第18話:月光国

月光国首都ツクヨミ、軍事総司令部に集まったのは逃げた奴隷たちを追跡する者たち、海のオウエンと殺魔天武の面々。彼らは広く作られた会議室に座り、談笑するでもなくただ座っていた。その静寂を破ったのは殺魔天武のリーダーだった。

「海は己の領域と言わんばかりの巨体のくせして、奴隷の一人も見つけれないとは、かの海の怪物も地に落ちた… いや、陸に上がった魚、と言ったところか」


「お主らこそ、反乱分子を事前に見抜けなかったではないか。この件に関しては、我ら双方に落ち度がある、というのが我の見解だ。それとも、この無意味な論争を終わらせるために一戦交えるか?」


オウエンの部下は連携された動きで抜刀し剣を顔の前に持っていた。それに反応して他の殺魔天武も自身の武器に手をかけた。それを止めたのは扉から入ってきた新たな男。

「神聖な場を汚すのか、オウエン。殺魔天武も、ここで問題を起こすのは不本意であろう」


その男を見るなり、会議室にいたものは息を呑んだ。禍々しい赤黒く塗られた鎧に、上向きに固まった赤髪。彼は…

「ダイゲン殿…!」


「弁明はよい、今だけ目を瞑っといてやる」


「ご厚意感謝します…」


誰もが恐るこの男こそ、赤い鎧の殺戮者、ダイゲンであった。彼は円卓の殺魔天武とオウエンの間に座り、会議を始めた。

「まず、オウエン。貴様の完全無敵… なんと言ったか」


「完全無敵防衛戦であります」


「そうだ、それが突破された理由を率直に答えよ」


「はっ!明確な原因は不明、突破された日の天候はどこも良好、奴隷たちの後方から迫っていた部隊も突破されたはずはないと口々を揃え…」


「結論だけを話せ」


「はっ!奴隷たちの突破方法は今だに不明!」


その後誰も話さなかった。席を立ったままのオウエン。肘をついて考えたままなにも発さないダイゲンは、ゆったりと顔上げ言った。

「オウエン」


低い声が室内に轟く。

「なにをしている、座れ」


「はっ!」


安堵したかのような声で返事をしたオウエンが座った。その後も静寂が続いた。そこにいた面々は強張った表情でただ座っているだけだった。

「オウエン、貴様ら海軍はが嫌いだったな」


「あの場所…?大海の孤島のことですか?」


「ああ、そうだ。あそこには行ったのか?」


「い、いえ!ですが流石にあの場所では数日でワイバーンの餌に…」


「確認せずして」


オウエンの言葉を上書きするように一回り大きい声で遮った。

「確認せずして、見つからなかったと国王様に申すのか?それは怠惰、傲慢、不敬と言うのではないのか?」


「お、仰るとおりです!」


「では、貴様が次に行くべきなのはそこであろう。何呑気に座っている、動け」


「はい!」


静かなる怒りがひしひしと室内に充満する。殺魔天武はオウエンが子犬みたいに怯えているのを見てニヤニヤとしている。

「今日の会議はここまでだ。俺は国王様に報告しに行く」


オウエンは港へ直行し出港の準備に取り掛かった。ダイゲンは外で待機させておいた漆黒の騎士と合流して、ある場所へ向かった。30名の騎士に守られながら馬車で市内を駆け抜ける。その馬車には、殺魔天武のリーダーも乗っていた。

「用があると、そう言ったな。マッカーティよ」


いつも欠かさず深く被っていたフードを取った。オレンジの髪色にオッドアイの少年はゆったりと話した。

「ええ、今回はお時間をいただ…」


「そういうお世辞はいい。結論から話せ」


「… 聖剣の試練を、今一度受けさせて欲しい」


「その話か… まぁ、俺の馬車に乗った時点で大体察しはついていたが…」


聖剣に試練。世界には限られた聖剣しかない、それの所有権を得るには、現聖剣保有者と決闘をし、打ち勝たなければならない。そしてこの話をダイゲンに持ちかけたのは、ダイゲンが聖剣の保有者だからだ。

「貴公が試練を受けたのはつい3ヶ月前… あの日から何も変わっていないと思うがな。何をそんなに急いでいる?」


「理由なんてどうでもいいだろ。早く受けさせろ」


「… お父上はなんと。いや、大体察しがつく。あのお方は貴公らに興味がない、と言うと悪人に聞こえるが、実際あのお方の貴公らに対する考えが分からん」


「そういう戯言を話にきたんじゃない」


「聖剣使いならば、俺以外にもいる。例えば日光連のアカレイとかな」


馬車が停まった。目的地に着いたのだ。馬車のドアが外から開いた、使用人が開けたのだ。先に一歩外に出たダイゲンは足を止めて振り返った。

「ついてくるか?」


「ご冗談を」


「では。この方を屋敷に送って差し上げろ」


そう使用人に伝えると馬車は方向転換して走り出した。ダイゲン直属の漆黒の騎士を門で待機させて建物に入った。階段を上がり、5mある扉を潜って膝まついた。彼の敬礼の先には、大きな玉座に居座る男の姿があった。

「件の事件について報告にあがりました、ゲツリョウ・アガサ国王様」

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