第16話:話し合い
翌朝、オウガとガイムを護衛につけてアーチャー達と共に出発した。森に入り、獣道を辿って奥へ奥へと進む。すると先頭を行っていたアーチャーが突然歩みを止める。あたりを見回し、木に登っていった。何事かと思ったが、降りてきたアーチャーの顔で察した。
「やられた」
目印の木下では荷物が散乱、あたりには複数の足跡があり、血痕がないことからおそらくは生きているだろうとのことだ。
「見張りが二人も同時に連れ去られた、しかも無抵抗でということは向こうは私たちの存在に気づいていた」
「どうする?引き返すか?」
「いいや、このまま行こう。一刻でも早くあいつらを解放してやりたい」
と言っても、生きているかすら怪しい状況でどうする?向こうは俺らを見つけ次第殺すかもしれない。
「ビビってねぇで行くぞ。どうせ一度は通らなくちゃならねぇ道だ」
森を出たところにすでに集落が見える。牧歌的な集落といった印象だ。家畜小屋もあり、人数も相当いる。そして情報通り額にはツノが生えていた。
「あまり刺激するなよ… 何をするかわからん」
「ガイム、お前ビビってんのか?」
「なっ、そんなわけないだろ!」
アリジュア大陸の子供は親に「悪い子は鬼族に食われるぞ」と言い聞かせられてたらしい。まさかそんなんで怖いなんてな。
村に近づこうとするとこちらも見つけた鬼族が建物の中に隠れていった。窓も閉め、出てくる様子はない。遠慮なく村の奥を進んでいくと、屋根から数人の鬼族の男が飛んできた。槍を構えている。それを見たオウガとガイムは剣を抜き戦闘体制に入った。
「待て、まだ攻撃するな」
啀み合いを終わらせたのは、鬼族の村長らしき老人だった。武装した鬼族の奥からヨボヨボと歩いてきて武器を収めるように合図した。俺らも彼らが戦闘の意思がないことを確認してから武器を下ろした。
「えーと、こんにちは。今日は人質の引き渡しと和平交渉をしにきました」
老人はニコニコと微笑むだけで何も言わなかった。
「ええと… 鬼族って何語喋るんだ?」
「おかしいな、同じ公用語を使うはずなんだが」
そう戸惑っているとついてこいと言わんばかりにどこかへ向かった。仕方なくついていってみると、たどり着いたのは立派な建物、どうやら村長の家らしい。中に案内され、村長は大きな椅子に座り、俺らは床に座った。
「ええと、申し遅れました。俺… 私達は最近流れ着いてきた者です。あなた方には危害を与えるつもりはありません。なので人質と和平交渉を…」
村長の顔を見たが、どうにも理解してるようには見えなかった。
「おいどうすんだよ、あの爺さん理解できてないぞ」
「わからん、とにかく待ってみよう」
待つこと数分後ろの扉が開き、振り向くと見張っていた男二人がいた。アーチャーを見るや否や飛び込んできた。
「師匠〜!すみません、ヘマしました!」
「でも攻撃しないでください!この人たち悪い人じゃないです!」
見張りに入った男達、年齢は俺よりもしただろう。まだ子供なのにアーチャーは置いていったのか。
「もういい、お前らが無傷でよかった」
アーチャーもあんな言葉かけれるのかと少し驚いた。すると二人を連れてきた鬼族の女が突然言った。
「貴様か、子を森に放っておいたのは!死んでいたらどうする!」
「あ… いや、その…」
「全く、親ならちゃんと見守っとけ!」
「…はい…」
あのアーチャーが叱られてる!?しかもこの女性、アーチャーのこと親だと思ってる… ふふふ、確かに髭は生えてるけど、俺とそう変わらないのに。そう笑っていると、アーチャーに睨まれた。
「まぁいい、次から気をつけるのだな。帰った帰った」
「あ、待って。まだ話がある」
「はぁ?」
「和平交渉、というか話し合いがしたい」
アーチャーたちは先に帰ってもらって、オウガとガイムだけ残した。床に正座し直してまずは自己紹介をした。だが彼女は名乗らなかった。
「それで?話とはなんだ?」
「ええとですね、俺たち最近来たばかりで、人手とか経験とかが足りなくて… 建国の手伝いをしてほしいなぁと思いまして…」
「そちらには何人いる」
「合計124人です」
「それで十分ではないのか?」
「事情がありまして…」
それから俺はこれまで起きたこと全て話した。
「なるほど、大方理解した。だが無理だ」
「え…」
「まず、こちらも派遣できるほど豊かではない。こちらも生活するのに精一杯だ。加えて君たちは我らになんの利益をくれるというのかね?まさかタダ働きというわけではないだろうな」
「もちろん報酬は出す。その証拠にこの肉と酒を持ってきた。足りないというのならある程度まで譲渡するつもりだ」
「お前らはわかっていない… とにかく援助はできない。帰ってくれ」
「俺らは!あんな奴らと同じじゃない!俺たちは分かり合えるんだ!」
「村を焼き払って、喋ることすら許されない体にされて、それでも怒りを抑えて生きてきた祖父母の世代を忘れろと!?お前らはどこまで身勝手なのだ!」
「忘れるんじゃない、それを基盤に共存への道を歩むんだ!」
彼女は今にも殴り掛からんとする勢いで立ち上がったが、村長が彼女の手を引いて止めた。何かを思ったのか、立ち止まり、村長の隣に立ち直した。
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