ラピスラズリ

天竺牡丹

 あ〜私のバカ〜。

 コウと散々遊んで帰ってきて、お風呂上がりで大きいクジラのクッションにダイブ。わー、と顔をクッションに埋め込んだ。さっきからずっとこの調子。

 なぜだろう。なんであんな顔しちゃうんだろう。めっちゃ赤くなってたよ私…!

 別にコウのことはなんとも思ってない。別にただの友達、または先輩だし。恋愛対象じゃないし!


「あー!」


 ジタバタともがくが、あの行いは無くならない。コウのことが気になってんの?いやいやいや。ないない。

 多分こんなの一瞬の感情だ。どうせ明日には消えてなくなる。どうせ忘れる。恋愛漫画を読むのは好きだけど、自分に恋人が欲しいかと言われたら悩む。だって仕事あるし。どーせ別れて傷つくんだろうし。自分を卑下するんだろうし。そんなハイリスクなことしたくない。

 恋はくだらないことなのだ。


 でもちょっとだけ、思わなくはない。もし、私に彼氏がいたら、楽しいのかなぁ。とか、どんな感じなのかなぁとか。

 


「ねえ。」

「ん?」


 翌日の見回り中、なんとなく話しかけてみる。


「コウって彼女とかいるの?」

「…いるように見える?」

「ううん。」

「でしょ?いないよ。」

「じゃあ私は彼氏いるように見える?」

「…4、5人くらいなら。」

「え!?そんなことしないよ!っていうか彼氏もいないし!いたこともないよ!」

「え、意外。いそうなのに。」


 確かに告られたことならある。何回か。でも全て断っているのだ。なんか彼氏とかイメージできなくて。それに、お兄ちゃんが許さないからなぁ。

 コウも告られたことはあるらしい。でも、全て断っている。仕事に支障が出ると困るからだって。マジで仕事人間じゃん…。

 まあとりあえず、今ここで私が告ったら間違いなくフラれる。…っていうか、告んないし!


 でも、仲良くなりたい気持ちはある。だってあんな死にかけの状態から脱却した仲だし?


「…好きな食べ物は?」

「え…?特にない。」

「苦手な食べ物は?」

「え…特にない。」

「………。」


 なんだこいつ!なんで好きな食べ物もないんだ!?仲良くなるきっかけが掴めない。もうこうなったら、あの人に聞くしかない!


「どうしたんだいモナちゃ〜ん!」

「…はい。えーと、」

「辛辣!」


 そう。ゲンさんだ。だって、何年も一緒にいるんでしょ?絶対何か知ってるよ。

 でもなんか切り出すタイミングがなくて、目だけが泳ぐ。ちなみにコウには「すごくプライベートな話」ということで待ってもらっている。


「…紅茶飲む?アップルティーならあるよ。」


 やっぱり気を遣われている。いつもなら絶対コーヒーを飲むゲンさんがアップルティーなんて飲むはずがない。絶対私のため。

 少し古いローテーブルにアップルティーが2つ。ソファに向かい合うように座った。


「…コウの…好きなもの…知ってますか…?」

「…え…?」


 え?なに?えってなに!?恥ずかしすぎて穴に入りたくなる。

 ゲンさんは少し悩んで、こう答えた。


「昔、チョコを渡したことがあるんだけどね?その時、ちょっと嬉しそうだったな〜…くらい。っていうかそんなこと聞くなんて…!まさか…!」

「違います!友達として仲良くしたいだけで…!」

「へ〜…。あいつ、結構レベル高いぞ〜。まず人間の女子にはモテるし、普通に顔もいいし、少しの気遣いもできるし?でも本人があんな性格だからな〜。」

「やっぱ難しいですよね…。」

「いや、モナちゃんなら勝機はある!だって後輩だし?いつも一緒だし?行けるでしょ!っていうか…、認めたね。」

「あっ!」


 やっちゃった…!うわー反応しちゃったよ。恥ずかしくて顔が熱かった。

 すると突然、ドアが開かれる。


「話すの終わった?」


 このタイミングでコウだ。何も言わずに頷くと、すぐに部屋に入ってくる。ゲンさんは元のデスクに戻って行ったのに、コウが座ったのは…私の隣だった。いや確かにいつもそうなんだけど!意識しちゃうじゃん!


「なに飲んでんの?」

「アップルティー…。」

「へぇ。俺飲んだことないんだよね。ちょっと飲んでみていい?」

「っ…!?いいですよ…!?」


 それを言うと、コウは空じゃない私のカップに口をつける。コウと私は同じ右利きなので、飲む位置は同じ。いや、これはやられたことなかった!やばいって!

 とにかく意識しすぎておかしくなりそうだった。


 すると、ゲンさんは驚くことを言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る