第2話
1ヶ月前、トーマはそれまで病気のため早逝した父親の代わりに仕事をしていたのだが、母にやりたい事があるなら我慢しなくていいと言われたので旅に出ることにした。
故郷の村に不定期に来る行商人のおじさんの馬車の荷台に乗り、バルガス王国の王都を目指すことになった。
ゆっくり走る馬車で王都までは2週間程かかるらしい。
2日目までは良かった。初めての旅するトーマにとっては何もかもが新鮮で感動していた。
しかしこの街道は何もない。
ただ延々と同じ光景が続くだけだ。
3日目以降はほとんど寝ていた。たまに補給のために寄る小さな村だけがトーマを楽しませた。
そんな旅もあと少しのところでトーマが異変に気づく。
「すいません。あれなんですか?森で何か動いているような気がするんですが」
森を指さし、行商人に尋ねる。
何か黒い影が上下に僅かに揺れているのを見たのだ。
「ん?あれは!少し飛ばしますので落とされないように気をつけてください!!」
目を細め森の方をジッと凝視すると、行商人は焦りだした。
俺は何が起こっているのかわからないまま馬車に揺られていた。
どのくらい経ったか、しばらく走って何度か後ろを振り返り何もいないことを確認した行商人はホッした顔をして、スピードを落とした。
もう大丈夫のようだ。
「アレは一体何だったんですか?」
「あれはゴブリンの群れです。行商の馬車を襲うことがたまにあるんですよ。ゴブリンが1体や2体程度なら私でも倒せますが、流石に群れでこられては太刀打ちできません。」
あれがゴブリンか。
結構離れていたからよく見えなかったな。
「今ので結構な距離を走りましたので、明日の昼頃には王都に着くと思いますよ。」
ようやく王都に着くのか。どんな所だろうか?楽しみだ。
検問で払う分と、食事数回分しかお金は持ってないのでそれからは稼がなければいけない。
そうして金策を考えていると気づけば夜になっていた。
まぁその時になってから考えるか!と前向きになり、眠りにつく。
目が覚めると太陽はすでに高く上がっており、目の前には大きな城門と検問所があった。検問所の前には短くはあるが列ができていたのでそこに列ぶ。
「ようやく起きられましたか。もうすぐ検問ですよ。一応馬車から降りてください。」
そう言われたので降りる。それから少しして俺の番になると検問の衛兵が言う。
「身分証を出してください 無ければ大銅貨3枚でもいいですよ」
おかしいな? 村で唯一王都に行ったことある隣の家のおじさんは、大銅貨1枚って言ってたけどな?
仕方ないので言われるとおりに大銅貨3枚払うと、衛兵が
「冒険者登録しに来たんですか?」
と聞いてきた。
なんだ冒険者って? よく分からないが。
「そうなんです」
とだけ答えておいた。
そのまま検問所を抜け、その先で行商人のおじさんと別れた。
王都の街並みを見た俺はその光景に圧倒された。
途切れることのない人の往来に、騒がしいほどの活気に、空に届くのではないかと思わせるほどの高い建物に。
検問所を抜けるとそのまま中心にある王城に続く大通りになっている。大通りには様々な店が並んでおり、一通り見て回ることにした。
ちなみに現在の所持金は大銅貨2枚と銅貨4枚のみ。
王国を含むこの大陸に流通している貨幣は、どの国でも使えるよう統一している。種類は銅貨、大銅貨、銀貨、大銀貨、金貨、大金貨、白金貨の7種だ。価値は銅貨10枚で大銅貨1枚、大銅貨10枚で銀貨1枚と、このように10倍ずつ上がる。
そういえば衛兵が言ってた冒険者ってなんだろう?
近くにいたお兄さんに聞いてみると、冒険者とは報酬のために各地から寄せられた依頼をこなす、所謂何でも屋のようなものだそうだ。
詳しく知りたきゃギルドに行けと言われた。場所は教えてくれたので行ってみる。
ーーー
・・・迷った。
全然違う武器屋の前にいる。
お兄さんに、あそこを右に曲がって、その先のあれを左に、その次は・・・と教えてもらった。
教えてくれたことには感謝するけど初めて来た場所でそんなこと言われてもわからんよ。
簡単な地図でも描いてもらったらよかった。
それから歩き回ってなんとか大通りに戻ってこれた。
冒険者ギルトは後でいいや、王都散策を再開しよう。
いろんな店に入ってみるがどの商品も高い。大銅貨で買える品はあんまり多くない。というより少ない。
まぁいいや、屋台探そう。
しばらくキョロキョロしながら歩いていると、肉が焼けている香ばしい香りを放つ屋台を発見したので近づく。
いい匂いを嗅いでいるとなんだか腹が空いてきた。
店のおばちゃんに串焼きを3本頼む。
「どうぞ。銅貨6枚ね、ぶどうジュースもどうだい?美味しいよ?」
と勧められたのでそれも買うことにした。全部で銅貨7枚。買いすぎかな?
初日だから奮発してもいいよね?
右手に串焼き、左手にコップ一杯のぶどうジュースを持ち、食べ歩く。
う~ん、うまい。何の肉か知らないがとにかくうまい。丁寧にゆっくり味わおう。
ぶらぶらしていると前から女性の護衛を二人つけた金髪の少女が歩いてくる。
少女はとても可愛らしい顔をしており、それを見た俺は不覚にも見惚れてしまっていた。
ぼぉ〜と見惚れていた俺は何も無いところで躓き転んでしまい、両手にあった串焼きとぶどうジュースは宙を舞って少女の服にベチャとついてしまった。
俺はすぐに起きあがり、謝るため少女のもとにかけよると。
「貴ィ様ァァ!何てことをするんだ!!!」
と護衛の一人が剣を抜いて近づいてくる。
あっヤバい、殺される。
そして剣が振り下ろされる寸前、奥の方から。
「クリス待って!!」
その声を聞いたクリスという護衛はピタッと止まる。
少女がこちらに駆け寄ると頭を下げてきた。
「驚かせてしまいごめんなさい。クリスも悪気があった訳では無いの」
「頭をお上げください姫様っ」
クリスがジロッと俺を睨む。
お、俺も謝っておこう。
「謝らないで下さい。それよりもお洋服を汚してしまい申し訳ありません。必ず弁償しますのでどうか」
多分相手は貴族なので土下座をする。俺の精一杯の土下座を見ていたもう一人の護衛が口を開く。
「姫様、貴方様はこの国の第二王女であらせられます。王女の服を汚した者をただで帰したと周りに知られれば侮られますよ」
と王女の言葉を先回りするかのように釘を刺す。
王女の性格をよく理解しているのだろう。
そんなことより、相手が王女であったことに驚く。
なんで王女が護衛を二人しかつけずにこんなとこにいるんだよ。
「この者には罰を与えるべきです」
「そうです!」
クリスも便乗してきたこともあり、一応罰を与えるということになった。でも王女は「できるだけ軽くなるようにします」と言ってくれた。
クリスが衛兵を呼び、俺を引き渡す。
どうなるんだろ?
衛兵の詰め所連れられ、出身や経歴,何をしたか、色々尋問された。
その日は一日詰め所の部屋に閉じ込められた。
次の日の朝、衛兵は俺を黒い軍服を着ていた男たちに引き渡した。
俺は黒い軍服を着ている男たちに囲まれながら真っ黒の馬車に乗り、何処かへ連れて行かれる。
しばらくすると、軍服を着た男に促されるまま馬車を降りると、真っ黒で大きな四角い建物の中から出てきた男に引き渡され、建物へと入る。
建物の中はとても広く、音がよく響く造りになっている。耳をすますと、ガチャガチャガチャ、ドンドンドン、ここから出してくれー!等のいろんな音が聴こえてくる。
ここどこ? なんでこんなことになってんの?
しばらく建物内を歩くと男がドアの前で止まる。
「看守長、連れて参りました」
男が言うと中から「入れ」という返事が返ってきた。
中は赤い絨毯に机と椅子だけの質素な部屋だった。
部屋の中央にいた人物はこちらをジッと見ながら俺に尋ねる。
「お前、自分の罪状は知っているか?」
その問いから相手は事情を把握していることが分かる。
「はい、王女の服を汚してしまいました」
「そうだ、お前は王族に危害を加えたのだ」
「はっ?いえ、危害は加えてません」
「いや、お前は王族に危害を加えたのだ。故にお前を死罪とする。これは国法に則った上での判断である為、異論は認めない。以上。こいつを牢に放り込んでおけ」
死罪!?話が違う!王女は刑を軽くしてって言ってたじゃないか!
「ちょっと待ってください!話を聞いてください!」
俺は看守長と呼ばれていた男に近づこうとすると、背後から軍服の男に思い切り横腹を蹴られる。
不意打ちをもろに食らい、俺は気絶した。
目を覚ますと暗く、ジメジメとした牢屋に中にいた。
幸い廊下にいくつか松明があり、それらに火が灯っていたので真っ暗ではなかった。
それから2週間、俺は一人で牢に住んでいた。
ーーー
「・・・で、今に至るわけ」
「お前も大変だったんだな~」
アルヴィめ、真面目に聞いてないな。
「話しすぎたな。もう寝るか」
「そうだな。おやすみ」
俺はまた眠りについた。
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