トナカイってほんとうにいるの? 最後の晩餐

 度重なる脅威を排除するだけの強さなく、周りに在るのは仲間と思えぬ連中の奮闘劇。


 俺だって、誰の助けがなくても。


 死が駆ける戦場で尚、言葉を詰まらせた。


「囚われてるね」


「え?」

導かれんと鎖に繋がれたキメラと相対する。


 好戦的な性格無しが裏目に出たか、心底、御尊顔を落ち込ませたリトル勇者を他所に、出来損ないは重力に引き寄せられていった。


 俺はというもの、ずっと側から見ているだけ。


「ダンジョンを正常に機能させる臓器の役割だったんだろう。もう今は、みたいだげど」


 求めもしていなかった生を与えられた存在――。もう、疲れ果ててしまったのだろう。


 外敵を前に起きる気力さえ失われていた。


「これが例のあぁ、そうなんだな」


 想像に難くない自らの引き攣った面持ち。


 歪んだ思想が安らかな刺突を連想しても、俺にはどうしても、トドメは刺せなかった。


「出来ねぇ」


 緩やかに剣を頭上に翳し、突き立てる様を、皮を肉を骨を断つ音を、死にゆく姿の見届ける責を、万能執事に並ぶ子供に託した。


 生々しく刃が切り裂いていく音だけが……最後まで鮮烈に響き渡っていた。


 数日は頭にこびりつく運命だろう。


 あの子、可愛いな。

俺の第一声は決して酒場の派手な盛り上がりに感化された酔いから来てるものではない。


 ただ単純に、不意に漏れ出たに過ぎない。


 ジョッキを胸を弾ませて台の上に叩きつけ、ささっと仕事を済ませて大した会話もなく他の客の注文に、


「はーい!」


 と、天真爛漫、笑顔に向かっていった。


 そんな一連の行動に柑橘系のジュースを、酸素として鼻に取り入れたまま、唇を触れずにキープするヒスロア君。


「旨いか」


 の問いには


「うん、多分」


「気にせずジャンジャン食え」


 と、強引に周囲の波同様に追い立てる。


 結局、白騎士の名折れは地面で飯を貪り、時折お裾分けするのは、常にジュース大好き少年と残飯おこぼれサラマンダーであった。


 あの場の突破を最優先した実質的な第三者。未だ目的の掴めぬ幼いタッグの協力もあって、無事に安い酒場で祝い酒を振るった。


 足元の満腹番犬が居眠りに戯れ、歴代最高の空席の回数を誇るお向かいがいない時には、きっちり例の本の読書に勤しんでいた。


 ……。


 中々、頁を捲る手、盤石の持ち方などを逐一、探りつつしばしばになっちゃう目を、忘れた頃に何度も瞬かせていると戻ってきた。


「任務達成おめでとうございます。随分と大層なご馳走を平らげたようですね、良かった」


 祝い酒も知識補給を不味くなる野郎の介入だ。


 文字から決して目を離さず、視界に僅かにチラつく面構えを篤と目に焼き付けんとする。


「我々も仕事尽くしですが、中々祝い事は」


 しかし、わかっているのか見えねぇ。


「ですが、がお喜びになるのであれば、他には何も」


 戦慄、走る。


「あぁ、もう時間ですね。では、どうか楽しんで」


 そう、数分足らずでその場を後にした。


 まるで嵐ような一瞬だった。


 そして、


「あぁ」


 全身に脱力感が見舞われるくらいに、


 終わった。

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