ソウル・オブ・ジ・オリジン編 12話「親友を探す牡牛座の姫君」
店へ入ると、僕らでは到底手が出せないような、見たことのない様々な遺跡のアイテムが店中にズラリと並んでいる。だけど、まださっきの出来事が忘れられずにいて、妙にがんじがらめになった緊張の糸が解かれない状態が続いていた。
「リ、リヴァンさん・・・。」
マルタに服の袖をクイクイっと引っ張られた。心臓がはち切れそうになりながらも、マルタの方に向き直ると、マルタの顔は真っ赤になっていて、妖艶な表情ををしていた、僕はさっきの自分の発言を思い出して、僕らはまたぎこちない空気感に包まれた。
「リヴァンさん・・・さっきのリヴァンさんが言っていたこと、私・・・私!本気にしても・・・良いでしょうか・・・?」
マルタは僕の左手を両手で優しく握り、震える手を抑え、トロンとした目をしながら僕の目をじっと見つめてくる。そんな仕草や表情を見せられたら、僕だって意識しないわけがない・・・。左腕でマルタをゆっくりと抱きしめ、右手でマルタの頬を優しく撫でる。マルタは涙で目尻を少し潤し、ゆっくりとまぶたを閉じ、僕を待ち続ける。子猫のようなその愛らしい姿を目の前で見ると、心臓の鼓動が早くなり、抑えられない感情が背中を押すように、マルタの・・・顔を・・・じっと・・・見つめながら・・・マルタの唇に・・・吸い込まれるように・・・。
「んふふ~♪やっぱ若い男女の甘酸っぱい青春って良いわねぇ~♪」
アンレーブさんの声で僕らは、同時に我に返った。そうだよ・・・ここは店の中で、眼の前にはマルタのお師匠さんやこの店の店主の方までいるじゃないか・・・!その事実を勝手にヒートアップしていた二人で見つめ合いながら気づく。
「あ、ああ!・・・あ!マ、マルタ・・・ご、ごめん!ちょっと・・・もっと周りに気を配るべきだった・・・!」
「イ、イエ、ワ、ワタシ、ハ、シショウ、ニ、ヨウジ、ガ、アルノデ。」
マルタは操り人形のようなカクカクとした動きで店の客席に座り、表情が無表情の、なんというか・・・どんどんくるみ割り人形のような表情になっていく。あれ?なんだろう・・・マルタの周りだけがだんだん有名な画家の名画のような絵のタッチになってきてないか・・・?
名画になって固まっているマルタの横に座ると、マルタのお師匠さんと、この店の店主のような女性が、二人してニマニマした表情で紅茶とティーセットを持ってきた。
「ちょっとちょっとアンレーブ!このイケメン君はマルタちゃんの彼氏なのか?あんな積極的なシーンを見せられたら、アタシも燃えてきちゃったぜ~♪」
「まだまだ発展途上のうぶな関係らしいわよ~♪アタシもマルタちゃんがあんなに情熱的になれる男性が居たなんて知らなかったし、あの光景をじっくり拝めて、なんだか鼻血が出そうだったわ~♪」
は、恥ずかしい・・・!なんてところを見られてしまった・・・いや・・・見せてしまったんだろうか・・・ッ!!変な汗が止まらない・・・。マルタは名画のままだし、お師匠さんと店主さんは大盛りあがりだし・・・。頭が混乱し続けている・・・!
「あぁ、申し遅れた。アタシはこのアトリエ・ラーグルフの店主のビショップ・グラクシオンっていうんだ、よろしくっ、マルタちゃんの彼氏くん♪」
「うぐぅっ!?」
な・・・何も言い返せない・・・。
「ア、アノ、シショウ。レイノ、アイテムノ、カコウ、ハ、オワリマシタ、カ?」
「今日中は難しいかなって思ってたけど、ビショップがなんとかしてくれたわ~。はい、これがマルタちゃんに頼まれていた。【アストロの観測機】よ~。」
【アストロの観測機】は、ある水晶のような球体の中に無数の光の粒が、互いの命を絶やさないようエネルギーを循環しているように、混ざり合わずに廻り続けている。
「ア、アア・・・ワ・・・ぁ、わぁ~・・・!」
マルタの画風が元に戻っている!?マルタの遺跡オタクの部分が刺激されたことにより、急激に元に戻ったのか・・・!?マルタは目を輝かせながら球体に食い入るように視線を奪われている。
「アンレーブさん、この【アストロの観測機】って何のために作られたのですか?」
「この球体はアビスの魔力を観測すると、本来の空間の魔力と混ざり合い、真実の魔力に変換する装置、とも言えるわ~。ただ、一定の魔力を注入しながら安定化させないといけないからぁ~、熟練の魔道士でも扱いが難しい代物なの。特別な魔力も必要になってくるけど、あなた達はその心配はなさそうね~。」
「え・・・?アンレーブさんは、僕らについて何か知っているのですか?」
「これでもマルタちゃんの師匠よ~?特別なマナの流れを見る目をもっているからある程度のことはわかるわぁ。でもその特別の魔力の本質は見抜けないのよ~。別の要因で何かを隠匿されているような感覚に近いわね~。」
この力・・・紋章の力についてはあの遺跡に居た人たち以外にはまだ誰にも言ってないが・・・流石マルタのお師匠さんだ。
「師匠!この遺物は【旧オルマルナ時代】のモノですよね?この遺物の文献はそこまで出揃ってはいなかったはずですが、よく加工ができましたね!」
「マルタ、旧オルマルナ時代ってなんだい?」
「この前に向かった遺跡に【千機文明ヒエラコン時代】の文献がありましたよね?この遺物はヒエラコン時代から更に古い時代、この世界を構成している始まりの時計が作りし世界の基盤を作った世界が【旧オルマルナ時代】と言われています。ただ・・・。」
「ただ・・・なんだい?」
「【旧オルマルナ時代】は突如この世から遺物だけを残して歴史そのものがほとんど失われた文明なのです。ただ一つ、この時代を作った英雄の名称が【
ミシカル・・・アンセスター・・・。僕の記憶にある見知らぬ、そして懐かしいあの景色は、もしかしたら・・・。
「私があなた達にその遺物を渡す理由は、私の親友がドリームアビスに取り込まれことに深く関係しているわ。今でも彼女を探している・・・ずっと、ずっと昔から・・・。私が牡牛座の姫君としてこの世に名を馳せたとしても、何一つ情報を掴めなかったわ・・・。」
アンレーブさんは平気そうな表情をしているが、その笑みからはどこか悲しげな雰囲気を感じさせる。
「もし、もしよ。あなた達がその遺物で彼女の魔力を感知できたら、彼女・・・リトリュードを連れ戻して来てほしい・・・。それが私の、今生きている中での唯一の望みでもあり、取り返しのつかない未練でもあるから・・・。」
アンレーブさんは笑顔のまま、目尻を朱く染め上げている。きっと、涙は出尽くしているのだろう。アンレーブさんの親友が今も生き続けている望みは薄い、でもきっと生きていることを、その願いを捨てきれないでいる・・・。
「分かりました・・・アンレーブさん、きっと、いいえ・・・絶対見つけます!見つけてみせます!」
アンレーブさんは少しだけ、安堵したような表情になった。
「この遺物のお代は取らないわ。だから、あなた達に私の想いを託すわね。」
「師匠・・・。」
「アンレーブさん・・・ありがとうございます。」
僕とマルタは店をあとにした。
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