ありがとう
神樹の前にいるクレアはチラリと神器、万歌の弓を見る。
【神喰い】がまた襲ってきた……仲間やユウマ達が戦っている……私は……
クレアは万歌の弓に手を伸ばそうとするが、手が震えて弓に触れる事が出来ない。
ダメ……私はもう弓を持つことは出来ない……
四方八方から襲いかかってくる神喰いを目にも止まらぬ体術で捌いていくユウマ!
すでにユウマの両手には魔力が練り込まれている。
右手に雷魔法ライガ
左手に風魔法ウィンド
融合……そして……
具現化!!
ユウマの両手の魔力がどんどん形を成していく。
『魔法剣 クラウソラス』
手にした魔法剣で次々と神喰いを薙ぎ倒していく!
その余りの高威力に剣に触れた神喰いは一瞬で消え去る。
(なんだあのユウマ殿の剣は!魔力を剣に変化させたのか!?しかも古代魔法と呼ばれる雷魔法を使ったぞ!)
(雷魔法だと!?それに武器へ魔力を纏わせたのではなく、魔力そのものを剣に変化させているのか!?)
(そんな事が可能なのか……しかしそれ程の能力があるのなら何故雷魔法を放って一気に殲滅しないのだ?)
エルフ達の念話を聴きながらイライラした表情をするラウ。
(アノね!ソレはこの森ヲ傷つけないタメに決まってるデショ!!)
(……我らの森を守るためだと……そんな事まで考えながらあの数の神喰いと戦っているのか……)
(ユウマはね、ソウいう人族ナノよ!!)
……その念話を聴きながら少し微笑むユウマ。
ラウ、ありがとう。
出会ってからそう長い付き合いではないのに、ラウは俺の考えをよく分かってくれている。
それにしても……魔法剣で簡単に倒せるけどやっぱりこの数はきついな……
エルフ達も援護してくれてはいるが、そもそもエルフ達の攻撃では神喰い一体倒すのも一苦労のようだ。
そうこうしている内に、ユウマに集中していた神喰い達がまた結界を攻撃し始めた。
不味い!俺との戦いは不利とみて万歌の弓に狙いを変えたのか!
それなりの知能はあるようだ。
緊迫したエルフの念話が聞こえる。
(だ!第三結界が破壊されます!!みんな第四結界まで下がれー!!)
くっ……倒したのは50体ほどか?急がないと!
ボロボロと第三結界が崩れ去る。
その時、久しぶりに聞く声がユウマの頭の中に響いた。
《神器、万歌の反応が近くにありますね》
!?
ククル!?ククルじゃないか!!
声の主はユウマの持つ神器、創造の指輪のククルだった。
もう喋らないのかと思っていたから安心したよ!うん。すぐ近くに万歌の弓があるんだ!
《万歌はいま弓なのですか》
え?
『いま』ってどういう意味なんだ?
《神器 万歌というのは……》
ククルから万歌についての話を聞き終えたユウマはニヤリとする。
なるほどな……それなら……
ユウマは神喰いを倒しながら通信樹で語り掛ける。
(クレア!ユウマだ。今どこにいる?)
(ユウマ!私はいま……神樹の前にいるけど……)
(クレア、このままだと300体ほどの神喰いが第五結界まで到達してしまう可能性が高い!万歌の力が必要だ!)
(……でも私……)
ギュッと胸が苦しくなるクレア。
(クレア!万歌の弓は、弓じゃないんだ!何を言ってるか分からないと思うけど、万歌を手に取ってみてくれ!!)
最初に神樹の所でクレアを見かけた時、そこにあった万歌の弓は光り反応していた。
間違いなく万歌はクレアを所有者として選んでいるはず。
あとはクレア次第……
(……だめ……私は許されない事をしたもの……ハルカに何度謝っても足りないくらい……そんな私を神器が認める訳ないよ……)
くっ……これ以上はクレアを追い詰めてしまうかもしれない……
やはり俺が神喰い達を何とかするしか……
(クレア!いい加減にしなサイ!!)
(……ラウ?)
(わたしはハルカのコトは知らないワ!デモね、コレだけは分かる。ハルカはクレアに謝ってほしいナンテ思ってないわヨ!)
ラウが続ける。
(アナタ達は親友だったんデショ!?ハルカは最期にナンテ言っていたノ?親友ナラ掛ける言葉はゴメンじゃないデショ!!)
ハルカとの別れ際のやり取りがフラッシュバックする。
───◇─◆─◇───
「クレア……泣かないで……クレアは何も悪くないんだから……」
ハルカの手を握り締めながら、泣き続けるクレア。
「私ね……クレアと一緒に過ごして来た時間……本当に幸せだったよ……クレア…………ありがとね……」
───◇─◆─◇───
ハッとするクレア。
そうだ……私は、本当に伝えたい気持ち、本当に言いたい言葉を口に出来ないままでいた……
ただただ謝ってばかり……あなたはちゃんと伝えてくれていたのにね……
スっと神樹の前に立つクレア。
「ハルカ……私も、私もね……ハルカと一緒に過ごしてきた時間全てが、本当に本当に幸せだったよ。ハルカ……ありがとう」
クレアの頬を優しい風が撫でる。
その瞬間、神樹の前に現れる眩いばかりの光!
その光から現れたのは……
「う……そ……ハル……カ?」
そっと瞳を開けるハルカ。
「クーレア!久しぶりだね!」
「ハルカ!!でも……どうして?」
「んー、神樹の力なのかな?こうしてまた話せるなんてなんか不思議だねw」
屈託のない笑顔を見せるハルカ。
大粒の涙を流しながらハルカを抱きしめるクレア。
「クレア、私のこと本当にクレアは悪くないよ。秘薬もあの病気には効果ないって神樹が教えてくれたものw」
クレアはただただ泣くだけで何も話せない。
「私、嬉しかったよ。クレアがありがとうって言ってくれてさ!」
ハルカは優しくクレアの頭を撫でる。
「さ!そろそろ時間みたい」
ハルカの体がどんどん薄く、半透明になっていく。
「そんな!嫌だよ!いかないでよハルカ!!」
「そんなわがまま言わないの!私が生まれ変わるまでクレアが長生きすればいいのよw」
ハルカはニッコリと笑う。
「さぁクレア。神器を手に取って。大丈夫。私の事を考えながら手にしてみて」
「ハルカ……」
「また、未来で……ね?」
そう言うとハルカの姿は消えてしまった。
クレアは涙を拭き、万歌の弓を見つめる。
ハルカ……ありがとう。
私、前に進むね!
意を決したクレアが万歌の弓を手にすると、万歌の弓は激しく光り輝きだす!
「眩しいっ!これは!?万歌の弓が……」
その頃、ついに第四結界までもが神喰いにより破壊されてしまった……
この異世界物語はフィクションです 桜花オルガ @okaoruga
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