扉を破り、星となったよ、生きたまま そして、難敵へ

 鉄鍋に揺らう固瓜の実を煮立たせ、凝り固まった身を解すホットなデザートを灼熱地獄のまま味蕾を越して喉奥に垂れ流し続けた。


「ハァ」


 木を隠すなら森の中。気休めも気休めで諜報員予備軍とランチタイムで息を潜める中、俺の器に溜めたスープはより一層揺蕩い、一向に冷え切ったハートが温まりそうにない。


「迎え酒で眠らないんだね」


「俺だって時には恒例行事の型から離れるさ」


 結局、ダンジョンでは時間の流れが遅く、雑音に一々警戒する闇夜で野宿する羽目に。


 そして、草むらの擦れる、騒めきが伝う。


 未曾有の大災害規模の対応も無駄に終わる案の定、孤独な才色兼備の鼠擬きであった。


「んだよ、紛らわしい」


「ラフッシュ。通称、光の子」


「何だ? 希望でも見出してくれんのか?」


「虫のあれと一緒だって云ってたよ」


「フンッ、だったら用はねぇ、さっさと失せろ」


「ッ、キー」


「なんだよ」


 両前足をぶらぶらと首を傾げて仁王立ち。


「お腹空いてるじゃない」


「これは俺んのだ」

と、スープを高々と届かぬ場所に上げれば、物欲しそうに見つめたまんまで背伸びする。


「……」


「!」


「ハァ、わかったよ。俺の負けだ」


 そう地面に置いて勝者の行く末を俯き、見守りながら今後の俺の行先に頭を悩ませる。


「熱いから気を付けろよ」


「ァ……チッ‼︎」


「ハァ」


 暫くすると甘ったるさで想定より半分が限界の量を綺麗に平らげ、満足そうに見上げた。


「もう無いぞ」


「……」


 よくよく見るととても愛らしい顔つきがじーっと俺を見つめている守りたくなる姿に母性が湧きそうになり、思わずそっぽを向く。


「そろそろ寝るか」


 フル無視を強行してたら煙のようにフラーは過ぎ去り、俺は木を背もたれに剣を抱きしめ、眠りにつかせてもらった。


 意識を残した就寝から間も無くして響く。


「おい」


 子供ならではの高音。


「どうしたの、夜泣きですか?」


「お前の発光が目障りなんだ」

「ギャッッウッッッ‼︎」


 相棒にまで威嚇される事態に。


「眩しくて寝られないなんてまだまだ子供よな」


「防衛意識の自己主張が激し過ぎるんだ!」

冷静さを失った言動は我儘な坊や像に近く、「太陽の有り難みを感じながら眠りにつく」捨て台詞に等しい諌め方で愛撫してやった。


 が、


「それが迷惑なんだ」


 と、顎を綺麗に足蹴され、


「暴力っていけないと思うんだけど、それにそんなことしたら脳が揺れちっって会話んに何ねぇでしょうがぁぁ!」


「結界は貼ってあるから、警戒は問題ない」


 そんなこんなでツルで木に垂らした状態、


「これじゃ動けない」


 ってやべぇ時に限って茂みからのご登場。


 ある一つの人影の侵入を容易く許した上、追っ手にも、とは――何故か行かなかった。


「結界か! それで逃げ仰るとは思うなよ‼︎」


 お姫様狙いの人攫いらしい身なりに言葉遣い、神視点からの脱却目当てであたふたしてたら、優秀な護衛が即座に新手を排除した。


 それはもう木っ端微塵に。


 憤りの腹いせのせいか非常な行いよりも、時期尚早の王手に疑問を隠せずにいたが……戸惑いをぶち撒ける例の相手に歩み寄った。


「貴公の目的と追っ手の理由、自己紹介を願えますか」


 動揺しつつも珍しく奴までもが完全消失した敵意の無さに落ち着きを取り戻し、飛ばす。


「ゎ――私の名はスタリシア・リプル・ノースドラゴン。ノースドラゴン家の王女です‼︎」


 またしても最悪最低な問題がやってきた。

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