モルガナイト

能筆

 桜も散り、もう木々には葉が茂っている。オークションからもだいぶ経ち、もう早苗月が始まっていた。俺の傷もだいぶ回復し、少し違和感を感じるくらいになった。昨日は服やら何やらをそれぞれの家へ持ち帰り、再びゲンの場所は仕事スペースとなった。今日はその仕事スペースに向かうよう言われているので走っている。遅刻しそうなのだ。まだ近道は竜の被害で走りづらくなっているので、いつもの道で急いでいた。


「おはようございまーす。」

「おはよう!」

「よく来たな…。」

「そのキャラは?」

「『威厳に満ち溢れたミステリアスなカリスマ上司』だよ…。」

「ミステリアスも何もねえだろ。」

「カリスマ…?」

「…はい。じゃあ全員揃ったところで…『第1回強化研修』〜!!」

「わ〜パチパチパチ〜。」

「わー。」

「お前らさぁ。この職について何も知らねえだろ。コウでさえ興味持ったことねえだろ。ってことで研修しまーす。」

「わー楽しみー。」

「超棒読みやめろ〜?」


 ということで研修がスタートしてしまった。ご丁寧にボロいパイプ椅子が用意されていたのはそのせいか。大きくなく、持ち運びしやすそうな安っぽいサイズのホワイトボードにケンが『研修!!』と大きく書き込む。ちなみにインクはカスカスだ。期待を裏切らないなぁ。


「お前らそもそもこの職業名知ってるか?」

「…この仕事…。」

「何かを倒す仕事…。」

「はぁ…なんとこの仕事…『掃除屋』だったんですよ…。」

「え!?そうだったんですか!?」

「まあ最近知ったけど。」


 確かに考えてみればそうかもしれない。暴走した『何か』を止めて、この世界を綺麗に保つ。掃除屋だったんだ…。っていうかゲンも最近知ったのかよ。


「そして…俺ら会社あったんすよ…。」

「マジかよ。あ、でも確かにゲンが上司だもんな。」

「俺らが勤めてたのは、その名も『Zircon』。」

「ジルコン…?」

「そう。ジルコン。はいコウ意味は!」

「えーと、『平和』…?」

「正解!ジルコンは平和の石なんだよ。」

「すごい!よく覚えてるね〜。」

「まあなんとなく…。で?」

「あ、そうだ。で今俺らがいるのがここね。」


 ゲンがピラミッドを描き、それを3つに分ける。1番下の段に『コウ&モナちゃん』、2段目に『俺!』と描いた。『俺』の主張が激しいな。


「1番下ですね!まあ予想してましたけど。」

「俺は中間管理職なのよ…。」

「どんまーい。」

「そしてこのピラミッドの1番上には社長がいます。俺も見たことないけどね。本部にいるんだよ。ここは東地域2番支部だから。あとはえーと…。あ、最近『何か』の種類が増えてるのって知ってる?」

「え?そうなの?」

「そうそう。まず、普通に暴走するやつでしょ?あとちょっと前に倒したような変化しちゃうタイプ。あと最近、知能もついてきてるんだよね〜。気配消せるやつと段々強くなっちゃうタイプもいる。」

「うわめんどくさ。」

「だろ?だから気をつけろよ〜ってこと。…そんなところかな!研修終わり!」

「ありがとうございました!」

「あざましたー。」


 謎の研修は終わり、いつもの流れが始まる…と思っていたが、今日はいつもではなかった。モナが棚の上の方に置いてある箱に手を伸ばす。が届かない。背伸びしても掠る程度だ。しょうがないので後ろから取ってやるとモナはやけに縮こまってしまった。これ以上小さくなってどうするつもりなんだよ。

 中身は薬だった。全て液体で、使えるものもあれば使えなさそうなものもある。


「これ、前から気になってたんだよね〜。あ、これ使えない。」

「どうやって見分けてんの?」

「見た目と匂いかなぁ。明らかに色が変わってるやつとかもあるから。あ、これも無理。」


 10数個瓶があったのだが、結局残ったのは3つだけだった。ゲンが現役の時からあったらしく、相当古いものだと思われる。そのうちのひとつには『解毒薬』と書かれたシールが貼ってあった。そしてもうひとつは毒薬だった。俺が全く同じものを武器屋で見たことがあったのだ。残りはひとつ。薄いピンク色の小さい瓶に入っている、この薬。ラベルもなければ見たこともない。


「…飲んでみる?」

「毒だったらどうすんだよ。」

「解毒薬はあるよ?」

「…じゃあ俺が少し飲む。ちょっと心配だし。」


 そう言ってそれを少しコップに出して一気に飲み干す。すぐ隣ではモナが解毒薬を持ってスタンバイしてくれていた。

 …あれ?待って。なんか変な気がする…。

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