第3話
アルヴィが来てから数日が経った。
今日も朝食が出なかった。
最近、こんなことが頻発しており、昨晩と合わせて既に二度も飯にありつけていない。
明らかに異常だ。
ただでさえ不味い飯で我慢しているというのに、それすら出さないなど許されるわけない。
飯の催促と抗議の意味を兼ねて牢の鉄格子をガシャガシャと揺らすが、看守は「今は忙しい!」とだけ言い放ち取り合おうとしない。
「なんだよ…そんなに怒鳴らなくてもいいだろ‥‥‥おーいアルヴィ起きろー」
俺は暇なのでまだ寝てるアルヴィをゆする。
「ん〜、もう朝か?」
「多分な、今日は朝飯抜きみたい」
「またかよ」
アルヴィはしょぼくれた様子で身を起こす。
それから数分。
俺たちは空腹を紛らわすように会話に花を咲かせていた。
すると突然アルヴィは何かに気付く。
「なぁ、今日やけに騒がしくないか?」
「確かに騒がしくはあるけどいつもみたいにどっかの囚人が騒いでるんだろうさ」
「そんなもんか」
数時間後
二人は明らかな異変を感じ取っていた。
どうやらこの音は牢の壁側、つまりはおそらく外から聞こえてくる。
おそらくというのは、俺は気絶してる間にこの牢に入れられたため自分が今どこにいるのか分からないのだ。
「なぁトーマ、おかしくないか?」
「ああ、変だ。騒がしすぎる。看守に聞いてみよう」
鉄格子を揺らし音を立てる。
普段ならすぐに看守の怒声が聞こえてくるのだが、今はそれが返ってこない。
監獄で囚人が騒いでいるのに誰も見に来ない。
それだけで事態の深刻さが伝わってき、二人を不安にさせる。
少しの間、音を立てたり大声を出したりしたがやはり誰も来なかった。
諦めてその場で座る。
二人とも喋らない。
どのくらい経ったか。
ようやく状況を飲み込めて落ち着いてきた瞬間、
─────バァァァァアアン!!!
と、遠くから建物が破壊される轟音が響いてきた。
直後、地面が揺れるほどの足音や獣のおたけび、人の悲鳴が聞こえてくる。
「なんだ!?何が起こった!」
狼狽するトーマ。
「わからんがとにかく落ち着け。こういうときは周囲の状況の把握をするもんだ」
「状況の把握って、ここは松明だけが頼りの牢の中だぞ!何ができる!?」
「音を聞くんだよ。幸いこの壁の向こうは外だからな。」
そう言うとアルヴィはレンガ造りの壁に耳をあてる。
同じように俺も壁に耳をあててみると金属がぶつかるような高い音がよく聞こえてきた。
恐らく騎士団が戦っているのだろうとアルヴィが言う。
途中、外から壁を叩きつけるような音が何度かした。
壁には僅かに亀裂が入る。
次第に戦闘音が小さくなり、そして消える。
「なぁトーマ。もしかしてこれ、魔物が襲って来ているんじゃないか?」
「そんな悠長に言ってる場合か!どうするんだよ!?」
「どうするって、どうしようもないだろ!俺たちは今牢の中にいるんだぞ!」
「クソッ!どうすればここから‥‥‥」
考えろ、考えろ。
鉄格子をこじ開けるか?‥‥‥無理だ。
壁を破る?‥‥‥現実的じゃない。
「おいっ!何かないのか!?さっきよりも音が近づいてきてるぞ!」
「わかっている!」
何かないか?
段々と音が大きくなっていているし時間がない。
ふと、壁にできた亀裂を見る。
一か八か。
「アルヴィ!」
「何か思いついたか!?」
「ああ、この壁に体当たりするんだ」
「はぁ?体当たり?その程度でどうにかなる訳ねぇだろ!」
「やらなきゃ死ぬだけだ。いくぞ!」
一度目、壁が僅かに歪み。
二度目、亀裂が大きくなり。
そして三度目、遂にレンガの壁がガラガラと音を立てて崩れる。
あまりのあっけなさに二人とも面食らったが、すぐに現実へ引き戻される。
アルヴィは地面に転がるレンガをじっと観察する。
いくつかのレンガは、まるで抉られたように削られていた。
(気にはなるが今は逃げるのが優先か)
「アルヴィ、これからどうする?」
「まずは移動しよう。見る限りでは魔物たちは南門から入ってきている。北門へ逃げたほうがいいと思う」
「わかった。それと、もしものために武器が欲しいな」
「武器か‥‥‥逃げる途中に落ちていれば拾おう」
一先ずやることは決まった。
俺たちは魔物に見つからないようひたすら隠れながら北門を目指す。
この街の城壁は王城を中心にした大きな円になっており、東西南北にそれぞれ一箇所だけ門がある。
街の中に入ってきたモンスター共は南門を突破してきたと思われる。
現在トーマとアルヴィは東門付近の監獄にいる。
「トーマ、城壁に沿って北門を目指そう。その方が安全だろう」
俺たちは走って北門へ向かう。
「それはそうとあの魔物共はどこから来たんだ?」
アルヴィに尋ねる。
「南門をまっすぐ行くと大森林って森があるんだが恐らくそこから来たんだろう。でもそれだとおかしいんだ」
「大森林で城壁を破れる程のパワーを持っている魔物はほとんどいない。一応森の奥の方には高ランクの魔物がいるんだがここ数十年は出てきてないんだ」
「だったらその高ランクの奴が出てきてるんじゃないのか?壁に耳を当てている時、騎士団が全滅しただろ」
「考えたくないな」
アルヴィが呟いた。
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