クリオライト
昼行燈
「お前ら、これまた大きな仕事持ち帰って来たな〜。」
「24時だから残業代よろしく。」
「はいはい。」
「銃ってどこにありますー?」
「あーそっちの棚の上から2番目の箱。」
「ゲン、夜ご飯はー?」
「俺はお前のマネージャーかっ!」
「仕事行ってきます!」
「はい行ってらっしゃい!」
準備を整えつつ、たまに来る仕事にも対応。ゲンのツッコミもフル稼働だ。
ゲンがオークションについて調べてくれて、それを見ながら頭に情報を入れておく。
本当に商品は人間の女だった。そしてなかなか強そうなメンツ…。めんどくせぇ〜。…今回はモナにも気を配りながらやらなきゃいけないのか…。前回はとりあえず全員倒したらいい状況だったからちょっと難易度上がってんな。
「終わりました!」
「はやっ!」
「それじゃあ…寝るか。」
「うん!…え?」
「だって24時に集合、25時から開催なんだろ?オークションには別の商品もあるんだし。目玉のやつが出てくるのは1番最後。少なくとも2時間はかかる。そうなったら本腰入れるのは朝の3時からだ。」
「…眠くなるね。」
「だろ?今のうちに寝ておかないと。」
今までは俺だけだったので薄い敷き布団がひとつ。ちなみに枕は消えた。掛け布団はないのでタオルケットで代用。ゲンが使っていたものは古すぎて捨てられた。いやぁ、こういうところでこの場所の質が分かるよなぁ。
「モナはそっちね。俺はこっちで寝るから。」
「え、ソファでいいの?寝づらくない?ちっちゃいし。」
「サラッとうちのソファちっちゃいって言ったね!?」
「…でもまあ慣れてるから。モナはそっちで寝なよ。」
「…じゃあ私もソファで寝るっ。」
「え、なんで?」
「私、雨に打たれて濡れている人がいたら、傘に入れずに一緒に濡れてあげるタイプだから。」
「ふーん…?じゃあその布団はゲン…?」
「業務中だよ!」
ソファに寝っ転がって、天井を仰ぐ。
テーブルを挟んだ隣ではモナが寝っ転がっている。
「おやすみ〜。」
「おやすみ。」
「おやすみー。ちゃんと寝ろよー。」
目を閉じて数字を数える。
段々と脱力していく。
どこかを歩いていた。ここはどこなんだろう。
雨が降ってきた。赤くて黒い、血の雨だ。気持ち悪いけど、防ぐものを持っていなくてただ濡れる。血は俺の服や髪を染めていく。
嫌だ。気持ち悪い。その時だ。誰かが俺の前に立ち止まった。
モナだ。傘を持っていて、まだ綺麗な状態。でも、なぜだろう。その傘をモナは閉じてしまった。そして投げ捨てた。
モナの黒髪や白いシャツを赤い雨が濡らしていく。
とても艶やかに、魅力的に、モナは笑っていた。くるくると回ったりトントンとステップを踏んだりして踊っている。とても綺麗だった。
思わず手を伸ばすと、モナは逃げてしまう。反射で追いかける。それから少しすると、モナは振り返ってニコッと笑った。するとどうだろう。
次の瞬間、モナは竜に食べられた。
あの時倒した竜だ。モグモグとよく噛んで、ごくりと飲み込む。そして口から血が垂れた。モナの血だ。
すると地面からあの時、この時、その時倒した『何か』たちが湧いてくる。俺の体を掴んで引き摺り込もうとしている。
赤い月が輝いていた。忌々しいほどに綺麗だった。
「…コウ…。コウ…!」
「ん…?なんだモナか…。今何時…?」
「23時だよ。大丈夫?すごくうなされていたけど。」
「………。」
なんとなく怖くて、モナの頭をぽんぽんと叩いた。大丈夫。生きてる。ただの夢だ。
「なんでもない。それより準備しないと。」
でも脳裏には、まだあの艶やかに血の中で微笑むモナがいた。
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