最悪のグレイ~The Demise of Mythology~

@Heyadehitori00

第1章 奴隷脱却編

第1話

「はぁ‥‥‥なんでこんなことになった。ただ旅行に来ただけなのに‥‥‥」


 俺は狭い牢で寝っ転がりながらそう呟いた。

 牢の中には何もない。あるのは便所代わりの壺とベッド代わりの薄くボロい布だけ。

 窓がなく、日光も月光も入ってこないため全体的に暗く、廊下にある松明の灯りだけが頼りになっている。


 ああ、家に帰りたい。平和なあの村に帰りたい。


 俺は故郷を想い、冷たい床で何度目かの眠りについた。



ーーー



「──い、おいっ、起きろ!」


 看守の声で俺は目を覚ます。

 高圧的な声、侮蔑的な視線。

 目覚めの一発目としては最悪だ。


「今日からこの部屋に一人入ることになった。あとで連れてくるからくれぐれも問題は起こすなよ」


 看守はそういうと朝食を床に置き、急いで看守室に戻る。

 心臓が跳ねる。


「こんな狭いとこに犯罪者が来るのか‥‥‥逃げ場ないじゃん」


 もし殺しなんかをしてた奴ならどうしよう。

 ビビりながら朝食の少しカビたパンと味のないスープを食べる。味はない。

 食事を終える頃には少し冷静になり、今こんなに悩んでも意味ないので寝るという結論に至る。

 ここへ来た二週間程前に比べ、最近の看守たちは忙しいようで夜まで見回りが来ないため意外と快適なのだ。

 住めば都、慣れれば案外何とかなるもんだ。


 「さて、寝るか」


 壁にもたれるような姿勢で二度寝する。



ーーー



 しばらくして、ギィィィという不快な金属音で起きる。

 どうやら牢の扉が開いたようだ。

 音のなる方へ覚醒しきってない目を向けたとき、今日から犯罪者と相部屋になるということを思い出し体に緊張が走る。

 

 ついに来た!

 こんなところにぶち込まれるような奴から身を守る方法は一応考えた。

 眉間に皺を寄せるのだ。

 強そうな奴、怖そうな奴は大体眉間に皺が寄っている。俺もそうすればいいのだ。

 こんなとこに入るような犯罪者に舐められると俺の快適獄中ライフが台無しになる。

 舐められてはいけない。主導権を握る必要はないんだ、ただ舐められてさえなければ‥‥‥。


「さぁ入れ。くれぐれも問題を起こすなよ。分からないことがあれば中にいるやつに聞け」


 看守の男が言う。 

 俺だってここに来たばっかなんだぞ。

 そんなこと思っていると外から「ああ」と返事が聞こえた。声からして新入りは男だ、それも多分若い。

 あっ、入ってきた。

 

 新入りを牢に入れると看守はすぐさま扉の鍵をかけ、看守室に戻る。

 赤茶色の髪で端正な顔立ちの青年。犯罪とは無縁そうに思えるのだが。

 狭い牢の中で俺は新入りと目を合わせる。


「‥‥‥ブッ、ハハハハハ!アッハッハッハ あー腹痛い、いきなり変顔とか何なのお前?」


 堪えれなくなったようで大声で笑い出した。‥‥‥こいつ俺の渾身の顔を笑いやがった。


 少し落ち着くと新入りが自己紹介を始めた。


「挨拶が遅れたな、俺はアルヴィっていうんだ。よろしく」


「よろしく。俺はトーマだ。狭い部屋だがくつろいでくれ」


「そうさせてもらうよ。昨日は一日中歩いてたから疲れているんだ。悪いが少し休ましてもらうわ」

 

 そう言うとアルヴィはごろんと寝転び、すぐに眠った。

 こいつ、こんなところでいきなり寝るとか‥‥‥なんというか凄いな。俺のことを警戒していないらしい。

 

 俺はさっき起きたばかりであまり眠たくないので牢の壁のレンガの数を数えて時間を潰した。


ーーー


 レンガ数えに飽きた俺はいつの間にか寝ていた。

 しばらくして二人とも起き、看守が持ってきていた晩飯を食べながら話した。


「飯持ってきてくれたなら起こしてくれればいいのにな」


「あ~それな、俺ら死刑囚以外はこの時間帯は外で運動していたり、明るい部屋でボードゲームをしてるんだよ。でも昔、ある罪人がこの時間を使って脱獄してな、それ以来そいつらを大勢の看守で監視してるんだよ」


 アルヴィは「へー」とつまらなさげに返事する。


「俺たち死刑囚は外で運動もできないのか…」


「外に出たいよな…」

 

 俺とアルヴィは死刑囚だ。死刑囚は何もできない。外で運動できない。ボードゲームもできない。本も貸してくれない。ただただ暇だ。いつ来るか分からない死刑執行の日を待ちながら暇をもてあますというのが死刑囚に課せられる罰だ。


 飯も食べ終えたし後は寝るだけなので、俺たちは横になった。そして俺はアルヴィに質問した。


「なぁアルヴィ、お前何してこんなところに来たんだよ?」


「‥‥‥俺は魔物が多く生息してるガルドの森近くの町の出身でさ、その町は子爵様が治めているんだけどそこでちょっとやらかしてさ」


 「何したんだ?」


 俺がそう聞くと、すこし言いづらそうに続けた。


「俺には幼馴染の女の子がいてな、その子が子爵様の息子のスカーってやつに無理矢理されそうだったんでカッとなって殴ったんだよ。

 当然だけど捕まってさ、子爵様に奴隷として生きるかこの監獄に入るかのどちらか選べって言われたんだ。

 それでこっちに来た。

 あんな豚野郎の奴隷なんて死んでもごめんだし、それに監獄なら15年で出られるって言われたからな。 

 だけど騙されたな、俺死刑囚だぜ? ふざけんなよ‥‥‥」

 

「た、大変だったな」


 中々な人生を送っているようだ。


「ほら俺は言ったぞ。次はお前の番だトーマ」


 俺は2週間程前のことを思い出しながら語る。

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