第19話:平穏
脱走から1ヶ月が過ぎた。街の発展は著しい、家は鬼族の助けもあり30軒近く完成し、その片手間に街の中心には苗を囲むように花が置かれ、それをまた囲むように石がぐるりと綺麗に平面とは距離のある土を設置されている。お部族曰く、新しい村ができた時に必ず植える大傘の木の苗を植えたらしい。街がすくすくと大きく成長するようにと言う意味があると言う。
ワイバーンも最近は割と大人しい。順調に畑は育っていっている。鬼族との関係も未だ良好、お互いに尊重し合い、意見を出し合い、共に成長していっている。
「タケル殿、今日も森か?」
村長が使わした鬼族たちのリーダー、カズキが話しかけてきた。背は高く、筋肉ムキムキ、女子からはさぞ人気なのだろう。
「うん、今日も今日とて練習だよ。ヤマトは先に行ってるはず」
「飽きないなぁ、ヤマト殿も」
最近、リチャードの助言でヤマトと俺は剣術の修練を始めた。
「なにかに熱中するのはいい事だ。ちょうど怠けきった体も動かせるしでWin-Winさ」
「うぃん…?まぁそれはともかく、気をつけろよ」
カズキと分かれて森を進んだ、着いたの青い海の見える海岸線。そこにヤマトはいた。
「よぉし、今日も付き合ってもらうぜ!」
「望むところさ」
ヤマトは腰に刺してあった木刀を抜いた。構え方はリチャードが口頭で叩き込んだアリカ大陸に昔から伝わる剣術、俺はガイムから教わった有刀流の構を取った。
「いざ、尋常に—」
「—勝負ッ!!」
木と木がぶつかり合う音。一歩また一歩と進み下がり、攻守双方を繰り返す。
「そろそろ見飽きたぜ、その攻撃!」
「こうやった方が… 好きが作れる!」
俺が大きく振り翳したのを見たヤマトは守りの体制に入ったが、それを見越して姿勢を低くしヤマトの懐に飛び込んだ。その時、一撃でヤマトの腹に木刀を叩き込んだ。
「よっし!今度は俺の勝ちだ!」
「くっそぉ〜!」
疲れ切った身体を癒すために原っぱに寝っ転がった。
「やっぱ有刀流の方が強ぇのかなぁ…」
「どっちも一長一短だと思うさ。有刀流は切り刻むのに特化してると言えるし、そっちの剣術は長期戦に特化した温存スタイル、どっちも戦場じゃあ必要な要素だ」
そうやって少し休んでいると、森の方から誰かがやってきた。おーい、と声をかけてきたのはナガトだった。
「よっ!今日も懲りずに稽古とは感心するなぁ!」
「お前も一緒にやらないか?結構楽しいぞ」
「勘弁してくれ。おりゃタダでさえあのメガネに色々と雑用押し付けられてんのによぉ、これ以上労働増やされちゃ身体が壊れちまう」
メガネとはリチャードのことだろう。ナガトは班長の目を掻い潜りサボっているのをリチャードは見逃さなかった。サボり場面に出くわしては色々とさせてるようだ。
「そうだ、こいつを持ってきたんだった」
俺たちの前に座り、片手に持っていた木の箱を開けた。中にはサンドイッチが入っていた。
「マキさんがあんたらの為にって朝早くから用意してくれてたんだぜ?ちっとは感謝しとけよ」
「マキさんが… 今度会ったらお礼を言っておくよ」
マキさんとは鬼族の女の人で、よく手伝えにきてくれてる。歳は俺らより2個上だ。何より驚いたのは、彼女はあの村長の孫娘、そして村長の隣にいた少女、キサキの妹なのだ。言われてみれば似ているところもあるけど、特に目つきが似てない。
「ナガトはなんで普通にマキさんと喋れてるんだ?オレらが話しかけるといつも物陰に隠れるのに」
「そりゃあ… なぁ?タケル」
ナガトが俺に話題を振った。食っていたサンドイッチを喉に詰まらせそうになった。
「いや、俺もあんまり分かんないなぁ」
「この前なんて酷かったぜ?オレが挨拶しただけで悲鳴あげて逃げやがって。オレなんかしたか?」
「なんかしたっていうか… 相手は完全にほれ…」
するとナガトが肘で突いてきた、これ以上は言うな、あとはあいつが恋に気づくのを待てって事だろう。
「そろそろ街に戻ろーぜ。タケルもヤマトもやることがあるだろ?」
そうだな、と言って立ち上がり、尻についた草を手ではらった。ふと、海に目をやると驚愕した。うっすらだが、海の向こうに船が浮かんでいたのだ。大きさからしてガレオン船、この距離だと望遠鏡で簡単に見える。
—見つかった。
俺の目線に気がついたのか、ナガトもその船に気がついていた。俺らはすぐさま走り出し街に戻った。
「奴らが来たぞ!」
街を走りながらそう叫んだ。聞いた者はすぐさま家に入り武器を手にした。曲がり角に差し掛かったところで巨体にぶつかった、オウガだった。隣にはガイムもいた。
「おっ!?ちゃんと前見て歩きやがれ!」
「よかった、探してたんだ!奴らに見つかった!」
「はぁ!?マジかよ…!」
オウガは腰にかけていた鞘を握り締め、走り出して行った。ガイムはオウガについていかず、俺らと残った。
崖の影に隠しておいたガレオン船では乗組員が出航の準備をしていた。ミツとシュウジもそこにいた。
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