第4話 

俺たちは城壁に沿って北門へ目指す。


 今走っている道はいわゆる路地裏となっており、全体的に薄暗く、ジメジメしており見た目も衛生的にも汚い。

 そんな道を走ること数十分。建物が城壁とあまりに近く、これ以上壁沿いを走ることはできなかったため大通りに出る。

 物影に隠れながら大通りの慎重に進む。近くに人の腰くらいの小さな魔物が数匹、南門の付近にそれよりも倍近く大きいサイズの魔物が数十匹いた。騎士団のおかげか大分魔物の数が減っており、南門には多くの魔物の死骸があった。


 「おいアルヴィ、あの小さいヤツは一体なんだ?」

 「ゴブリンだな。1体1体は弱いが数が増えると厄介な相手だ」


 あれがゴブリンか、、体がとにかく細く、骨が浮き出ている。確かに弱そうだ。

 もともと、このような体型という感じではなく、栄養不足のせいでこうなっている気がする。

 

 「それとその奥の大きいのはオークだ。足は早くないがとにかく力が強い。捕まったら終わりだから気をつけろ」

 「なんでゴブリンとオークしか来ない?」

 「ゴブリンとオークは頭が悪いからな。他はまだ警戒してるんだろ」


 そして物影に隠れながら大通りの端を静かに移動する。途中何度か見つかりそうになるが、ゴブリンは目が良くないのか気づかれることはなかった。


 「おっ、ここを通れば路地に戻れるぞアルヴィ」


 再び路地に入り、壁に沿って走っていると、端に様々な武器が転がっているのが見えた。


 「ああ、もうこんなところか、トーマ、北門は近いぞ」

 「なぜそんなことが分かる?」

 「この国は4つのエリアで分けられていてな、東が貴族街、西が平民街、南が移民街、北が商人街となっているんだ。そして商人街の路地裏には闇市があってこんな感じの質の悪い武器を売っているんだよ」

 

 確かによく見ると剣にしても、刃がボロボロで斬るってよりも叩くって感じだ。


 「まぁ何も無いよりかはいいや、俺はこの剣にしよう。これで殴られたら痛そうだ。アルヴィお前は何にする?」

 「俺はこの槍にするよ」

 「よし、じゃあ先を急ごう」


*****


 「あと少しだ。あと少しで門に着く、トーマ急げ!」

 「ま、待ってくれ‥‥‥ハァハァ‥‥‥少しだけ休憩しよう‥‥‥」

 「さっきも休憩しただろ!あ~もうっ!置いていく訳にも行かないからな‥‥‥ 少しだけだぞ!」


 俺はその場に座り込んでしまった。思ったより剣が重くて体力がごっそり持っていかれた。ハァハァと肩で息をしているとアルヴィが「ヤバい」と呟いた。

 

 「どうした?」

 「ゴブリンが三匹門の方に行った。休憩は終わりだ。これ以上来られたらどうしようもなくなるから早く倒すぞ。トーマ、お前戦闘経験あるか?」

 「畑に出てくる猪くらいなら何度か」


 物陰からゴブリンを覗きながら答えた。

 確かに三匹いる。しかも一番手前のやつは高そうな剣を持っている。

 おそらくさっきやられた騎士団のだれかの物だろう。


 「十分だ、先に武器持ちを倒すぞ。

  俺があいつの動きを止めている間に頼んだ」


 そう言い放つとアルヴィは奴らに向かって走っていった。

 こういうのはタイミングを合わせるもんだろ。幸いにもまだ気づかれていない。

 俺は少し遅れてアルヴィにつづく。


 アルヴィが武器持ちの膝裏めがけてなまくらの槍を振るうと、武器持ちがグギャという悲鳴にも似た声を出し体勢を崩す。

 その声に他の二匹もこちらに気づくがまずは武器持ちだ。

 俺はガードもまともに取れない武器持ちの頭になまくらを振り下ろす。

 

 「次っ!」


 武器持ちの次に近くにいたゴブリンが飛び掛かってくるが、振り下ろした剣を力いっぱい振るう。

 運よくゴブリンの顎に命中し絶命したが、勢い余って剣を手放してしまった。

 それを見ていた最後の一匹がニチァと笑みを浮かべ、迫る。

 ヤバいと思い咄嗟でガードする。が、攻撃が来ない。


 「貸し一つな」


 ゴブリンを踏みつけながらアルヴィは言う。

 ゴブリンの腹に深々と突き刺さる槍。どうやらこいつが倒してくれたようだ。


 「ああ」と返事をし武器持ちの剣を奪う。


 「よし、急いで北門を抜けるぞ」

 「了解、で、そのあとはどうするんだ?」

 「できるだけ帝国の近くまで行く」

 

 了解とだけ答え、あとはアルヴィに任せることにした。

 


ーーー


 魔物から逃げきり落ち着いたところで行き先の帝国について尋ねた。


 アルヴィによるとこの世界は、西大陸と東大陸、そして大地の果てと呼ばれる未開の大陸の三つから成っている。

 その中の東大陸にあるのが今向かっているオルグス帝国で、一般的に帝国と言ったらこの国だそう。


 帝国は世界最大の領土と人口を誇っており、軍事力もまた世界最大。

 竜帝と呼ばれる存在が皇帝であり、その下に十二将という九人の竜騎士と騎士団長、魔術師団長,参謀の三人の将軍たちがいる。


 竜騎士とは、過去にこの世界で暴れまわった竜の魂を持つ騎士のことで、単体で一国を滅ぼせるほど強力だとか。

 もともと十二将は全員竜騎士だったのだが、魔物との戦闘で命を落としたり、逃亡したりして九人になった。

 現在は、火、水、土、風、雷、氷、光、毒、死霊の竜騎士が残っている。


 話は戻るがアルヴィが帝国に向かうと言い出したのには理由が二つあるという。

 一つ目は単純に一番近い町がそこしかないからだ。

 二つ目は帝国付近には昔から魔物がいないからだとか。

 なんでも魔物には竜の気配が分かるようで、大体の魔物は近づいてこれないようだ。


「ところでその帝国までどのくらいかかるんだ?」

「徒歩だと三日くらいじゃないか」

 

 三日も歩くのか‥‥‥長いな。


「なぁ、アルは帝国に行ったことがあんの?」

「あるぞ、俺の家は祖父の代まで商人をしていてな、小さい頃によく帝国まで行ったもんだ。それと、なんだアルって」

「アルのほうが呼びやすいんだよ。で、実際帝国ってどんなところなんだ?」


 そう尋ねた途端、アルがものすごく嫌そうな顔をする。


 聞いちゃいけないこと聞いたか?

 すると


「帝国はな、簡単に言えば超実力社会なんだよ。

 人口の八割強が今日食べる飯すらない場所だ。 武力、権力、財力、知力、なにか一つさえあれば食っていけるが、逆になにも無ければ最底辺の生活を強いられる。 生きるために自ら奴隷になったり、剣闘士として見世物になったり碌な場所じゃない。余裕のある生活を送ってるのは豪商や貴族くらいだ」

「暴動は起きないのか?」

「起きない」

 

 アルははっきり言う。

 なぜか、少し考えるとわかる。

 

「竜騎士か‥‥‥」

「その通りだ。竜騎士が外からの干渉だけでなく内側からの暴動の抑止力となっている」

「みんな逃げないのか?」

「逃げれないんだ」

 

 なぜ。そう言いかけると


「帝国はな、入国時はタダだが、国を出るときには銀貨三枚必要なんだ。そしてこの国で最も多い貧民の一般的な収入は月に銀貨1枚程度、物価が高いことも相まってこれだけでは銀貨三枚分は貯まらない」


 なるほど、来るもの拒まず去るもの払えということか。

 腐ってるな。帝国に入国するのは良くない選択に思えてきたな。


「ホントに入国するのか?危なくない?出れなくなるのは嫌なんだけど」

「安心しろ。国を出るのに金が必要なのは身分証を持っていないやつだ。俺は身分証持ってるし、お前は最悪その剣を売って金にすればいい。それに冒険者登録すればそれが身分証代わりになる」

 

 俺はふと、疑問に思う。


「じゃあなんでみんな冒険者にならないんだ?」

「あ〜冒険者登録するのにも金がいるからだな。俺もどれだけ必要かは知らないが…」


 何をするにも金、金、金、当然なことなんだが嫌になってくる。


「まぁ、そんなことは着いてから考えよう。朝からなにも食ってないから腹が減った。まずは食料を探そう」


 「そうだな」と返事をするも北門から帝国へ繋がるこの街道は辺り一帯平原で食べれそうなものはない。

 仕方ない、進みながら食料を探すか…。


 あぁ腹減ったなぁ……。




ーーー




王国の北門を出てから一晩がたった。


 空腹で今にも倒れそうな体を剣で支え歩いていると、だんだん右側に森が見えてきた。

 ん? 森の方から何か音がする。

 耳をすましてみると、川のせせらぎが聞こえてくる。


「アル、川だ。川があるぞ!」


 アルヴィと共に川に向かって走り出す。さっきまでの空腹感がまるで嘘のようだ。


「あぁ… やっと水が飲める。しかも数匹だけど魚も泳いでる。ツイてるなっ!」

「よし、捕まえるぞ!トーマ、服を脱げ。」

「えっ、なんで?」


 疑問に思いながら、全部脱いだ。

 水遊びでもしたいのか?


「下まで脱がんでいい!上着の両端を持って川底に沈めて、その上に魚が来たら一気に引き上げる。分かったか?」


 おおっ、瞬時に作戦を立てるとは中々頭いいなこいつ。

 

 数分か、もしくは数十分か、じっと魚がくるのを待っているとチャンスがやってきた。


「来たっ、せーので上げるぞ」


 アルヴィの合図で引き上げると無事に2匹捕れた。

 

「よしっ!よしっ! ちゃんと二人分捕れた!あー早く食いたい」

「トーマは向こうから木の枝取ってきて、俺は火起こしするから」


 りょーかいと気の抜けた返事をして木の枝を拾っていると、アルヴィが何かをブツブツ言って指先から火をつけるのを目撃した。


「な、なにそれっ!?」


 急いで駆け寄り尋ねると、


「これは火魔術だ。魔力と適性さえあれば誰でもできるぞ。なんなら後で教えようか?」

 

 もちろん頷いた。

 その後は魚を焼いて食べ、魔術を教えてもらった。

 初級火魔術は、

 「偉大なる火の精よ、我に小さき灯火を与え給え」

 という詠唱が必要のようだ。


 魔術には、火、水、風、土、雷の5つの基本属性と光や闇、氷、毒といった特殊な属性があるそうだ。


 術師にもタイプがあり、一発の威力は高いが魔術を数回しか打てない短期戦型と一発の威力は弱いが何回も打てる長期戦型があるという。


 ちなみに俺は高威力を数回打つタイプらしい。理由は初めてにしては威力が高く、三回打っただけで魔力切れのような症状が表れたからだ。


 貧血のような倦怠感とめまいがする。魔力は限界はあるが、使っていくうちに少しずつ増えていくそう。


 アルが言うには一時間もしないうちに治るとのこと。横になり安静にしていると魔力の回復が早いらしいので少し寝た。 

 

 目覚めてからは街道に戻り再び帝国への道を歩き出す。

 

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