第24話:カイジョウマル

敵前線基地カイジョウマルから離れた位置にホープ号を停泊させ、小舟を出した。見張の目を掻い潜り壁まで接近し、外に停泊してある船を確認した。奴らはここで間違いない。近くに人一人入れる下水溝を見つけ、俺とスイセイとリュウセイで潜入することに、アーチャーはカズキとタマキを連れて船を航行不能にしに行った。

下水溝の中は予想通り汚く臭い。進んでいくと、梯子がかかってる場所を見つけた、上からは灯りが漏れている。慎重に登り、蓋の隙間から覗いた。人がいないことを確認してから素早く外に出た。

静かに中央の建物へ忍び寄り、近衛兵がいない事を確認して中に入った。石造りのこの建物の中はとても薄暗く、小さな窓から月明かりが漏れ入るだけだ。

「こっからどうする?下手に動いても見つかるだけだ」


「ぼくたちに任せて!」


スイセイがそう言うと、二人とも床に両手を立てた。

「『バイオ・エコー』」


「『スキャン』」


そう唱えるとスイセイの身体は微かに緑色に、リュウセイは青色に光った。いつ見つかるんじゃないかと気が気じゃなかったが、その心配はいらないようだった。魔法はすぐに終わり、ヤマト達の場所もわかった。

「こっちから下に降りれるよ!」


「ありがとう、二人とも。君たちも魔法使えるんだね」


「魔法じゃないよ?魔術だよ!」


魔法と魔術で違いがあるのか?俺には少し分からないけど、そこは適当に相槌打って乗り切った。

階段を下ると、鉄格子で頑丈に守られた牢屋がズラリと並んでた。リュウセイ曰くこの場所は四角く通路と牢屋がある。出入り口はここ一つだけらしい。

「慎重に進もう」


ヤマト達がいるのは階段のある通路の裏、右回りに進んだ。2個目の曲がり角を曲がろうとした時、話し声が聞こえた。素早く身体を引っ込めて、恐る恐る覗くと、そこにはあの、殺魔天武のリーダーがいた。


タケルたちと分かれたアーチャーたちはカイジョウマルの港へ泳いで向かった。そこには船が2隻停泊しており、どちらにも人の影はない。今が機だと、アーチャーたちは船に乗り込んだ。彼らの任務は追撃を防ぐための妨害工作。細かく砕くと、船の帆を切り裂き、船底に穴をあける。時間が経てば船は徐々に沈んでいき、万が一失敗しても帆が使えないのであれば航行はできない。

アーチャーは帆を担当し、カズキとタマキは貨物庫へ向かった。気づかれないように慎重に作業する。がそこで予想外の事態が起きた。レイガートとオウエンだ、やつらが船に向かって歩いてきてる。かろうじて会話が聴こえる。

「久しぶりの共闘、今夜は飲み明かそう!」


「それには同意だが、主の自慢の酒は全てあの船と共に盗まれたのだろう」


「ああ、我の自慢のギャラリーが無慈悲にも奴隷どもの手に…!今はなけなしの金で買った1ランク下の酒しかなくてな… 」


「いいだろう、今回は我が酒を飲もう」


まずい、船内にはまだカズキとタマキがいる。今動けば確実に見つかる。すでに酔いが回っているが、それでも月下に一二人!身動き一つとれず、マストの影に隠れるだけだった。静かに、息を殺してじっと彼らが通り過ぎるのを待った。船長室に入ったのを確認してから素早く音を殺して船内に入り、カズキたちと合流を試みた。船内は入り組んでいてとてもじゃないが見つけづらい。すると足音と共に声がした。

「レイガート殿、本当になにかいたのか?」


「…足音、気配、微かにだがそれらを感じた。これほどまで消せるのは相当な技術を持つもの」


「酔いが回ったのか」


しまった。焦りすぎて気配を完全に消せなかった。それに向こうは上積みの戦争屋、勘付かれる可能性を考慮していなかった。段々と足音が近づく。アーチャーは砲弾庫に身を潜め、通り過ぎるのを待った。だがその期待とは裏腹に、足音は近づく。ランタンの光が差し込んだ、終わりだ。そう思った。

「気のせい、か。すまなかったオウエン殿、飲み直そう」


ほっと安心した。足音が遠のくのを確認してから慎重に足を運んだ。向かった先は船底、ここにカズキたちがいるはずだ。ハシゴを下ると、突然口を押さえつけられ、剣を向けられた、だがすぐその後に聞き慣れた声で静止するように伝えるのが聞こえた。カズキたちだった。

「無事だったのか、アーチャー」


「あぁ、危なかったがな。そちらはどうだ?こっちは終わった」


「もう少しと言ったところだ」


そうか、と言ってから周りを見渡した。火薬樽を敷き詰めている、船底を粉砕するには十分な火力はある。その樽たちから伸びているのは一本の長い導火線、この長さあれば3分後に爆破するだろう。

「よし、火をつけてくれ。私たちはタケルたちが来るまで海で待機だ」


タマキが火をつけたのを確認してから気配を消して船を後にした。タケルたちの入っていった下水溝付近で待機することになった。だが、違和感に気づく。アーチャーの優れた耳は壁の向こうの音を拾っていた。騒がしい、騒がし過ぎる。

タケルたちが見つかった。

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