第13話:選ばれた道

この日は嵐だった。海面が暗く荒れ切ってガレオン船を大きく揺らす。みんないつも以上に慎重に動いていた。俺とミツは甲板に残って舵をとり、アーチャーはマストから遠くをのぞいてる。船よりも大きい波が来た時にはレンの魔術でなんとか被害を最小限に抑えていた。それでも波から吐き出され着水した時のダメージは計り知れない、船に穴が開くのも時間の問題だろう。

そんな海との戦闘を1時間した後、ようやく静まった。灰色の雲が割れ、隙間が差し込んでくる、そしてその光が指す方向には目的地の島が見えた。

「着いた…」


島に行くと決断してから3日目のことだった。

島の外周を航行し良さげな自然港を見つけた。そこの近くで錨を落とし小舟で上陸した、久しぶりの陸地にみんな感動していた。自然に対して知識のあるメンバーでキャンプ地を設立するため森へ潜った。植物の知識があるリチャード、もしものための戦闘員ガイムとオウガ、野生の感が鋭いアーチャーで先行させた。もちろん俺とヤマトも荷物係として無理を言ってついていった。

「ここ獣道になってるな」


アーチャーが屈んで不自然に切り開かれた森を見た。それを見たヤマトが聞いた。

「ワイバーンか?」


「いや、大きさ的に4足歩行の動物だ。豚とかか?」


ワイバーン以外にも動物が存在していることが確定した、これで食料の幅も広がる。

「ここら一帯に生息する植物も大陸にあるのと大差ないです。特にこの木にはりんごが成っています、一応採取しておきますか、船長?」


「ああ、場所もマークしておけ」


順調に森の奥へと進み、川を発見しただけでなく、川を超えた先には平原が広がっていた。海辺からも近いし、川もある、住むのにはちょうどいい場所と確信した。

「この場所ならちょうどいいな、キャンプを設営する。タケルとヤマトが取り掛かれ、オレも手伝う。リチャードとアーチャーはここら一帯を探索だ。ガイム、来た道を戻って他の奴らを連れてきてくれ」


適材適所、オウガはちゃんと人を見てる。船長だったのも納得する。それにオウガの指示はとても分かりやすいものだ、難なく日が沈む前に仮小屋を建てることができた。

全員が仮小屋を建て終わったぐらいにリチャード達が帰ってきた。手には植物や仕留めた動物が、二人が食えると判断したものだろう。それを船にあった鍋で煮込み、みんなで食べた。ここにいるのは大体100人弱、内30人少しが俺と同じアリカ大陸出身だ。それにしても、男しかいないな。

突然、オウガが飯と酒を食いながら談笑したり騒いだりするみんなの注目を集めた。

「そのままでいい、聞いてくれ。オレはオウガ・フレミングで黒い墓標の元船長だ。それはどうでもいいとして、これからオレはタケルと共にこの島で生きていくことにする。帰る場所がある者は遠慮なく言ってくれ、最善の努力を尽くして送り帰す、保証はできないがな。こんな辺境の地だ、猛獣もいる、なんならワイバーンが住み着いてる。それでもオレらと共にこの地で生活してくれるなら喜んで歓迎する」


場は静まり返ったが、少ししてから高笑いで溢れかえった。

「今更選べと言われてもだ!」


「せっかく自由にさせてもらったわけだし、あんたらがいいって言うまで働くさ!」


そうだそうだと言い始め、一人が立ち上がった。

「わっしは大工の経験がありやす!なんでも言ってくだせぇ!」


それに続いて続々と立ち上がり声を上げた。

「狩猟をしたことがあります!」


「昔戦争してた、今もまだ戦える!」


そのままずっと飲んだり食ったり騒いだりで、気づいたら眠ってた。みんな原っぱで寝てたり、なぜか樽に突っ込んでるやつもいたりした。すると先に起きてたオウガが酔い潰れた人たちを担いで現れた。

「よう、起きたか」


「みんなは?」


「ご覧の通り、オレらだけさ」


オウガはそのまま仮小屋に入って寝かせた。山の影から覗く太陽を見ながら待っているとタケルが起きてきた。

「兄さん…」


「タケルでいいよ」


「タケル、本当に国を起こす気か?」


「あぁ」


「…そっか」


俺の夢はいつしか建国になっちまった。自由のある国、そこまでに至るまでには相当な困難が待っているだろう。けど自然と、こいつらとなら成しえるんじゃないかと思った。

「奴隷のない、自由な世界…」


「それがお前の目指す世界か」


仮小屋から出てきたオウガが言った。

「ならとことん付き合ってやる」


「タケル、この先の道のりは厳しいと思う。だから、遠慮なくオレにも声をかけろよ、弟だからとかそう言うのはなしだ」


建国は容易ではない、ローマは一日にして成らずと言うように、地道に積み重ねていくしかない。これが俺らの選んだ道なら、とことんやろう。

「覚悟は決まった、か。そうと決まれば早速やろうじゃねぇか。よぉし、野郎ども!!!起きやがれ朝だぞ!!!!今日から新たなる国の1ページだ!さっさと起きて働け!」


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