第15話:島の先客
ワイバーンの群れがヤマトたちを追いかけてきた。すぐさま聞きつけたオウガたちが走ってきたが、ワイバーンは空高く飛んでいて槍が届かない。
「弓だ!弓を持って来い!」
「数に限りがあります!」
「なんでもいい、持って来い!」
ワイバーンは見下すだけで何もしてこない。
「どうなってんだ!?」
「弓矢持ってきました!」
「よし、一斉に打て!」
オウガの指示の下、弓兵が一斉射撃した。その過半数は避けられたが当たったものもあった。それが怒りに触れたのか、さっきまで上にいるだけだったワイバーンが複数降りてきた。
「チッ!弓兵は下がれ!槍兵、前だ!」
連携がうまく行っていない、混乱で戦意消失する者も現れた。新兵だからしょうがない。
「非戦闘員を守れ!」
槍で距離をとりつつ、近接装備の兵は非戦闘員を囲って守っている。ワイバーンは高さ2mから3mと言ったところだ。弓兵が奥から上にいるワイバーンを威嚇した。ワイバーンはそれをみて撤退していった。撃退した?そうではないだろう。また仲間を連れてくるだろう。
「攻撃をしてこない…?」
「ワイバーンは勝てる試合しかしない。弱い獣を喰らう習性だ」
とりあえず被害が出ていないか確認をとり、もしもに備え警備を怠らない方針になった。それに加え、ワイバーンの早期発見をするために櫓を建てる案まででたが、家もないうちは建設に取りかかれないと結論が出た。
「ワイバーンは比較的賢い動物です、今度は大群を成してくるでしょう」
「何かワイバーン対策を考案しないとなぁ」
「奴らは主に家畜を食べて生活する凶暴かつ賢い生き物、我らが喰らうに値しない生物だと分からせればいいのでは?」
確かに、と思った。賢いならその分それを逆手に取ればいい。ただどうやって分からせるか…
そんなふうに沈黙が続いていると、アーチャーが入ってきた。
「会議中だったか?」
「いや、大丈夫だ。なんの用?」
「あぁ、先住民の集落を発見したということを報告しにきた」
そうだ、先住民だ。彼らならワイバーンの対処法も知ってるはずだ。だが今は時間が惜しい、血が沈むまで時間はある。
「焦りは禁物だ。また日を改めて行くぞ」
オウガが肩に腕を回して言った。
「とにかく今は明日に備えて腹一杯食って、たっぷり寝て、それから考えよう。焦っても何かが起きるわけじゃねぇしな」
そうだ。焦って失敗するなんてみんなに合わせる顔がない。まずは落ち着いて、対策を練って、一歩一歩確実に歩もう。
「一応私の部下を2名見張らせている。何か手がかりがあれば知らせに来るだろう」
「わかった。彼らの情報は?」
「見た目は人、亜人だな。長い間聞き耳を立てていたが会話が聞こえてこなかったので、こちらの言語が理解できるかは定かではない」
亜人?亜人ってなんだ?困惑してる俺の顔を見てアーチャーが説明した。
「亜人とは人族と獣族の中間的存在だ。獣の有利性と人と有利性を同時に持った、いわば超人だ。彼らはツノが生えていたことから鬼族と言ったところだろう」
鬼、つまり凶暴ってことか!?そんな奴らが住んでる場所に俺らは来てしまったのか…
「にしても鬼族か… 厄介だな」
「恨まれても仕方がない、か…」
「だとすればオレらはまず、彼らと対等な立場であることを強調しねぇと」
「だがどうやって?生贄でも差し出すか?」
「難しい問題だ… ったく先祖様達の尻拭いってのは辛いもんだな」
アーチャーとオウガの会話を聞いていたが、なんの話をしているか全く理解できないでいると隣でリチャードが耳打ちで教えてくれた。
「遠い昔、この大地では人族と鬼族の間で大きな争いが起きました。その戦争に勝利した連盟国、当時の日光連と李国と赤雪民族が鬼族を虐殺し始めたのです。諸説ありますが、鬼族はすでに降伏していたと。本当の戦争であれば犯罪として処罰されるものを連盟は見て見ぬ振りをしたと。以来、鬼族との関係は壊滅的、彼らも年々数を減らしていっていると報告があります」
そんな歴史があったのか。和解、できるのか?誤解を招かず手を取ることはできるのか?誰か交渉に精通したやつ…
「明日には交渉に向かおう。肉と酒を持ってけばなんとかなるだろ」
「どうする、タケル」
頭をフル回転で考えていると、アーチャーが突然俺に聞いた。
「あ、ええと、そうだね。うーん、交渉ができる人とかいればいいんだけどね」
そうやって苦笑いすると、突然みんなが黙って俺に視線を向ける。
「いるじゃねぇか、交渉のできるやつ」
「同感だ。実際、私たちを言いくるめてここに来たのだしな」
嫌な予感がする…
「えぇ、この中ではたった一人しかいないですよ」
「もしかして… 俺…?」
黙って頷く一同。
「俺が交渉すんの…?」
「まさか自分だけ蚊帳の外って考えてたわけじゃあねぇだろうな?」
「いやいやいや!もちろんやりますとも!」
「んじゃ決まりだな。今のうちに腹括っとけよ、鬼は怖いぞぉ?」
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