記憶 それは黄色い瞳の
「人間の娘一人守れないやつが鬼を守ろうとするなんて、馬鹿のやることよ。司法を司るトランクィッロ家の当主が聞いて呆れるわ。」
黄色い瞳の鬼が言う。
「お前、なんのつもりだ。」
「私は契約通り仕事をしに来ただけよ。」
銃口をこちらに向けたまま鬼は動かない。
「それなら知っているのだろう。俺は主としてやるべきことをしているまでだ。鬼であるお前に非難されることなどない。それとも、お前はそんなこともわからないほど落ちぶれたのか。」
「ふざけないで!私は貴方ほど落ちぶれてないわ。少なくとも、命を守ることで金を稼ごうなんて思わないもの。」
「同族の命を奪って金を稼いでいるやつが何を言う。それでも自分が誇り高き純鬼だと思っているのか。」
「えぇ、ええ!貴方は何を言っても分からないようだけれど、私は誓いを違えたりはしないわ。それなのに、貴方は、もう昔の貴方ではなくなった。それも私たちのせいかもしれないけど、だけどその不幸を背負っていいのは、あの子じゃないのよ。」
何故か、鬼は泣いていた。
炎がじわじわと近づいている。
あぁ、使用人たちは無事に逃げただろうか。
全ては俺の責任だ。
ただひとりの娘のために、俺は。
治らないと言われた娘の脚を治すには金が必要だった。貴族とはいえ、日々贅沢ができるほどの余裕は無いのがこの辺境の地にある我が領の現実。
金ならいくらでも払うと言われればその罪を見逃し、国から追われて出てきた人を匿うこともあった。だが、そこに同情などは無いに等しかった。
全ては俺の行いがもたらした結末だ。
俺は、ここで罪を償わなければならない。
たったひとりの娘を守れなかった責任を
果たさなければならない。
それでも。
「お前が何を言おうと、俺は娘を渡す気は無い。それよりは死を受けいれた方が100倍ましなんだよ。」
隣に座り込んで震えている少女を庇うように掻き抱いて、俺は目の前の黄色い瞳の鬼を睨みつけた。
「そうね。聞いた通り、本当に貴方は娘が大切なのね。だけど、仕方ないことなの。私もあの子も、仕事をしないと生きていけないのよ。」
炎の熱と匂いが部屋中に広がって、息苦しさを覚える。それは鬼も同じなのか、先程よりも低い押し殺すような声で告げた。
「貴方たちを、反逆罪でその場で処刑せよと命じられているの。特に、そちらの鬼の子は確実にと。」
僅かに間が空いて、発砲音が響く。銃弾が誰に向けられたものだったのか、言うまでもないだろう。
「ねぇ、私に貴方を殺させないで。
もしあの子が知ったら私は、」
「私を撃て。躊躇うな、鬼よ。
私は人間、お前たちの敵だ。」
鬼は何故かもう一つの銃を取り出して、それを俺に向けた。
「カルマート家が長女セレスト・カルマート。
私の名前よ。貴方の罪も私が全部背負ってあげるから。だから私を、彼女を忘れないで。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます