第4部 本心

-現在-


「いらっしゃいませー!ごめんなさい、今日分のお花完売しちゃ.....ってあれ?その顔はエイくん!?」


「お久しぶりです!涼ちゃん先輩!トラさんから聞いて来ちゃいました笑」


「那須原くんか笑 そいえやひと月前に来てたわ笑

それにしても懐かしい、最後に会ったのもう8〜9年は経つのかなぁ?」


「そうですね、卒業式の日以来ですね。その節はありがとうございました」


「もう随分前の話よ笑 ところでエイくん今は何してんの?」


「今はリゾートバイトの営業の仕事をしています

笑 今日も日帰りで箱根まで行ってきたのでちょうどその帰りに涼ちゃん先輩の花屋さんに寄ったところなんですよ 」


「箱根まで!?それは大変だったでしょ!!よかったらウチ寄って食べてく??」


「そうしたいんですけど明日も朝早くて.....。次はトラさんの結婚式の時ゆっくり話しましょ!」


「おっけ!了解!笑 ところでエイくん、桃のところへはちゃんと行ってるの?」


「それが最近忙しくて全然行けてないんですよ。そろそろ怒られそうで.....」


「そりゃ桃は怒るわよ〜笑 いつまで待たせんだコラーって笑」


「懐かしいですね、笑 今でも涼ちゃん先輩は桃さんに頭上がらないですもんね!笑」


「桃がいなかったら私はいなかったしね.....ってうるさいよ!笑 」







-ピンポーン-



「ドンドン涼ちゃんいないのー??ドンドンドン」


「榎本先輩ー!」


いくらドアを叩いても部屋からは全く返事がない。だが換気扇を回しているのか中から音が聞こえてくる。


「かくなる上はゴソゴソ」


桃さんは自分のカバンの中をガサゴソと何かを出した。


「桃さんそれってもしかして、」


「一応涼ちゃんの部屋の合鍵持ってたんだ!何かあった時の為にね」


桃さんが持っていた部屋の合鍵で鍵を開けた瞬間ボクらは驚愕した。涼ちゃん先輩が倒れていたのだ。


「涼ちゃん!?!?」


「榎本先輩!!!!」


程なくして救急車が来て近くの病院へ涼ちゃんは搬送された。幸いにもストレスによる貧血を起こし一時的に意識を失っていただけであった。


「とりあえず今日一晩入院して体調が回復次第明日退院できるみたいです」


「話を聞いた時は寿命が縮んだよ。ほんとに2人ともありがとう」


桃さんから話を聞き付けたガヤさんと千尋先輩が病院に駆け付けた時には涼ちゃん先輩は安心しきったかのようにぐっすりと眠っていた。


「さっきまでちゃんと話もしていたので大丈夫だと思います」


「それは良かった.....。桃は知っていると思うけど涼香は入部した時からあの素っ気ない性格をしていてね。周りとは必要最低限の会話しかしないし、何を考えてるのか分からないつまらなそうな顔をして、大勢で群れる事を極端に嫌う。それは涼香の個性でもあったし、逆に言えば悪い部分でもあった。最初オレも涼香を見た時はこの子は劇団には向いていない、なんて思っていた。だけどね、涼香のある姿を見てハッとさせられたんだ。

“笑顔”。涼香の何気ない時に見せる笑った顔を見た時この子はちゃんと笑うことができるんだなって」


「もしかしてガヤさん私たちが入部した日のあのやり取り見てたんですか!?」


桃さんが顔を真っ赤にしてガヤさんに問いただしていた。


「何があったんですか??」


「いいっ!!いいって!!エイくん!!聞かなくていいよ!!!笑」


「実は桃入部届けを出す時に入部届けと一緒に弟くんのパンティがポロッと出てきちゃったんだよね〜」


「あぁ!そんなことあったねぇ!去年1年の中で1番笑った日だ!笑」


「言・わ・な・く・ていいですから!!!笑笑

あとあれママが焦ってハンカチと間違えてリュックサックの中に入れちゃっただけですからね!ホントに!!笑」


「そんな事あります!?笑 というかお母さんも桃さんも天然すぎるでしょ!笑」


「だからね、その笑顔を見たガヤくんと私は私のわがままで半ば強引に涼ちゃんを劇団サークルに誘ったの。そこからメキメキと頭角を現して今では時期部長候補にまでなってるんだから才能の塊よ涼ちゃんは!」


千尋先輩が嬉しそうにそう語った。


「そんな事があったんですね、知らなかった」


「だから涼ちゃんにはちゃんと“本心”で語って欲しいの。本当は涼ちゃん、みんなと一緒に本気の劇を作りたいんじゃないかって、」


「そんな事ないですよ」


目を閉じたまま涼ちゃん先輩はそう答えた。


「私はそもそも人に興味はないし、私自身にも興味はないただ何も無い人だから」


「だったら何でサークルに入ったの?人にも自分にも興味がないなんて嘘でしょ!?他人を演じることで自分自身変わりたかったんじゃないの!?」


桃さんが珍しく声を荒らげてそう言った。こんなにも怒っている桃さんを見るのは初めてだった。


「いつもそばで涼ちゃんを見ていた。正直もっと私だけじゃなく沢山の同期や先輩方と話せばいいのにって何十回何百回思ったか。私が他の人と話し始めると他人の如くどこかへ去ってしまうその後ろ姿を見て辛かった。涼ちゃんはみんなが思っているような子じゃないって。本当はお茶目でイタズラ好きだけどちゃんと気を配れて周りをちゃんと見ていて誰よりも優しい子なのに.....。なんでみんなそんな事が言えるのって」


桃さん自身が思っていた“本心”を涼ちゃん先輩に涙を流しながらそう語った。


「だから涼ちゃんもちゃんと本心を言って!本当はまたみんなと劇団やりたいんでしょ.....?」


「私だって本当はみんなと楽しく話したいしみんなと笑っていたいよ.....。みんなと一緒にいい劇を作りたいと思ってる。けど他人のウワサ話を聞く度に自分も裏で何か言われてるんじゃないかって思い始めたら急に人と関わることが怖くなった.....」


「涼ちゃんが思っている程みんな悪い人達じゃないよ」


そう言った瞬間病室の扉が勢いよく開いた。


「ええ!?トラさん!?ジョーたちも!?」


「涼ちゃんが倒れたって聞いてみんなで駆けつけちまったよ!涼ちゃん大丈夫か!?」


騒ぎを聞きつけた劇団サークルの部員たちが病室内になだれ込んできたのだ。


「榎本先輩!お見舞い買ってきましたー!榎本先輩の大好物分からなかったのでとりあえず甘いもの買いまくって来ました!!ガヤガヤ」


「ジョー!てめえに買ってきたんじゃねぇよ!勝手に食ってんじゃねぇー!」


ボクはそんなやり取りを横目に初めて目撃したのだった。いつもの表情からは想像がつかなかった心から笑っている無垢な涼ちゃん先輩の笑顔を。





































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