第9話 近所の公園で女児のトランポリン!

「おお!」


 いるいる。

 近所の公園に、子どもたちが。日曜の公園って、こんなにいるんですね。

 よし、さっそく女児にまっしぐら!


「やあ、お兄さんを踏んでくれないかい?」

「!」


 ビヨビヨビヨビヨビヨビヨビヨビヨビヨビヨビヨビヨ!


「うおー!?」


 突然鳴り響く、防犯ブザーの音!


「ちょ、ちょっと。あなたなんですか」


 駆けつけてくる大人!

 あ、お母さんかな。似てるわ、顔が。鼻とか。髪の長いおっとりとした、優しそうなお母さんだよ。


「別に怪しいものではないんです」

「うちの娘に何のようですか」

「ちょっと踏んだり馬鹿にして欲しいだけなんです」

「警察呼びますね」

「待って! 待ってください!」


 くそ、なんて世の中だ。俺は人間の味方だというのに。


「通報はしないでください。罵倒にしてください」

「なにあなた……頭大丈夫?」

「いいですね! そういう感じでいいんですが、憐れむのではなくて、蔑んでくれた方が良いです」

「ママ、このひと、きもちわるい」

「うほおおおおおおお!」


 これは行幸!

 通報されるかと思ったら、むしろ親子プレイに発展しました!

 

「気持ち悪いね」

「きもちわるーい!」


 目を閉じて、罵倒を味わう。

 最高だ……。母娘プレイなんて……。

 気持ち悪いと言われること、気持ちいい……。


「へん!」

「変だねえ」


 変です……変態です……。

 こんな公園にいる母娘から、こんなこと言われるなんて……最高だ。

 できれば物理的にも攻撃されたいなあ。


「おっ? その靴、プルキュアじゃない? いいね、お兄さんの同じようなものなんだよ」

「……えい」

「うひょおおおお!?」


 靴を褒めたら、足を踏まれました!

 しかし女児だから、軽いな。


「あの、もっと強く踏んでくれない?」

「きもっ!」

「気持ち悪っ!」

「うっひょおおお!」


 公園で、母娘から踏まれる!

 そんなことありますか?


「え、どうしたの?」

「なになに?」


 ベンチで談笑していたお姉さんたちもやってきた。


「ああ、この人ね。気持ち悪いの」

「きもいんだよー!」


 そうです。私がキモいお兄さんです。

 キモい兄さんだから、キモい兄さんと。


「そんなこと……」

「ごめんなさいね、そこの人」


 常識的な反応!?

 くそ、世の中普通の人が多いな。

 まあ、この人たちも結構キレイな女の人なんで、ボロクソに言われたい気持ちはあるな。意外といいですね、近所の公園。


「違うんですよ、僕が頼んで踏んでもらってるんです」

「は、はあ?」

「みなさんが和牛とか、牡蠣とかを今後も食べられるためなんです!」

「なにこの人、ヤバくない?」

「ヤバいかも」


 そう! それでいいの!


「ヤバいです! もっと言ってください!」

「やばっ」

「やばー」


 そうです、わたしがヤバいお兄さんです。

 あの収録楽しかったんだろうな。俺が今、楽しいように。

 俺も踊りたいもんね。

 なお、この間も女児が踏んでくれているので、踊れませんが。

 現状は、推定5歳の女児が足を踏んでいて、推定30歳のお母さんから睨まれていて、25歳くらいの女性二人から「ヤバい」と言われている、男子高校生がいる日曜の午前中の公園です。ありそうで無いことですね。


「あなた、何が目的なんですか?」

「叩かれたり、罵られたりしたいんです」

「……異常なドMってことですか?」

「あ、そう! その認識でOKです!」


 やった!

 話が通じたぞ!


「解散しましょう。ただの変態です」

「待ってください! 日本の食卓のためなんです!」

「なんなんですかそれ」


 くそっ!

 話が通じない!

 大人は駄目だ。まともすぎる。


「お嬢ちゃん。お嬢ちゃんは可愛いね。将来ものすごい美人になるだろうね。お母さんも美人だし」

「そう?」

「そうだよ。このリボンいいね。似合ってるね」

「ありがとー!」


 幼稚園児は純粋だなあ。


「あのね、お兄さんはね、かわいい女の子に意地悪されるのが好きなんだ」

「えー? 意地悪されたいの? 変なの」

「うん、お兄さんは変なんだ。助けてくれる?」

「いいよー」


 優しい……こんな優しい子に意地悪してもらえるなんて……ううっ。

 しかしお母さんの方がいい顔をしていない。ここは子どもを褒める作戦だ。子どもを褒められてイヤな母親はいないはず!


「お母さん。とてもいい子ですね。こんな僕のために」

「うーん。正直変な人とは付き合ってほしくないですけど」


 くそっ、大人は本当にまともだからイヤだ。

 チョロくなさすぎる。


「ママ、だって可哀想だよ? 可哀想な人には優しくしろってママ言った」

「そうですよ。可哀想ですよ私は。いろんな意味で!」

「はあ……まあ、あなたからは手を出さないでくださいね」

「もちろんです!」


 よし!


「わたしたちも見張ってますんで」

「いつでも110番できます」


 お姉様がたも協力してくれるってさ―!


「では、お嬢様」

「お嬢様!? お嬢様って呼ばれたー!」


 よろこんでくれたぞ、嬉しいなあ。両手をバンザイにして。カワイイことだ。


「お嬢様、どうぞ気持ち悪いわたくしめに意地悪してください」

「ふふん、いいわよ!」


 お嬢様になりきっててカワイイぞ。いいね女児。

 跪いた俺だが、それでも俺のほうが見下ろす形。正座しても駄目。しょうがない、寝るか。寝そべると、女児から見下される。普通に生きていたらこのアングルは一生無いかもよ?


「さあ、お願いします」

「うわー。じゃあトランポリンにするね」


 トランポリンとな……?


「よいしょ」

「ぐふおおおお!」


 靴を脱いだ女児がお腹に立った!

 いくら児童といえど、腹に乗ったらキツイぜ!

 え、待って?

 トランポリンってことは……


「ぽよーん! ぽよーん!」

「う! ぐ! ご!」


 え! ぐ! い!

 え! ぐ! い!


「お前すごいな」


 か! み! さ! ま!


「もうMPめちゃくちゃ溜まったぞ」


 やっ! た! ぜ!


「あはは! あはは!」


 や! め! て!


「あはは! あはは!」


 く! れ! な! い!


「あはは! あはは!」


 し! ぬ!

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