刮目

「…気持ち悪い。」

「大丈夫?」


 悪夢を見たせいか、まだ頭のクラつきがおさまらない。


「…シャワー浴びてくる。」


 そう言って部屋を出た。

 しっかりしろ俺。あんなこと、今まで大して何とも思ってなかったろ。


「タオル置いとくよー。」


 モナの声が聞こえる。適当に返事をして、少しぼーっとした。

 上がる頃にはそれはもうスッキリしていて、ゲンが夜ご飯を用意してくれていた。


「ごめん心配かけた。もう大丈夫。」

「そう。ならよかった。」


 ニコッとモナが笑う。あの時と同じように。

 死なないでほしい。そうモナに思っていたんだ。俺は。いつもなら、後輩なんてどうでもいいはずなのに。


「…髪、今度は結ばないんだね。」

「うん。夜ご飯用意してもらってる間に山の中でアイロン見つけちゃってさーかけちゃったよ。可愛くない?サラサラストレート。」

「…うん。かわいい。」


 そう言って味噌汁に口をつける。ふと目線をあげると…ゲンとモナがこちらを凝視していた。


「お前…。お前ー!お前!…お前ー!」

「なんだよ。『お前』しか言語がないのか?」

「いやー…ねえ。」

「はい。」

「はい…?」


 とりあえず無視して食べ進める。なんで反応したんだろう…。…あ。やばい、あれ言ったんだ…!

 机に両肘をつけて顔を覆う。絶対今赤くなってるって…。うわ…はずい。



「準備大丈夫?」

「うん!銃も短剣も持ってるよ。コウは銃だけでいいの?」

「まあナイフは使いずらいし。元々素手でやっちゃうし。」

「うわー手加減しないねー。私、短剣なら気絶で終わらせられるかなって思って用意してるのに。銃は死んじゃうじゃん。素手も宝石用だろうし。」

「…まあ、誰でも分け隔てなく?」

「そこで平等の精神来ちゃうかー。」

「じゃあ…。行ってきます。」

「行ってきまーす!」

「いってらっしゃい。生きて帰ってこいよ!」


 昼の場所へ戻り、少し待つ。するとあの口だけ男がやってきた。言った通りついていくと、そこには大きな扉が。入ると…。


「うわぁ…!こんな広い場所があったなんて…!」


 バスケットボールのスタジアムのような構造で、2階席はないが1階の席がすり鉢のように並んでいる。あの中心部の広いスペースで行うのか。そして、入るや否や、多数の視線に晒される。まあそりゃあ敵が入ってきたのだしそうだろう。

 ご丁寧に案内されたのは最前列の席で、商品も観客も俺たちを見やすくなっていた。

 飲み物を買って、一応検査もしておく。反応なし。飲んでいい。モナも段々と緊張してきたようだ。


「なにそんなに緊張してんだよ。」

「だって、今完全にアウェイな空気じゃない…?」

「…まあ別に気にすることじゃないよ。はい飲み物飲んで。」

「うん…。」

「あ、そうだ。あの最後の商品以外にも、欲しいものがあったら行くからね?っていうかゲンのとこの備品、そんなのばっかりだし。」

「…ほんとに?」

「そうですねー。だから…ま、途中までは気楽に楽しみましょうよ。」

「…ですね。あ、始まる!」


 照明が暗くなり、中心にスポットライトがあたる。立っていたのはあの口だけ男だ。やっぱりなにか偉い立場だった。そいつのスピーチを聞いて、そしてやっぱり、俺らが大々的に告知される。

 今まで勝ったやつはいないだの、スーパールーキーだの。無理やり持ち上げている気しかしない。


「…全く嬉しくないんだけどー。」

「同じく。」

「スポットライト眩しい…。」

「それな。」


 さあ、いよいよオークションが始まる。

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