第3部 涼ちゃん
「エイくんー!」
遠くから桃さんの声が聞こえた。ボクは思わずビクッとしてしまった。
「帰り道一緒だったよね?一緒に帰ろー!」
「いいですよ!.....あ、榎本先輩お疲れ様です」
「お疲れー」
桃さんの姿を見てすっかり浮かれてしまったボクだが残念ながらその思いは一瞬で打ち砕かれた。
ボクは涼ちゃん先輩こと榎本先輩のことが正直苦手だ。最初話してみた時から少し気難しそうな性格だと思ってはいたがいくら話しても一方通行で終わってしまう。唯一桃さんとは心が開いてるのかいつも一緒にいるイメージしかない。
「エイくんはセペルス国王の役立候補するの?」
「ボク自身まだ入部して1ヶ月しか経ってないですしまだいいかなって思ってますよ」
「あのさぁ、1ヶ月とかさ長い短い関係ないんじゃない?結局自分自身が挑戦したいかどうかでしょ」
涼ちゃん先輩の手痛い一発がボクの心にクリティカルヒットした。
「まぁまぁ、涼ちゃんもストレートに言い過ぎだって(苦笑 ) でも涼ちゃんの言う事も一理あるよ。結局エイくん自身がやってみたいかどうかだから。エイくん結構顔良いしセリフ覚えられたら全然イける気がするんだけどなぁニヤニヤ」
桃さんの思いがけない一言が飛んできて変な声が出そうになった。
「桃さんがそう言うならやってみようかなぁ」
数日後
「今回の舞台には出ないって本当なのか......?」
「はい、もう決めたことなんで。今回から本格的に裏方業務に回らさせてください。あとこの裏方業務をもって引退しようと思ってます」
「ええ!?」
「涼ちゃんウソでしょ....??」
「今回ばかりは考え直してくれないか?ウチの劇団サークルは涼香がいてくれたからこそ立て直すことができたんだからさ」
「空」の部長である賀屋先輩(通称ガヤさん)は涼ちゃん先輩の思いがけない一言に戸惑いをみせた。特に副部長である水谷先輩(通称千尋先輩)は涼ちゃん先輩がまだ新入生の頃から可愛がっていたこともありショックを隠しきれなかった。
「そもそも前から辞めようと思ってました。もう馴れ合うのが疲れたというか、前々からみんなと私の熱量が違っていたのかなって」
「みんなだってなあなあでやっていたわけじゃないよ。どうやったら劇場に見に来てくれた人たちを満足してもらえるかどうかちゃんと考えながら真剣に取り組んでいたよ。少なからずオレはそう見えた」
「涼ちゃんがそんな重く考えていたなんて知らなかったから。気づいてあげられなくてごめんね。でも少しでいいから考え直して欲しいの。お願い」
結局その日は千尋先輩のお願いもあってか考えを思いとどまりその日を終えた。
だが不幸にもこの話がサークル中に広まってしまうのはそう遅くはなかった。
「榎本先輩が退部するみたいよヒソヒソ」
「本当か!?オレぶっちゃけ榎本先輩の事苦手だったんだよなーヒソヒソ」
「なんか重い空気がなくなるようでちょっとスッキリするわーヒソヒソ」
サークル内では涼ちゃん先輩の話題で持ち切りだった。勿論この話は桃さんの耳にも入っていた。
「エイくん!今日涼ちゃん見た!?」
「いや、今日は見てないッスねぇ」
「そう.....。ねぇエイくんも聞いた?涼ちゃんが辞めちゃうかもしれないって話」
「そういえばサークル内でウワサになってますよ。桃さん榎本先輩から何か聞いてないんですか?」
「昨日から電話かけてるんだけど全然繋がらなくて.....。ねぇ、エイくんさ、お願いがあるんだけど、涼ちゃんの家に一緒に来てくれない?」
「ええ!?オレがッスか!?」
「うん!もしかしたら涼ちゃんの身に何か起きちゃったのかもしれないし。寮すぐそこだからさ!」
北栄大学の敷地内には多くの学生寮があり涼ちゃん先輩をはじめ遠方から来ている大学生は寮暮らしをしている者が多い
「何より今の状況で来てくれるのエイくんくらいしかいないと思うし、」
「桃さんも知ってたんですか?榎本先輩が周りから良い感じに思われていなかった事」
「うん.....。でも涼ちゃんものすごく周りを見ているし、誰よりもこの劇団サークルの事が大好きなんだよ」
桃さんも涼ちゃん先輩が裏で煙たがれている事に薄々ながら気づいていたらしい。
「とりあえず涼ちゃんの部屋に行って生存確認!
行くよエイくん!」
「は、はい!!行きます!!行かせていただきますー!」
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