第25話:アカライ・ドラゴンソン
殺魔天武のリーダーがオレらの独房に会いに来たのは予想外だった。決して広くはないこの部屋に5人が詰められている。そんなオレらを見下すように、そいつはそこに立っていた。
「貴様、タケルじゃないな」
「へぇ、オレと兄貴の区別がつくのかよ」
「見ているのはガワじゃない、と言っても理解できないか」
そいつは一向にフードを取ろうとしなかった。それ以前にオレじゃなく兄貴に用があることにムカついた。
「そういやよお、名前聞いてなかったな。オレはヤマトだ」
「ご機嫌取りか?そんなもので貴様らを…」
「勘違いすんなよ、くそ陰キャ。テメェの墓標に名前を削ってやるために聞いてんだよ」
「…殺魔天武が一人、マッカーティ・アガサ・グリフィンだ」
フードから解放されたその顔は、まだ幼く、多分歳はオレらと大差ない。髪色は黒く、オッドアイの少年。彼が殺魔天武のリーダーだということが信じられない。
「尋問するのは苦手でな… 少々手荒だが仕方ない」
するとマッカーティは右目に手を当てた。数秒もないうちに色が変わっていた。まるで硝子細工のように綺麗で、模様がくっきりと見える。
「『メモリアル・ハック』」
そう呟くと、突然オレの頭が言葉に表せないほどの痛みに襲われた。まるで何かに吸い出されるような痛みだった。
周りにいた者はオレを心配してくれたが、結局はなにもできないままオレは気を失った。
「タケルは生きているか、じっとしているようなやつではない。とするとこの島に来るか?向こうには黒い墓標のリーダーもいる、ここの存在が漏れている可能性も捨てきれない…」
「あなた、なにしたの!」
そう言ったのは、鎧姿に身を包んだ女性だった。もちろん鬼族でもなく、タケルたち脱走メンバーでもない。
「貴様、向こうに女騎士がいるという情報はなかったが?」
「わ、私は… た、たまたまあの島にいて、たまたま捕まったのよ!本当に、とばっちりだわ!」
マッカーティは彼女の鎧を見て落ち着いて言った。
「日光連の騎士、か。どちらにせよ生きては帰せないな」
この時、タケルたちが階段を降りてきた。そして用のすんだマッカーティは出口へ向かって歩き出した。それを察知したタケルたちは一周ぐるりと回ってヤマトたちの独房に向かった。
「大丈夫!?ヤマトは!?」
「え!?同じ顔!?ドッペルゲンガー!?」
タケルが初めて顔をあわせる女騎士に動揺しつつ状況を聞いた。
「この子は何かの魔術にやられて気を失っているわ」
「ここを開ける。スイセイ、いける?」
元気よく答えたスイセイは魔術で鉄格子ごと破壊した。俺らはあっけに取られたが、時間がなかった。
「よし、脱出するぞ」
ヤマトをおんぶって階段を駆け上がり外に出たが、しくじった。そこには大量の敵兵が待っていた。もちろんそこには殺魔天武のリーダーも。
「タケル、久しぶりだな」
「名前を覚えてもらって嬉しいけど、俺あんたの名前知らないんだよね」
「そのうち知るさ」
そう言うと、そいつは腰の剣に手をかけた。ゾロゾロと出てくる敵は無尽蔵に思えた。正直、死を覚悟した、こちらにはまともに戦える人間がいない。もうダメだ、そう思った時、女騎士がポツリと呟いた。
「はぁ… 本当は呼びたくなかったんだけど」
そうすると、大きく息を吸って、できるだけの大声で叫んだ。
「助けてぇぇぇぇぇぇ!アカライぃ!」
俺らが反応する暇もなく、俺らと敵の目の前に一筋の光が落ちた。凄まじい音と衝撃から現れたのは、赤い鎧と独特なヘルメットを着込んだ男。
「マイカ、君の声は確かに俺に届いたッ!」
白いマントが揺れる。まるでその姿は仮面戦士のようだった。
「100の喝采より、1の救援の声に駆けつける」
聞いたことのある言葉。
「正義を赤い稲妻で貫き通す」
幼少期、こっちに来る前の幼少期に聞いた覚えのあるセリフ。
「アカライ、ここに参上!」
ドラゴン仮面というテレビシリーズのレッド・ライトニングがそこにいた。その立ち姿、格好、セリフ、全てがそうだった。
「なんで、レッド・ライトニングが…」
「なんでアカライがッ!!」
殺魔天武のリーダーの表情は見えずとも、その言葉の響きで怒りと困惑の混ざった感情だということがわかる。そして他の月光国の兵士も、恐怖で後退りをしている。
「?マイカ、君には島の偵察任務を頼んだはずだが?」
「いろいろあってこうなっちゃったのよ、いいから助けて」
「はは、うちのお嬢さんは人使いが荒いなぁ。風呂を浴び終わって寝る準備万端だったのに」
「悪かったわね!」
一通りの痴話喧嘩が終わったのち、アカライは視線を敵に向けた。
「さて、そんなうちのお嬢さんをこんな汚らしい場所に閉じ込めたのは、どこのどいつだ」
さっきまでの言葉とは重みが違った。明らかに怒りがこもっていた。アカライは腰の禍々しい剣を抜き、挑戦するように敵に向けた。
「ちょうど貴殿とは戦おうと思っていたところだ。稲妻の如く逃げるなよ」
「残念だが、うちのモットーは『勝って帰る』だ!」
アカライの踏み込んだ大地が割れ、稲妻の如く殺魔天武のリーダーに突進した。正直、残像すらも見えなかったが、あいつはそれに反応し、剣で攻撃を受けて背後に飛ばされた。
「『雷撃・一閃』」
声は上空から聞こえた、宙に浮かんだアカライが剣を片手で持ち、地上にいるあいつに突き刺した。正確にはその刀身から雷のような何かを撃ったのだ。
その衝撃と微少の電流が地面を伝って身体にひしひしと伝わる。それのせいか、気絶していたヤマトが目を覚ました。
「ここは…?」
「大丈夫、きっと助かる」
「あに、き… なんで…」
「兄貴として、弟を助けるのは当然だろ」
そう言うと、少し笑ったように思えた。だがすぐにヤマトの注意は別のところへ向いた。そう、アカライ達の戦闘だ。敵のそれに釘付けだ。
「あれ、戦ってるのは…」
「アカライと殺魔天武のリーダーだ」
「アカライ…?それ、に殺魔天武のリーダーって、マッカーティか?」
マッカーティ、それがあいつの名前なのか。
俺たちはただそこで突っ立っているだけしかできなかった。
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