第17話:鬼族
その日、鬼族の過去を知った。外が暗くなりきった時、吊るされた光る石を頼りに鬼族の女は喋り出した。
——大昔、亜人と人族は共に暮らす者も居れば、深く関わらない者もいた。その時代は平和で、それからもずっと平和だと思い込んでいた。だがある時を境にその関係は崩落した。アリカ大陸の亜人達が人族へ宣戦布告したのだ。隣人を喰い、村を焼き、共に築いた歴史を土台から崩していったこの戦争は亜人の人口を1/2、人族の人口を2/3までに減らした。その火種はアリカ大陸に留まらず、次第に全世界を取り巻く渦へと変貌していった。その中でも鬼族はその見た目からもっとも凶悪とされ、徹底的に狩殺された。我々の先祖はそれでも、人族を殺してはならぬという誓いを守り、最後まで手を出さなかった。数年後、戦争は亜人の敗北と共に終わりを告げた、もうこれ以上苦しむことはない、そう思っていた。だが人族は鬼族による報復を恐れ、全員の舌を抜き、この島へ投げ込んだ。ワイバーンの餌にでもして証拠隠滅しようとでも思ったのだろう、だが逆にそれが我々を生かして。この数十年、人族に報復しようと提案する者もいたが、それでも誓いを守り今日まで生きてきた——
「だから、お前らを許す許さないの話ではない、ただ関わりたくないだけなのだ」
この話を聞いた俺は、ただただ泣くことしかできなかった。彼ら鬼族は辛い時期を乗り越えて、怒りさえも押さえつけてこの島で過ごしてきた。
「俺は… 君たちと、それでも君たちに謝る。たとえ俺らにそれを求めていなくても、俺は君たちに謝罪したい」
「… 驚いた。まさか泣きながら謝られるなんて…」
村長が彼女の手を握った、数秒考え込んだ後語り出した。
「大母様が、2週間だけそちらに男を遣わすとのことだ。その代わりに…」
「代わりに…?」
「その代わりに、そちらで取れた食料を分けてもらう」
食料を分ける、となると狩猟班の負担が増えるが、まぁなんとかなるか。
「分かった、約束しよう。それと、気になってたんだけど… テレパシーか何かで会話してるの?」
「鬼族特有の能力だ。手を取り合うと意思の疎通ができる、喋れないのには変わりないがな」
翌日の早朝、鬼の村から男が15人送られてきた。昨日も思ったが、筋肉がすごい、それを強調するかのようにローマ人スタイルの服を着ている。
「おはようございます、今日からよろしくお願いします!」
村の入り口付近で出迎えたが、返事が一切返ってこない。彼らも喋れないのかな?
「…そんな挨拶はいらねぇ、さっさと用件を言え」
なんだ、ただ気性が荒いだけか。問題だけは起こさないようにしないと…
「ええと、まずは家の建築からです。形や広さは自由ですが、できれば最低でも人2分の広さは欲しいです」
「こいつを建てたのは誰だ?」
俺の話なんて聴かずに家に興味津々だ。人混みの中からフソウのじっちゃんが出てきた。
「ワシと他何十人かで作った第一号じゃ」
男は背の低いフソウを見下ろした後、突然拳で家を殴った。
「硬いな、ナナリ木を使ったのか」
「お、分かるか!ここら辺に生えておる木はそれも丈夫でのぉ、ワイバーンの攻撃も耐えうるはずじゃ!」
「期間はどれぐらいだ?」
「うーん、資材調達は別のグループに任せておるから… 建築単体だと2週間かの?」
「オレらならそれを1週間に短縮できる。あんたらはいつも通り作ってみろ、オレらがコツを教えてやる」
なんだかんだあそこ二人は気が合いそうだな、そう思った。その日のうちから鬼族の力を借りながら着々と家を作っていった。心なしか、以前より建築のスピードが上がってる気がする。
少し体を動かそうと木こりに参加していると森の奥からこちらへ来る人影が見えた、ヤマトだ。
「ちょうどよかった、報告に行こうと思ってたところだ」
「なに?」
「いい土地を見つけたって言ったろ?あそこを調べたところ、農業に適してる環境だった」
「マジか!じゃあ食料はなんとかなりそうだな!」
「ただ問題は… ワイバーンが多分近くにいることだ」
ヤマトは続けた。
「向こうはこっちを把握していて、川を越えようとすると吠えて威嚇してくる」
無理に踏み入ってワイバーンに襲撃されても困る、仕方がない。畑の有無は大きい、少しでも食料の足しになればそれでもいい。
「フェーズ2だ。ヤマトたちは畑を耕してくれ」
「タケル殿、私も彼らとのご同行を許可願います。私の知識でしたら、農業に役立つと思います」
「確かに、リチャードの知識は豊富だ。うん、頼んだよリチャード」
リチャードは普段、森の近くに生息してる植物を観察し、ノートを取っているのを何度か見かけた。彼の知識を活かして、農業革命を成功させよう。
この頃の建国はどうにもうまくいってるようだ。着実に発展していっている。だが、うまくいき過ぎている気がする。なにか、嫌な予感が… いや、病は気から、か。上手くいくならそれに越したものはないさ。
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