オパール

天使

「よそ見をするな…。」

「あ、喋れたんだ。」

「…小童が…。捻り潰してやる。」

「なら俺がその宝石割っちゃおうかなー。」


 お互いにグッと力を込めて殴りかかる。やっぱり腕の長さが違うせいか、相手の方が早く届く。

 ビュオオォ!

 風切音が耳元で響く。頬が切れた。腕をいなそうとするも、頭を掴まれる。

 まずい。と同時に地面が迫った。

 頭を打った衝撃で若干クラクラする。早くガードしろ!でも間に合わず、腕にヒビが入ったような感覚がした。

 観客の歓声が鳴り止まない。やっぱり人間は『何か』に支配されるしかできないのだろうか。違うと言いたい。食い物だって、抗っていい。


「…まだ立つか…。」

「諦めるわけには…いかないんで…。」

「なら一撃で仕留めてやる。お前たち人間は…なにもできないのだから。」

「…どうだか…。案外違うかもしれねぇじゃん…!」


 精一杯そう言って立ち上がる。だが、目と鼻の先にはもう拳が。なんとか手を出すも、すごい勢いで吹っ飛んだ。

 俺が特別な体質じゃなければとっくに死んでいる。今もこんなにフラフラしているのだから。でも気づけば観客の声は少しおさまっていた。なんだ?


「…あははっ!」


 俺とその男とモナ以外、全員が倒れていた。倒れたやつが山になってモナの足場を形成している。スピードが尋常じゃない。そしてモナはとても楽しそうだった。ニコッと笑う。あの時ほどではないけど、俺らを小さな子供を見るような優しい目線で見ている。


「…私…なにするんだっけ。えーと、えーと…あ、君を倒すんだ!」


 鬼の男を指差して、ピッと胸を張る。…やっぱり、と思ってしまった。


 この職につく奴らは変なやつが多い。俺を含めて。追い込まれれば追い込まれるほど楽しくなってしまうのだ。そしていつかリミッターが壊れる。我が身が朽ち果てようとも、仕事を完遂させようとする。

 俺が、竜に飛び込んだように。

 今モナがそのゾーンに入っている。なにをしでかすか分からない。警戒しつつ、モナの様子を見ることにした。


「…よろしくね。」


♢♢♢


 体が熱い。燃えているみたいだ。狙いを定めると、そいつの宝石しか見れなくなった。でもとにかく楽しい。すごく楽しい。まさに絶頂。これほどワクワクしたことはあっただろうか。

 1発だけ撃ってみるが、まあ当たらない。仕方ない。距離を詰める。


「…遅い。」


 本当に遅く感じる。耳には呼吸音しか聞こえない。短剣は簡単に足に刺さった。

 この呼吸が途切れないうちに。この想いが止まらないうちに。


「おりゃぁ!」


 気づけば私は、宝石を割らずに、宝石の場所に短剣を突き刺していた。あいつが倒れていく。


「はぁ…。はぁ…。」


 よし。あと1人。

 え?なんで?

 こいつさえ仕留めれば…!

 違う!コウは殺さない!

 ワクワクする…!

 待って!やめて!


 気づけば私は、コウの心臓に目線を移していた。止められないワクワクのやり場を見つけてしまった。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る