第20話:海戦

ガレオン船「フロートリングII」の艦首で腕を組みながら己の昔の船を眺めていたのはオウエンだった。

「盗んだだけではなく、手入れも怠るとはなんたる無礼!!!!!!!!」


タケルたちが盗んだのはオウエンのかつての船「フロートリング」、もちろんそんなことを知らないタケルたちはガレオン船と呼んでいる。

「なんだあの下品な装飾は… 」


オウエンのフロートリングIIは紫に塗装されている。

「シュウジ、ミツ、リチャードはいつも通りだ。ガイム、オレとついてこい」


「ん?どこへだ?」


「どこってもちろん… 敵の船だが?」


「何考えてんだ!?」


「オレら黒い墓標のやり方に付き合えってんだ。まぁ要するにカチコミだ」


島に向かってくる敵船を正面に進む。

「シュウジ、大砲は?」


「ちっと問題だ!兵の数もだが、砲弾の数がちぃーとばかし足りねぇ!」


「な?ガイム。こっちはまともにやっちゃあジリ貧だ。だから突起戦力のオレらが内側からぶち壊す、これが作戦だ」


ガイムは渋々了承した。といってもまだ納得がいかないようだ。なんせ遠く離れた敵船にどうやって乗り移るか分からないからだ。

「リチャード!カタパルトできてるか!?」


「もちろんであります、オウガ様」


すると男たち数人がかりで何かを持ってきた。

「素材の関係上、いつも通りとはいかないですが、このリチャードめの設計、性能差は大差ないでしょう」


「ご苦労だったな、リチャード」


石の囲いに蓋をするように鉄板が設置されている。ガイムには何か分からなかった。するとオウガは鉄板に乗り、両サイドの取ってを握った。ガイムにも同じことをするように伝えると、抵抗しつつも同じ体制に入った。

「リチャード、点火!」


縄に火をつけた、その先は石の囲いだ。まさかと思ったがその通りだった。火薬で鉄板を吹き飛ばすのが作戦だった。ガイムとオウガを乗せた鉄板は勢いよく飛び、敵船の上空まで数十秒も掛からなかった。

「お前ら黒い墓標はバカなのかあ!」


「あんま喋ってっと舌ぁ噛むずっ」


舌噛んだんだな、とガイムは思った。

落下するガイム達、下には敵船、距離が縮まり、衝突寸前でオウガはガイムを引っ張って飛び降りて風魔法を使った。その風魔法の噴射で落下の衝撃は和らぎ、鉄板はそのまま甲板ぬ刺さった。

「よぉし、着地成功!」


「なにが成功だ!危うく死にかけたぞ!」


二人は敵兵の中心にいることも忘れ口喧嘩している。その二人の会話に割り込んだのはオウエンだった。

「いつかの男ではないか!我の船を可愛がってくれてるか?」


「げっ、よりによってオウエンかよ…」


「あの日の続きをやろうか、まずは名を聞こうか」


「名乗るほどの者ではない、と言いたいところだが、名乗るのは礼儀というものだ。俺はガイム!」


「我はセイジョウ・オウエン!オウエン家が長男、現海軍最強の男ッ!」


双方一歩踏み出し、剣と剣がぶつかった。オウエンの剣はカトラス、一面だけの刃とやや曲がった刀身が特徴的な剣。対してガイムは二枚刃の剣。

オウエンはその巨体を活かし、片手だけでカトラスを操り、自由自在に切り込んだ。ガイムは両手で握った剣で防御に徹する他選択肢がなかった。

オウエンは剣術だけでガイムを圧倒した。素早い斬撃がガイムの体をじわじわと切り付ける。

「どうした?貴様の技量はそこまでなのか!」


「そうだな、俺の剣技はこの程度のものだ。だがそれももう終いだ!あたりを見渡せ、セイジョウ・オウエン!」


その時オウエンは気がついた、甲板にいた味方の9割が倒れていることに。

「そこの男かッ…!」


「オレ様だけ蚊帳の外ってのも気分がいいもんじゃねぇぜ、だからちょっとばかしお前のお友達と遊んどいた」


「さっきのやり方といい、この短時間での戦果といい、貴様黒い墓標のリーダー、鷹の子オウガだな」


「やっとオレ様のこと知ってるやつがいやがった。いかにも、オレが元黒い墓標のリーダー、オウガ・トラジキ」


「投獄されたとは耳にしていたがな、よもやここであいまみえるとはな」


「おっと、勘違いするなよ。お前の敵はオレじゃない」


その瞬間、オウエンのいた場所が爆発した。

「時間稼ぎと注意引き付け、よくやった…!」


「魔術の類か…!?」


「魔法と魔術の存在する世界で、それらを遮断した貴様らは、それらを扱う俺らに劣る!降参して引き返せば…」


「ではなぜ月光国は破滅していない…?分かるだろ、貴様なら分かるだろう?」


甲板に空いた穴から出てきたオウエンは、左手に何かを持っていた。

「封魔石か… 」


「知っての通りこいつに触れている間は魔に関するダメージは負わない。さっき貴様が我に当てた攻撃も、かすり傷程度で済んだわ」


「厄介だな…!」


「魔の傀儡が言えた立場ではなかろうに」


ガイムは風魔法の応用で瞬時にオウエンの懐に入った。だがオウエンは海軍最強と自称するほどの実力者、その刹那にガイムを左足で蹴り上げた。ガイムの剣は微かにオウエンの身体に切り傷をつけただけだった。

「一応、貴様らは捕獲しろと念を押されているのでな」


ガイムは腹に喰らった蹴りの一撃が十分に効いてた。あまりの痛さに悶絶していた。

「四肢を切り落としてしまっては意味がないのでな。このまま連れ返らせてもらう」


「待てゴラァ!」


ガイムに手を伸ばしたオウエンに斬りかかったのはオウガだった。

「ネクストチャレンジャーはオレ様だ!」


「誰が来ようが同じ結末だ。だが、天下の海賊様の申し出とあらば、よもや無碍にできんな」

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