ソウル・オブ・ジ・オリジン編 11話「想いを黄昏に溶かし続けて」
「兄様・・・?兄様!」
「え・・・?ここは・・・エミン・・・!?だ、大丈夫か!?お前・・・身体は平気なのか・・・!?」
「兄様?もー!せっかくお花畑でピクニックに来たんだから、もっと楽しんでよ!」
僕は家の裏にある花畑で目が覚めた。妹のエミンは元気な笑顔で僕を呼び続ける。懐かしい光景だ・・・でも僕は疑い続けた。今目の前にいるエミンは、ずっと忘れてはいけない過去のものだ・・・。だけど、僕はこの夢の中に浸っていきたい、ずっとこの世界に居続けたい、そんな考えがよぎり続け、胸の奥底が熱く、そして心がチクチクと痛み始めるようだった。
「エミン・・・僕は・・・お前を失うのが怖いんだ・・・。」
「兄様?何を言っているの?だって、私は今、ここに・・・。」
「そうか・・・そうだよな・・・。ごめん・・・なんでもないさ、エミン・・・!」
エミンのこちらを疑いも持たない純粋な瞳、そして屈託のない笑顔が僕を現実に引き戻す。そうだ・・・この光景は虚像だ。ただの思い出に過ぎない夢なんだ。そう思うと、眼の前の景色が視界の端から燃え朽ちるように消えていく。そして、意識がこの夢から離れていく。
「~♪」
子守唄のような優しい歌声が聞こえてくる。木漏れ日が辺りを照らし少しずつ意識がはっきりしていく中、誰かに頭を撫でられている感覚が伝わり、視界に色がつくと僕はマルタに膝枕をしてもらっていた・・・・・・膝・・・枕・・・???今の状況を即座に理解した瞬間に飛び起きてマルタに振り向く。
「ハッ!ご、ごめんマルタ!僕寝ちゃってて!」
「い、いえ!わ、私も心配だったので・・・つい・・・。」
気まずい空気が辺りを覆う。
「リ、リヴァンさん!最後に寄りたいお店があるのですが、一緒に来てもらえますか?」
マルタのその言葉に、僕は少し安堵した。
「うん、いいよ。一緒に行こう。」
マルタと共に繁華街を抜けて、少し人気がない通りに出た。
「ねえマルタ、こんな通りに店なんてあったかい?」
「えーっと、今向かうお店はこの街の繁華街にあるような店ではなく、いわゆる骨董品などを扱う店、といったほうが正しいと思います。」
怪しい店・・・ではなさそうだけど、僕は一抹の不安を抱えながらとある店の前に着いた。
「アトリエ・・・ラーグルフ?マルタ、ここは一体・・・?」
「ここは私の師匠が遺跡で見つけたアイテムを店主が加工し、一般の人でも扱えるよう調節してくれるお店です。今日は師匠もいるはずなのですが・・・。」
マルタが扉に手を伸ばそうとした瞬間、店の奥からドタドタと音を響かせ、ものすごい勢いで扉が開いたと思ったら、薄緑色のロングヘアーをなびかせた長身の女性が飛び出してきてマルタを思いっきり抱きしめた。
「マルタちゃぁぁ~ん!!」
「わぁぁぁ!?し、師匠!?ちょっ・・・離れて下さい!暑苦しいです!」
「大丈夫?怪我してない?んも~私の可愛いマルタちゃんに何かあったら気が気でないわ~!」
マ、マルタのお師匠さん・・・これは、なかなかの人だったか・・・。唐突な異様な光景に、僕は身体を硬直させ、見てるしかなかったがマルタのお師匠さんが僕の存在に気づいたようだった。
「あら?あらあらあら・・・?あなた・・・もしかして・・・。マルタちゃんの彼氏さんかしら!?んも~マルタちゃんったら~そういうのもしっかり報告しなさいとアレほど言ったじゃないのぉ~。で?どこまでいったのよ~マルタちゃ~ん!手を繋いだ?抱きしめた?ちゅーした?まさかそれ以上も~??」
マルタは更に深く抱きつかれているようで、モガー!モガー!と声を発することもできないようだ。
「は、初めまして・・・!僕はリヴァンといいます!マルタとは冒険者仲間としてパーティを組んでいます・・・あ、あの!僕らは決して付き合っているというわけではなくてですね!あ!で、ですがマルタの事ははとても可愛いと思いますし!付き合うならマルタのような娘が良いとも思っていまして!あのえとそれでですねえっと・・・!?!?」
な、何を言っているんだ僕は!だめだ、頭が混乱してる!マルタのお師匠さんの前なのにお師匠さんの唐突な発言で平静を保てなくなっているのか!?落ち着けー・・・深呼吸だ深呼吸・・・。こういうときは心の中で・・・ん?マルタが・・・マルタが笑顔でこちらを見ている妄想が頭から離れない!?そんな思考を巡らせていると、僕は顔から火が出るぐらい頭が沸騰しているようだった。
「し、師匠・・・すみません・・・。私、しばらくこのままでいます・・・。」
マルタは抱きしめられながら徐々に無抵抗になって、わかりやすく耳の先が真っ赤になっていた・・・。
「あら、あらあらあらあら~。若いって良いわねえ~。あらごめんなさい。申し遅れたわ、私はマルタちゃんの師匠の、アンレーブ。アンレーブ=アルデバランよ。フフッ。ここで立ち話をしてもいいけど、ちょうど良い茶葉を淹れるところなのよ~。よかったら、リヴァン君も一緒にお茶しましょ?」
「は、はいっ!ぜ、是非っ!」
僕は身体がロボットのように右手と右足が一緒に前に出る不思議な歩き方をしながら、僕らはアトリエ・ラーグルフに入った。
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