小昼

「腰、まだ痛む?」

「大丈夫。」


 ある日のことだ。俺はモナと商店街を歩き回っていた。買い物と俺のリハビリも兼ねて。


「モナ〜!」


 モナがビクッと反応した。どこかで聞いたことある声…あ、お兄さんか。あの随分陽気な。

 モナがすぐ逃げるよと合図を送ってくる。


「久しぶり!元気にしてた?こいつに何かされてない?」

「大丈夫だよ。むしろ私の方が迷惑かけちゃってるくらいで…。」

「え!?絶対そんなことないよ!たとえモナが殺しちゃったとしても良いことだよ。」

「…そうなのかな…。でも悪いことだったし、ちゃんと謝ったよ。」

「えらい!なんてえらい子なんだ!」

「じゃあ私、もうそろそろ行かないとだから。バイバイ。」

「またね!」


 今日は本当にすぐ終わってしまった。モナ曰くコツを見つけたらしい。

 続いては地下にある武器屋。モナの短剣を買いに来た。先が少し欠けてしまったのだ。

 おずおずとモナが型名を言い、店主がそれを持ってくる。


「8000円だな。」

「え?もうちょっと安くしてもいいんじゃないの?」


 このノリで値下げを図る。モナもコクコクと頷いた。


「俺常連なんだけど?」

「…じゃあ7500円!」

「もうちょっと。」

「7000円…?これ以上は流石に…」

「え〜?ここで安くしておいて、モナが将来出世したらもっと儲かると思うんだけどな〜。投資ってつもりでさ。ね?」

「でもなー…。」

「こいつ、俺の見た感じ結構いいやつだよ?」

「…まあ、そこまでコウが言うんだったらしょうがねえな!分かったよ5500円!」

「やった。ありがと。」

「絶対買いに来いよ〜?」

「おじさんが死んでなければ買いにくるよ。ここ以上にいいお店、そうそうないからね。」


 あとは適当に食材を買うだけなので、ほぼ自由時間。俺はこの間のオークションの情報を売りに情報屋へ。モナは近くのたい焼き屋で休憩ということになった。


 情報、結構な値段で売れたなぁと思い、少し嬉しく戻ってみると、何やらモナが知らない人と一緒にいた。

 背の高い女数名がモナと話している。友達かな。でも、明らかにモナは疲れていた。無理して笑っている。そして時折俯く。少しためらったが、その会話を注意して聞いてみることにした。


「あはははっ!あんたそんな仕事してんの?」

「命かけるとか私無理〜。」

「っていうかそれしか仕事なかったんじゃないの?」

「あはは…そうかも〜…。」

「あ、そういえば私、今度パーティーを開くの。モナにも来て欲しいな〜。」

「私も行きたーい!もう彼氏と行っちゃう。」

「じゃあ私も〜。」

「いいじゃんいいじゃん!…モナは?行くよね?あ、もちろん彼氏つきで。」

「…え…でも…。」

「ん?なぁに?」


 重々しい空気が流れる。いや女子が怖すぎる。こんな会話できるとか頭ぶっ飛んでるだろ。逆に尊敬するわ。…で、どうしよう。俺が入ってもいい空気なのかな。いやーパーティーとかめんどくさそう…。…まあいいや。行かないでいいでしょ。そんなの。


「わあモナの彼氏とか楽しみ〜。」

「ちょっとやめてあげなよ〜。」

「………。」

「あ、出た。だんまりモナ。お前は何も変わらないね〜。安心しちゃう。」

「モナ。」

「え…コウ…。」


 柔らかく優しい笑顔を貼り付けて。声をワントーン高くして。あたかも今この状況を知りました風で会話に入る。イメージはただの優しい彼氏だ。そんなゲンのように細かく設定できない。でもこれうまいと思うんだよな〜。今の仕事辞めたら俳優になろうかな?たぶん無理だけど。


「友達?」

「うん。今、パーティーに誘われちゃってて…。」

「え…あんた彼氏いたの?」

「あ、いや」

「そうですけど?モナ。何も隠さなくてもいいじゃん。恥ずかしいの?」

「…うん…。」

「っていうかパーティーとかダメだから。だってそれ、他の男もいるんでしょ?やだな〜。俺だけのモナがいい…。」

「え…そうなの…?」

「うん。ってことなんで。パーティーにはモナも俺も行けません。ごめんね。それじゃあ。」


 ただ唖然とするそいつらを目に、モナの手を引っ張った。一応まだ見られてるかもしれないので、脇道に入るまでは距離感近めで歩く。

 脇道に入った途端パッと手を話して振り返った。


「俺、結構演技派じゃね?彼氏の演技めっちゃ上手くなかった?」

「…うん…。」

「あーはいはい。そんな辛気臭い顔すんなってー。俺まで気分下がるから。」

「…そうだねコウ。…めっちゃ演技うまかった!マジでどうしちゃったのかと思ったもん!」

「それな!あれはなんかこう…役にのめり込むっていうか、中に入るっていうか…。」

「で、中に入って宝石を潰すと。」

「おい殺してんじゃん。」

「…そろそろ買い物終わらせて帰ろっか。ゲンさんが美味しそうなクッキー缶隠してたし。」

「犬かよ…。」

「早くスーパー行っちゃおう!」


 モナが俺の手をつかむ。握手のような握り方ではなく、指もクロスさせるような握り方。段々と、距離が近くなっている気がした。

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