第12話:少年の夢
レンの情報通りだと、この先に待ち構えてる艦隊は少数、うまくいけば突破できるとのことだった。ただ少数と言っても向こうは歴戦練磨の船乗りだ、真っ向勝負では負けるだろう。
「戦力を練る必要があるな」
そう呟いたのはオウガだった。風に運ばれる船の先頭部分に仁王立ちで遠くの地平線を眺めていた。
「そんなこと言ったって、この船にはまともに武器を使ったことのない連中ばっかだぞ?諦めて船を放棄するしか…」
「だから戦術を練るんだ。一人でも多く死なずに突破する戦術を」
そんな諸葛孔明でも無理だろう、と心の中で思ったが口に出さなかった。呆れて船尾の方へ歩いて行った。途中、オウガの仲間が手慣れたように縄を引っ張り、大砲の使い方をレクチャーし、損傷箇所を応急処置しているのが目に入った。やっぱりオウガたちは元船乗りだったのかもしれない。
下の倉庫では、物資の確認をする一人の男がいた。火薬、酒、砲弾、食料といろんな物資の細かい個数を書き記していた。ふと気になって話しかけてみた。
「あのー、何してるんですか?」
「…見ての通り物資の確認だ。海上だと陸とは違って枯渇したら命取りだ。そう言う君はここで何をしている?僕らのせん… リーダーが使わしたのかね?」
丸いメガネとオールバックが特徴的な男だった。彼は続けて言った。
「暇なら打開策の一つでも思いつてみたまえ、ただ船内をふらついてるだけでは周りの邪魔だ」
「一つ聞きたいんだけど、オウガって… 君たちって元船乗りだったりする?手際がいいっていうか、なんか慣れてるようだったから」
男は数秒ほど黙っていたが、顔を上げ振り向いた。
「僕はリチャードだ。そんなにリーダーのことが気になるなら上にいるシュウジに聞くといい。僕は解説するのが苦手でね。シュウジはウニのような髪型の男だよ」
ウニみたいな頭… さっき上で大砲の使い方をレクチャーしてたやつか。リチャードにお礼を伝え上に上がっていった。シュウジはさっきと変わらず大砲の後ろにいた、よく見ると彼が教えている相手はコウだった。
「やあ、あんたがシュウジか?」
「んだぁ?おれに用かい?すまねぇが後にしてくれや。こちとら授業で忙しいんだ」
ひどい訛り口調だ、多分どっかの田舎の発音なんだろう。まぁまだ聞き取れる範囲内だからいいけども。
「オウガのことでちょっと話が…」
「ああ?船長に不満でもあんのかいな!?」
「いやいやそう言うわけではなくて…」
そこにオウガが歩いてきて躊躇いもなくシュウジの頭に鉄拳を喰らわした。シュウジは頭を抱えて悶えていた。
「デケェ声で言うんじゃねぇよ… なんのために黙ってたと思ってるんだ!」
「いてて… そういやそうやったわ… すまん、船長」
周りはこれをみてドン引きしていたが、オウガが顔を上げたことによって皆が見なかったふりをした。
「どうしてそんなに知りたいかねぇ… お前には関係のないことだろ」
「知りたいのは君がなんで船乗りってことを隠してたかだ」
「…船長室で話すか」
オウガに連れられて穴の空いた船長室に入った。オウガは手慣れた仕草で棚にあったウィスキーらしきものを取り出し、椅子に腰をかけ飲み始めた。
「で?なんでオレが隠してたかって?そりゃ… 」
瓶を眺めながら少し思考した後言った。
「海賊なのさ、オレらはよ。黒い墓標…って聞いたことあるだろ?あれのアタマ張ってたんだ」
黒い墓標、あの時レンが話してた海賊。そうか、オウガはやっぱり船乗りだったんだ。
「仕事でヘマして奴隷落ちだ」
「戻る気は無いのか?」
「最初はそのつもりだったさ、だがオレがいなくてもやることはやってるらしいじゃねぇか。だったらオレはこのまま舞台を降りる。隠してた理由は、ただ単に印象が悪いだろうからだ」
俺はソファに腰をかけてじっくりと話を聞いた。
「お前の夢はなんだ?」
オウガが席を立ち、俺の向かいのソファに座った。
「奴隷監獄を抜け出して、船を奪って海に出て、お前は何がしたい?」
「俺は…」
俺は何がしたいんだ?自由になりたい、それだけじゃ無いはずだ。
「何か掴みたいものがあるんじゃねぇのか」
そうだ、俺は… 自由を作りたい。
「国を作る。万人が平等で暮らせる平和で自由な国をだ」
「ほう、大きく出たじゃねぇか。ただのガキンチョだと思ってたが… その夢を叶える方法があるのか?」
「ない… 模索中だ。前話した島に行ってそこで独立国を作る、ぐらいしか…」
「あそこは想像以上に過酷だぜ?なんせ…」
「ワイバーンだろ?」
「ああ。あいつらは手に負えない猛獣だ、人を食糧としか見てない」
「なんとかするさ」
突然オウガが立ち上がり船長室を出て、甲板にいたみんなに聞こえるほどの声量で話し始めた。
「進路を変える、目的地はワイバーンの住まう島!異論のある者は前に出て発言しろ!!」
誰も返事しなかった。それを異論なしと受け取ったオウガは大声で一人の男を呼んだ。
「ミツ、舵を取れ。方角はわかるな?」
その男はオウガの仲間の一人だった。
「分かりますけども、いいのですか?李国へ向かうはずでは?」
「予定変更だ、そこのガキ… タケルに従え」
「なぜ今更…」
「しょうがないだろ、夢見ちまったんだからよ」
それ以上ミツは何も言わずに操舵の前に立った。
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