんの?ごめん。」

「い、いやそんなこと…。」


 なんかもう怖すぎて壁の向こう側に座る。できるだけモナと距離を取った。

 

 あとで調べてもらったらそいつは媚薬だった。あーなるほどね?俺そんなもの飲んでたのかよ…。


 調べてもらった帰り道で、ふざけてまた手首を掴んでみる。


「コウ!?」

「はいはい。嘘ですよー。シラフでーす。」

「もう…!めっちゃドキドキしたんだからね!」

「ごめんって。でも近づいてくるモナも悪いと思うんだけどな〜。」

「えー?そんなことないよ。コウだもん。コウは比較的安全でしょ。」

「いやいや。俺も一応男ですから。ほらね。」


 片手で両手首を掴んでみせる。これでもうモナは手が使えなくなった。強く揺らすも揺れるだけで外れない。いつものモナは気が抜けすぎていて簡単にできてしまう。

 すると、モナは俺の耳にふーっと息を吹きかけた。ちょっと反応するとすかさず自身の手を太ももへ。俺がしっかり掴んでいるので俺の手も触れてしまう。スカートの裾ギリギリあたりだ。


「っ……。」


 やわらかく、あたたかいものが手に触れて思わず離してしまった。モナは嬉しそうに笑う。


「私も一応女なんで?まあ今回のは大サービスだけど。もう2度と触れないと思った方がいいよ!」

「いいよ別に。触らなくても困らないし。」

「え!?酷い!」


 その時、スマホからピロンと音が鳴る。音が鳴ったということは普段あまり話さない人からだ。だが、差出人の名前を見て『うわ…』と思う。


 母さんからだ。内容は、最近会ってないから来て〜というもの。うわめんどくせー。なんで母さんなのかな…。

 でも、最近会ってないのは事実だ。多分2年くらいは会ってない。久しぶりに会う…いやでもなんか恥ずいしなー。


「…モナ。俺明日、有給休暇とる。」

「え!?」

「なんか母さんに会いたいって言われちゃって、最近全く会ってないし…。」

「…分かった!明日は任せて!」


 ピッと胸を張るモナにあまり頼る気にはなれなかったが、仕方なく休暇を設けることにした。

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