小話 春のまつり
「明日、明後日お祭りなんだね」
そう言ったのは、またいつの間にか家に上がっていた洸さん。今日、脇に置かれているのはペットボトル。そう長居するつもりではないようだ。
「そうですね、駅前も随分飾り付けられて」
「楽しそうだよね。……それでなんだけど、これで希と遊びに行きなよ」
おずおずといった様子で差し出されたのは、10枚の一番小さい紙幣。思わず眉を顰める。
「こんなに使いませんよ」
「そうかな? 最近の屋台は結構するでしょ。残ったら残ったで好きにすればいいから」
それだけいって、彼女は足早に出ていってしまった。
「なんというか、不器用だねえ」
翌日、事情を事務所で話せば、末本さんは窓に向かって煙を吐きながら溢す。
「2人とも先約はいるの?」
「いえ、隣町でそれなりに遠いですから」
「私も。一緒に行く人もいませんし」
「まあ、じゃあ2人で行ってきな。この祭りは最近には何かに登録されたはずだし、神とも交流する我々からすると祭は得るものも多い。ぼうっと依頼を待つよりも、囃子を聞くだけでもそっちの方がいい」
祭りと言えば屋台となりがちだが、立ち返れば神に捧げるもの。ただ遊びに行くのではないと思えば、洸さんたちの提案も頷ける。そう考え、お言葉に甘えることにした。
通りに出れば、昼時なのも相まって多くの人が行き交う。いろんな音が声がざわめいて落ち着かないが、それも楽しげな祭りの雰囲気を作っているのだろう。
さて、隣の希だが俺がイカ焼きを1つ食べ終え次のに並ぶ頃には、はしまき、焼きそば、人形焼、トルネードポテトを食べ終えていた。
多い、早い。一旦箸休めみたいに、それなりに腹に溜まる甘味を食うな。その薄い体のどこにそれらが入っていったんだ。
「これのあと、あそこ並びませんか?」
片手に唐揚げ棒を持って、もう片手で指さすのはじゃがバターの屋台。さっき芋は食っただろ。さらに指摘するなら今並んでいるのはたこ焼きの屋台。これは2人それぞれで食べるつもりである。
そう使わないと思っていた紙幣が着々と減っている。もしかしたら洸さんはこれを見越してこんなにも渡してきたのかもしれない。思い返せば洸さんも一緒に夕食を摂った後、開いたばかりの居酒屋にいってしまうことがあった。大呑とはそういうものなのかもしれない。
「あれ、希ちゃん?」
「
考えを巡らせていれば、向かいの方から声をかけられる。その主は長い髪を揺らす同年代らしい少女。名前を呼ばれた本人が一歩前に出たので、そのまま後ろから様子を伺う。
「ね、ね。後ろの人彼氏?」
飛び込んできた言葉に、つい顔を顰める。
「同僚」
「へえー。仲良いんだね」
そんなことはない。一瞬緩んだ眉間の皺がまた深くなるのを感じる。対して希は少女の言葉に首を左に小さく傾げて、そう? と返すだけだった。
「てか、希ちゃんもお祭りとか来るんだね。それなら誘えばよかった」
「小春は一人?」
「ううん。今日は弟達の引率。小学生だけだと不安だしね。だからそろそろ戻らなきゃ」
「そっか」
「そういえば、あっちの方にチュロス売ってたよ。好きでしょ?」
「うん。教えてくれてありがと」
じゃあね、と手を振って少女は離れていった。
「友人か?」
「席が後ろの人です。……もしかしたら、そうなのかもしれません」
「ふぅん。……なんだ、一緒にいく友人が居るじゃないか」
「そういう津々琉さんは居ないんですか? 一緒にお祭りに行くような友人」
嫌味っぽく言ってしまった言葉に対して、希は意趣返しなのか、単に疑問に思っただけなのかわからない顔で聞いてくる。
1人確かに顔が浮かぶ。
「__あいつは祭りが嫌いだからな」
遠くから祭り囃子が聞こえてきた。
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