第二十四話「デート」

 なんということだ。

 なりたいのランキングを見て俺は嘆いていた。

 これはとても個人的で、俺の都合でしかないのだが、頭を抱えざるおえない。


「今日もランキングに恋愛ジャンルしかない……」


 まず批判を受ける前に伝えておきたい。

 俺は決して恋愛ジャンルを否定しているわけではない。わけではないのだが、異世界ファンタジージャンルで物書きをしている身からすれば由々しき事態なのだ。


 今までずっとファンタジージャンルが人気で、流行りの移変わりもファンタジーの枠組みの中に収まっていた。

 だからこの現状は想定外だ。


「シノさま。恋愛ジャンルが人気でしたら、シノさまも恋愛ジャンルを書けばいいのではないでしょうか」


 アリスが隣でごもっともなことを言っている。

 だが、これはそんな簡単な話ではない。


「いいかアリス。恋愛ジャンルを書くには恋愛経験がないとダメなんだ。彼女いない歴=年齢のデートの経験一つない俺が恋愛ジャンルを書くのは非常に厳しいのだよ」

「でも異世界のお話を書いている人は異世界に行ったことなくても書けてますよね?」

「……なに言ってるんだ? 異世界のお話を書いている作者はみんな異世界に行ったことあるんだぞ」

「そ、そうだったんですか!?」


 当たり前だろ。な? お前ら?


 前向きに考えるなら、俺は遅筆だし今のうちに作品のストックを貯めておくって考えもあるが、うーん。


「ではシノさまもデートを経験してみればいいのではないでしょうか」


 簡単に言うなよな。


「お前、デートの意味わかってるのか?」

「わかります。シノさまは私とデートすればいいと思います」


 アリスが期待の眼差しで俺を見てくる。

 アリスとデート……想像してみても子供を連れて遊びに行くようなもので、それは俺の思い描くデートとはかけ離れる。


「お前はまだ子供だからデートにはならないな」

「そうですか……」


 そんな落胆しないでくれよ。

 いや、「じゃ、デートするか」といって、アリスを連れて出かけてあげるのが大人の対応だったか。それがぱっと出る前に本音が出ちゃったよ。


「ではシノさまのお知り合いの方とデートできないんですか?」

「デートできる知り合いってお前な……」


 異性の知り合いなんてほぼいない。

 一応挙げるなら、店長ちゃんと嬉野さんくらいか?


「かもめさんはダメですか?」

「嬉野さんが嫌かもしれないだろ」


 嬉野さんとは奇跡的にいい感じの関係を築いているのに、ここで俺なんかがデートに誘うことで、恋愛感情剥き出しで迫られたなんて思われれば距離を置かれるに決まっている。


「そんな事ありません! 確認して来ます!」

「は? おい!」


 俺が止めようとする頃にはアリスは家から飛び出ていた。

 終わった……。



+。:.゚ஐ⋆*♡・:*ೄ‧♪



「シノくんとデート?」

「はい。恋愛小説を書くために経験が必要なんです」

「シノくんとデートかぁ」


 私はかもめさんの家に突撃すると、単刀直入に話を切り出しました。

 シノさまはとても素敵なので、シノさまとのデートを断る女性はこの世に存在しないと思いますが、念の為の確認です。


 なのに、念の為だったのに、なぜだかかもめさんはシノさまとのデートを悩んでいるようでした。


「ダメですか?」

「んー。ダメじゃないけど、アリスちゃんはいいの?」

「私ですか?」

「だって、本当はアリスちゃんがシノくんとデートしたいんでしょ?」


 かもめさんはお見通しでした。


「私はまだ子供だからデートにならないってシノさまが……」

「そうかぁ」


 シノさまにどれくらいの女性のお知り合いがいるか分かりません。

 もし、かもめさん以外の女性とデートしてしまって、シノさまが取られとしまったらと考えると、なんだか胸がモヤモヤして苦しいと思いました。

 かもめさんなら、前にお泊まりした時に応援してくれると言ってくれました。

 なので知らない人とよりも、かもめさんとの方が安全です。


「私はアリスちゃんの応援するって決めてるからなぁ。そうだなぁ。例えばなんだけど――」


 それから、かもめさんがお話しされたことはビックリするものでした。



÷−÷−



「シノさま戻りました!」

「お、おう。長かったな?」


 嬉野さんのところに行っていただろうアリスが戻って来た。

 話の流れからして、アリスは嬉野さんに俺とデートできないかの確認をして来たはずだ。

 俺は緊張のあまり、正座に座り直して姿勢を正す。


「シノさま。次の土曜日はお休みでしたよね?」

「あ、ああ。次の土曜日は休みだな」

「土曜日にデートの約束をして来ました」

「ま、マジで?」

「はい。待ち合わせの場所と時間は後ほどメッセージで送ってほしいとのことです」


 と、とんでもないことになってしまった。

 あの嬉野さんとデートすることになるなんて。


 今までは非現実的な願望だったのもあって、冗談混じりに言っていたが、実際現実になってみると、嬉しさよりも緊張の方が大きい。

 漫画とかでは憧れのあの娘とデートの約束を取り付けたら「ひゃっほーう!」なんてはしゃぐ主人公の描写を見るけど、あれは嘘だな。

 いや、陽か陰の違いなのか?


 こうしちゃいられない。

 恥をかかないように。いや、嬉野さんに楽しんでもらえるように、準備をしなければ。

 それから、俺は経験が全くないながらもネットを駆使しながらデートプランを練りに練った。



÷−÷−



 デート当日。

 俺は緊張のあまり吐きそうだった。

 待ち合わせの場所である駅前に、約束の30分前には到着して、考え抜いたデートプランのシミュレーションを繰り返す。

 会話デッキも用意してきた。

 大丈夫。意識のし過ぎはキモく思われるだけだ。いつも通りを意識するんだ。

 いつも通り。いつも通り。

 時折深呼吸をしながら、約束の時間を待っていると、スマホが震えた。

 嬉野さんからのメッセージだ。


 〝ごめんなさい〟

 〝急用で行けなくなってしまいました〟

 〝代わりを友達にお願いしたので、楽しんでください〟


 可愛いごめんなさいスタンプと共に送られて来たメッセージ。


 なん、だと?

 代わりを友達にお願い?

 それって嬉野さんの友達が来るってことか?


 全く知らない女性とデート。

 嬉野さんの友達ってことは大学の友達だろうか。

 そんなことよりも、嬉野さん前提の会話デッキが崩壊した。

 もう待ち合わせの時間。

 ってことはつまり……どうすればいいんだ?


「あの……」


 考えがまとまらない中、不意を突かれるように声をかけられた。

 女性の声。

 つまり嬉野さんのお友達だ。


「ハ、ハイ! ハジメマシテ!」


 振り返ると、そこにはとんでもない美人が立っていた。

 綺麗なブロンドの髪。

 テンパる俺を心配そうに覗くサファイアブルーの瞳。

 どこか既視感のある特徴だが、そんなことはどうでもいい。

 外国人だ。

 留学生だろうか。

 そもそも日本語は伝わるのだろうか。

 様々なことが過ぎる。


「大丈夫ですか? 顔色悪いですよシノさま」

「い、いえ! 不健康な顔は生まれつきのものでし……は?」


 今、聞き間違えじゃなかったらシノさまって言わなかったか?

 てか、この既視感って……。


「アリスか?」

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