ハーフエルフ、クレアの過去

「最強ノ弓使いナノに、弓ヲ使えナイの??」



フォレスは暫し目を瞑り静かに語り出す。



遠い過去、ブリッツ大森林の入口の近くに人族の赤子が置き去りにされていました。


赤子が入れられていた籠には、ある事情によりどうしても手放さなくてならないといった内容と、赤子の名が記された紙が添えられていました。


赤子の名はハルカ。


我等はハルカを受け入れ、ハルカもすくすくと育っていったのです。


クレアとハルカはとくに仲が良く、まるで姉妹のように二人で笑い、ケンカし、歌をうたって楽しい日々を過ごしていました。


クレアは成長するにつれ弓の才能が開花していき、ハルカはエルフ族でも右に出る者のいないレイピアの使い手と成長しました。



あれはハルカが15歳程の頃でしょうか……


ハルカは魔法でも薬でも全く治せない病に侵されてしまったのです。


最後の頼みの綱は、数十年に一度、一輪だけ神樹に咲く小さな花……その花を煎じた秘薬のみでした。


ハルカが病に倒れた年、幸運にも神樹に花の蕾が見つかり、花が咲くのを待っていたのですが、その時にブリッツ大森林は魔物の襲撃に遭ったのです。



その魔物は執拗に神器を狙い、神器を食べようとするような行動を取っていました。


神樹と神器の間で動き回るその魔物をクレアが弓で狙っていたのですが……我々には計り知れない葛藤があったのでしょう……


もしも射った矢が外れたら、その矢は間違いなく神樹を傷つけてしまう。


神樹は我々エルフにとっては親より大切な存在ですから。


そしてクレアは、とうとう矢を射る事が出来ませんでした。


その後その場に駆けつけた他種族の助力もあり、なんとか魔物を森の外へ追いやることに成功したのですが……


いつそうなってしまったのか、神樹にあった花の蕾はちぎれ落ちてしまっていたのです。


ハルカはその半年後に……



「フォレスさん……でもその秘薬って……」



フォレスが涙を浮かべながら答える。



「ええ、その秘薬で治るなんて保証はありませんでしたし、クレアは何も悪くありません。しかし……それ以降クレアは弓を引けなくなってしまったのです……」



大切な存在を失ってしまったことを……自分の責任だと感じているのか……これは辛いな……



「この森で最期を迎えたエルフ族は、神樹の根元に埋葬されます。人族でもハルカは我等の同胞。ハルカも神樹に抱かれ眠っております」



そうか……それでクレアは神樹を見つめていたのか……


ユウマは何とかしてあげたいと思った自分を心の中で思い切り殴った。


ちょっと魔法が使えるからって俺は何を調子に乗ってるんだろう……


魔法で怪我は簡単に治せるけど、心の傷を癒す魔法なんて存在しない。


俺って……無力だな……



フォレスさんの好意でユウマ達は広い部屋を用意してもらえた。


ベッドも複数!


理不尽パンチは回避できそうだ!


ラウはルルを抱き締めながら、なにか納得できないような表情をしている。


まぁなんとなくラウが思ってることは俺も分かる。



コンコンコン



部屋をノックする音だ。


ドアを開けると予想外の訪問者が立っていた。


クレアだ。



「突然ごめんなさい……入っても良いですか……?」



俺はクレアを招き入れる。



「あの……神器、持っていくんですか……?」



え??


あぁ、念話で俺達が神器を求めてここに来た事を知ってるからか!



「いや、持っていったりしませんよ。俺たちの探している神器ではないようですし」



クレアは複雑な表情をしていて、いまどんな気持ちなのか俺には全く分からない。



「チョットあなた!クレアって子よネ?ソコに座りなさいヨ!」



ちょちょちょラウさん!?


なになにその喧嘩腰な感じ!大丈夫そ?



「え、あ、はい……」



クレアさんも素直に座るんかーい!



「知ってるカモしれないケド、わたしはラウ!ハルカって子のコトは聞いたワ!あのね……ハッキリ言うケド、あなたナニも悪くないじゃナイ!」



おおお……なんだろう……ラウさん男前!!


クレアは俯き、両拳を握り締める……



「あなたは……魔族ですよね?私は……ハーフエルフです……」


「……ダカラなによ?」


「……ハーフエルフも……エルフ同様に長寿です……魔族のあなたもきっとそうですよね……」


「人族のユウマとかに比べタラ何倍も生きるでショウね。それがドウしたのヨ?」



クレアは大粒の涙を零しながら声を振り絞るように続ける。



「ハルカは……ただでさえ……寿命の短い……人族……だったんです……それを……たった……たった15年で……終わらせて……しまったん……です……私のせいで……」



だめだ……俺には何も出来ないし、気の利いた言葉なんて一言も出てこない……



「ナニ言ってんのヨ!!秘薬デ絶対に治るかナンテ分からなかったんデショ?」


「治るかもしれなかった!!!!」



強い口調で言い返すクレア。


静まり返った部屋の中で、ユウマが自然と口を開く。



「俺は人族だから……二人より長くは生きられない。もしかしたら何かが起きて明日には最期を迎えるかもしれない。でも……もしそうなったとしても、悔しい気持ちはあるかもしれないけど、これまで感じた幸せな気持ちは消えないし、友達にもいつまでも悲しまないで欲しいって……そう思うかな」



なんだろう……これがもし何か良いこと言おうとしたのなら、全くもって良いこと言えてない気がするのだが……


魔族とエルフには心にくるものがあったようで……



「ユ……ユウマぁ……そんな……ソンな縁起でもナイこと……言わないでヨぉぉお……エーン」

「私が……私がいつまでも悲しんでたら……ハルカが……困っちゃうのかなぁぁあ……えーん」



号泣しだしてしまう魔族とハーフエルフの女子二名。


うんうん……ここは俺も男らしく胸を貸そう!


両腕を拡げるユウマ。


勢いよく抱き合う二人。


……


…………


あれ?


ラウとクレアは二人で抱き合って泣きじゃくっている。


あの……俺のこの拡げた両手はどうすれば……


ユウマの胸に勢いよく飛び込んできたのはラウから放り投げられたルルだった。



「ルルぅ……俺はお前が大好きだぁぁあぁ」



ルル以外が泣いたのだった。

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