特別編 隣人を愛しなさい
「もう出ないと」
「そうね、神父様を待たせる訳にはいきませんから」
ごく一般的な家庭の玄関前、今旅立たんとする好青年に相応しい母へと別れを告げる、
「はい」
真っ最中であった。
「皆様との修行、決して努力を怠ってはいけませんよ」
「承知しております」
「神は我々に」
「全ては――」
「まだ、覚悟が決まっていないのですね」
「いえ、ただ怖いのです」
「主の間近で殉じる役目を担ったのですよ、この上なく光栄な思し召しに感謝しなくては」
其処に親としての面影は跡形もなく消え去り、反発するように背中を追いかけていく。
「全ては四代目の意志を継ぐ者として……」
扉に掛けた手と頬に浮かぶのは影ばかり。
だが、
「行ってきます」
さいごの一言は淀みなく、澄み切った歩みを踏み出した。
例の場に集う一同、其々が有象無象に纏わる役職でありながら、崇高な道へと進み出す。
ただ一人、懺悔の間で微笑む神父を除いて。
純白の外套に似つかわしい全身装束で各々の面構えをも纏い、断崖絶壁前に勢揃いに。
「諸君、準備は良いかね?」
上りゆく太陽に身を輝かせ、沈黙を貫く。
「では、行こうか」
先頭がハラリと靡かせた外套が朝日の一瞬の翳りを見せるも、揺るぎなく遥かなる先へ向かっていく。
「勇者を救いに」
陽は落ち、光が昇る。
「今日も星が輝いておりますな」
「あぁ、綺麗だ」
「しかし、我々の到着を事前に知っていた場合、必ず戦闘になりますからな、これが見納めかもしれまぬ」
「そう気を落とすな、奴はそんな真似はしない」
「何故、言い切れるのです?」
「あの男は初代勇者の生まれ変わりだ」
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