第27話 『ちんもくステーション』 その11


 ぼくは、ラジオを窓際にもってゆき、アンテナを伸ばして、その小さなダイヤルを回しました。


 でも、中波帯域では雑音以外はなにも放送は掴めません。


 それで、次に長波に切り替えました。


 長波は、地表に沿って遠くまで届きます。


 しかし、あまり期待はできないのは確かです。


 むかしと違って、長波はあまり放送にはもう使われていなかったからですが、ここは、夢の世界ですから、何があっても不思議ではありません。


 また、しかし、この小型ラジオが受信できる範囲は限られています。


 でも、もしかしたら、軍隊が使う信号が入るかもしれません。


 けれども、やはり、みな妄想で、何も人工らしき信号はありません。


 短波帯域も全滅でした。


 あとは、FM放送だけです。


 ささやかな期待はありました。


 火星の女王さまは、音楽家なのでしたから、FMを使っているかもしれない。


 雑音が、がーがーとざわめくなか、87MHzで、突然音楽が鳴り出したのです。


 『ドビュッシーだ!』


 それは、ベルガマスク組曲の『月の光』だったのです。


 小さなラジオの貧弱な音でしたが、まるで、天国の囁きのようだったのです。


 長い曲ではありませんが、中間部の高まりには、感動しないわけにはゆきませんでした。


 しかし、それは、すぐに終わりました。


 他の曲は流れません。


 しかし、アナウンスがありました。


 『ドビュッシーさまの、月の光でした。演奏は、地獄の女王さまでした。こちらは、FM地獄です。周波数87MHz。今日の放送は終わります。次は、地獄時間であすの朝7時から。ちんもくステーション中継局時間では、100年後の19時からです。みなさん、また、さようなら。』


 『100年後! そりゃ、参ったな。』


 ぼくは、呆気にとられました。


 しかし、そこで、あの電話が、また、鳴ったのです。




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