神喰い
翌日、クレアは神樹の前でハルカとの最期の別れの日を思い返していた。
───◇─◆─◇───
「クレア……泣かないで……クレアは何も悪くないんだから……」
ハルカの手を握り締めながら、泣き続けるクレア。
「私ね……クレアと一緒に過ごして来た時間……本当に幸せだったよ……クレア…………ありがとね……」
「……ハ……ハルカぁ…………ごめんね……ごめんねハルカぁぁあ……」
「……クレ……ア…………」
「うあぁぁあぁああぁぁぁあハルカぁぁあぁあ」
───◇─◆─◇───
クレアは神樹を見上げて呟く。
「ねぇハルカ?私がずっとずっと長生きしたらさ……生まれ変わったハルカと、いつかどこかで会えるかな?そんな……夢より夢みたいな未来……来るといいな……」
優しい風が吹きクレアの髪が静かに靡く。
「ハルカ……ごめんねハルカ……」
ユウマは用意してもらった部屋で眠そうに背伸びをしながら起き上がる。
昨夜はあの後ラウとクレアが仲良くなり、遅くまで三人で色々な事を話していたので少し寝不足だ。
クレアは毎日、神樹の前でハルカに謝っているらしい。
何年も、何年も……
コンコンコン
「お二人とも、よろしいか?」
ガイアさんの声だ。
ドアを開けると、ガイアさんがずいぶんと険しい顔をしている。
「早朝から申し訳ない。長のもとへ来てくれませんか?」
俺はラウを起こし、ルルも連れてフォレスさんの所へと向かった。
フォレスのもとには昨日と同じ顔ぶれのエルフ達が揃っているが、昨日とは違っている点があった。
エルフ達は武装しているのだ。
「お二人とも、ブリッツでの用件がお済みでしたら、すぐにブリッツをお離れ下さい」
フォレスの言葉を聞いてラウは少し驚いた表情をしたが、これは邪魔者を追い出したくて言っている訳ではない。
むしろ、俺達の事を心配しての発言だと声色から解る。
「フォレスさん、あの少し遠くに見える不穏な雲に何か関係が?」
フォレスは驚きの表情を見せる。
「ユウマ殿、お気づきになっていたのですか?」
おお、正解だったらしい。
「なんとなくですよ。不戦条約破棄の件があったとはいえ、この平和な時代に何重にも結界を張っている事が気になっていたんです。あの雲も気味が悪いですしね」
フォレスは考え過ぎかもしれないがと前置きしつつ、厳戒態勢の訳を話しだした。
昨日聞いたブリッツへの魔物襲撃の数日前から、今回と同じように不穏な雲が現れた。
そして現在の畝るような雲の動きが、魔物襲撃当日の雲と瓜二つらしい。
「万が一お二人を巻き込むような事があってはいけませんから……」
俺はラウの方へと目をやる。
ラウの目がいつにも増してやる気に満ちている気がする。
「イヤよ!!わたしタチはもうクレアとトモダチになったノ!トモダチの住処が襲われるカモしれないなら出てイケる訳ないデショ!!」
ラウのこういう真っ直ぐなところ、俺はすごく好きだ。
「フォレスさん、少しは役立つと思いますし俺達がもう暫くこの森にいることを許してもらえませんか?」
フォレスは少し困った顔をしつつ答える。
「そう言って頂けるのなら、是非もないですな。でしたらお二人に渡しておく物があります」
フォレスが目配せすると、ガイアが小さなフックのような物を二つ持ってきた。
「ガイアさん、これは?」
「これは通信樹(つうしんき)です。これを耳に着けた者たちはブリッツ大森林内で念話が可能になります」
「おお!これが広範囲念話の秘密だったんですね!」
「はい。これは神樹から自然に落ちた枝に特殊な加工を施して作っています。神樹の影響が大きいブリッツ大森林のエリア内ならどれだけ離れていても会話出来ます」
なるほど、神樹の力とエルフの技術力が融合して、広範囲念話を可能にしているのか。
ブリッツに暮らすエルフ全員が身に付けているらしいので、これで俺達もタイムロスする事なく情報共有できるようになった。
とは言え、何事もないと良いんだけど……
「ところでラウ、魔法は複数属性使えるよな?」
「あっ!あったりまえデショ!!わたしは兄様ノ妹ヨ!火ダッテ水だって!他にもイロイロ……」
こりゃそこまで多くの属性は使えないなw
「もし魔物の襲撃があっても、ここは森の中だ。炎系の魔法は使っちゃだめだぞ?」
「………………当然ヨ!!」
あ、絶対この子なにも考えてなかったわ……
しかしこの通信樹は便利だな!
頭で念じれば使用者全員に話し掛けることも、個人に絞って話し掛けることも出来る。
魔法で同じようなことが出来ないか後日実験してみよう!
「ところでフォレスさん、前回襲撃してきた魔物は一体どんな奴だったんですか?」
「奴は、真っ黒な姿に赤く光る目、まるで影のような……」
その時、頭の中に声が響き渡る!
(緊急連絡!緊急連絡!!来ます!あの時の……いや、あの時とは形が違う……なんだあの数は……)
敵は複数体いるのか!?
(おい!魔物は何体いるんだ!?)
ガイアさんが問い掛ける。
(3……4……5……500!魔物は500体はいます!!)
おいおいおいおい多すぎだろ!!
それにさっきフォレスさんが言いかけてた影のようなって言葉が引っ掛かる……まさかな……
「ガイアさん!こちらの戦力は!?」
「今この森に暮らすエルフ族は約200。まともに戦える者となるとその約半数です……」
数では圧倒的にこちらが不利。
魔物の力がどの程度かによるけど、仮に大した力を持ってなくても数の暴力は怖い。
「この場にいる皆さん!俺の近くに集まって下さい!」
その場にいる数名のエルフ達が不思議そうにユウマの近くに集まっていく。
「ユウマ、アレをやるのネ!」
ユウマはコクリと頷くと、魔力を集中させる。
『オーバードライブ!!』
ユウマのオーラが激しく渦巻く。
オーバードライブを掛けられたエルフ達は一様に驚いているようだ。
「なんだこれは!全身に力が漲ってきたぞ!?」
「すごい!自分の体じゃないみたいに軽い!!」
「ソウよ!ユウマの魔法はすっごいんダカラ!!」
何故ラウがそんなに自慢気なんだw
「ここにいる皆さんには俺の身体強化魔法を掛けました。必ず乗り切りましょう!」
長寿のエルフ達ですら知らないユウマの魔法を目の当たりにし、一気に士気が上がる!
だが、どうやら簡単な魔物ではないようだ。
(第一結界……破られます!!数が……多過ぎる……)
(こちらの戦力は少ない!無理せず第二結界まで下がれ!)
結界を破られるのが早すぎる……
「俺は前線に向かいます!ラウはルルと一緒にここで待機していてくれ!」
「ドウしてよ!?魔物にわたしノ魔法ヲ叩き込んでヤルわよ!」
「ラウ……ラウは俺達の最終兵器みたいなもんだ。だからまだ大人しくしていてくれるか?」
「………………まぁ……ソウね!このラウちゃんが出るマデもないわネ!最終兵器……なんか、カッコいいじゃないノ……ボソボソ」
よし!チョロい!
どんな魔物か分からない状態でラウを危険な場所に向かわせるのは避けたいからな。
「じゃあ、行ってくる!」
ズドン!!!!
と激しい音とともに、地面に深くめり込んだ足跡を残しユウマは一気に駆け進む!
「ユウマ殿か……あの方は一体……」
第二結界付近でエルフ達が魔物たちと戦闘を繰り広げている。
(長!第二結界もそろそろ限界です!形は違いますが……間違いありません!この魔物たちは……神喰いです!!)
神喰い……神器を食べようとするって奴か!
そんなのが500体も!狙いはここにある万歌の弓か!
ん……ちょっと待てよ……神喰いの目的が神器なら、創造の指輪に天光の勾玉、二つも神器を持ってる俺に反応するんじゃ……
(第二結界!破られました!!)
悩んでる暇はないようだな。
(皆さん!俺が神喰い達の囮になります!第三結界の外側から俺は戦うので、皆さんは隙を見せた神喰いを結界の内側から攻撃して下さい!)
(な!?危険過ぎます!!囮ならこのガイアが!)
(エルフの皆!ユウマの考えヲ、ユウマの力ヲ信じまショウ!)
サンキューラウ!
よし!見えた!!
第三結界の外側に出て、神喰いの姿を確認するユウマ。
狼のような形、全身真っ黒で……赤く光る目、そして影のような奇妙な雰囲気……オーラが無い……間違いない。
「イロナシだ……」
でもトレーネの奴とは別物だな……こっちは喋るような素振りもなさそうだ。
狼型のイロナシ……いや、神喰い。
予想通り、ユウマの神器に反応して大量の神喰いが襲いかかってくる!
「神喰い!ここからは俺が相手をしてやる!!」
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