【224回目】
【224回目】
よろしい。ならば力ずくだ。
レオンには絶対に敵わない。一緒のパーティーだからこそ感じていた、圧倒的な実力差。最初から勝てないと決めつけて、今まで試してこなかった。だが、正々堂々と勝負して、ダンジョンに挑むのを諦めてもらうことにしよう。
「レオン、僕と勝負をしてくれないか? もし、僕が勝ったら、ダンジョン攻略を諦めてほしい」
ダンジョンの入口で待ち構えた僕は、レオンに言い放つ。レオンはその言葉を受けて、顔をしかめる。僕がここまで強硬策を取るとは思っていなかったのだろう。戸惑いの色を隠せていない。レオンは少しばかり考える素振りを見せてから、口角を上げる。
「ほう、面白い。言っておくが、勝負事に手を抜かないぞ?」
「もちろん、本気で来てほしい。僕も本気でレオンを足止めするから」
「何を馬鹿なことやっているのよ! アンタがレオンに勝てるわけないでしょ!?」
「そんなことは分かっている、でも、僕にも譲れないことがあるんだ」
「ふふ、トライが男の子の顔をしているっ。レオン様、こうなったトライはもう止められませんよ」
「ああ、眼差しをみれば分かる。こいつは、骨が折れそうだ」
「もう、レオンも乗り気になっちゃったじゃん、ナイツ、二人を止めてよ!」
「ふむ。決闘か。こいつは燃える展開だな」
「はあ……。もう好きにしなさいよ!」
僕とレオンが対峙する。今の会話を聞きつけた冒険者たちが、僕たち二人を遠巻きから取り囲む。
「なんだ、なんだ」
「レオンとトライの決闘らしい」
「なんだって!? 勇者パーティー同士で、か!!」
「トライって勇者パーティーの見習いで、荷物持ちだろ?」
「さすがにレオンの圧勝だろう」
野次馬と化した冒険者がざわざわと噂を
だが、それでも逃げるわけにはいかない。
僕はナイフを逆手に強く握り、胸の前で構える。レオンも聖剣を鞘から抜く。一切の隙を見せない、完璧たる構えだ。
隙が無いのであれば作るしかない。ナイフをレオンに向かって投擲する。
カキン。
レオンはナイフを危なげなく弾く。当然だ、この程度で倒せるのであれば勇者ではない。
「
落とし穴をレオンの足元に発動して、落下を試みる。これが僕の狙い。ナイフは囮、本命は罠による死角からの攻撃だ。だが、レオンは一言。ただ、それのみで、この状況を覆す。
「
勇者は特殊な職業だ。回復職、支援職、攻撃職の職業スキルをバランスよく使用できるのに加えて、勇者専用のスキルも存在する。その一つが月歩、目に見えない足場を空中に作り出す職業スキル。その足場で支えたのだろう、落とし穴を飛び越え、地面へと着地する。
「その程度か?」
「くッ!」
僕は
「トライ、これで
全速力で僕に突進してくる。目で捉えることが出来ない。気がついたら、既に僕を仕留められる位置にレオンはいた。両手剣の切っ先を僕の首を目掛けて、振り回す。……掛かった!!
「
「なッ!!」
レオンも予期していなかったのだろう。なぜならば、これだけの近距離で落とし穴を発動すると僕自身も落とし穴へと落下するからだ。だけど、この程度であれば、レオンは月歩で容易に逃げられる。
だから、僕は
この奥の手は一歩間違えれば、レオンを殺してしまうかもしれない。だが、レオンはこんなことで死ぬタマではないはずだ。僕は勇者レオンの実力を世界中の誰よりも理解している。だからこそ、こんなことでレオンという存在を死に至らしめることができるはずがない。自分の命すら投げ打って、死ぬ気で挑まないといけないのだ。
「
穴は元の状態へと戻ろうとする。つまり、地面の穴は塞がろうと、瞬時に僕たちを圧死させようと、地面の壁が迫りくるのだ。
「チッ」
レオンは今選択を迫られているはずだ。一つは月歩で自分だけ逃げる。だが、これだけのギャラリーのなか、仲間を見捨てて逃げ帰るなど、勇者である彼が選択するはずがない。勇者はなぜ勇者たるのかという話だ。それは見知らぬ人であっても、
よって、レオンは僕を助けるはず。
「ユニークスキル発動! 【
突如としてレオンの聖剣が輝きだす。
僕は落とし穴の底面へと落ち、尻もちをつく。
「痛っ!!」
くそ、やっぱりこれでも斃しきれないか。最後の矢に掛けるしかない。……だが、それも直後に弾かれた。
カキン。
アイテムインベントリから予備のナイフを投じていたのだ。レオンのユニークスキル【剣聖】は大地を斬るほどの切断力を誇るが、その直後に隙を生じやすい。よって、最後の矢。投擲ナイフでなんとか、負かすことが出来ないかと考えたのだが……。やはりレオンは一枚も二枚も上手だった。
レオンは驚愕の顔を浮かべながら、空中で浮かんでいる。いや、【月歩】のスキルで見えない床の上に立っているのだろう。
「お前、いつの間にこんなに強くなった……?」
「強くなってなんかいないよ。レベルも、スキルも、レオンに追放されたときのまんまだ」
「そうか……」
勇者レオンの元にマミとナイツ、キュアが駆け寄ってくる。
「レオン、何をやっているのよ! トライにいいようにされていたじゃない!」
「ああ、まさか、ユニークスキルを使う羽目になるとは思わなかった」
「いい勝負だったな、オレは今、猛烈に感動している……」
「ナイツ、あんた、何で泣いているのよ!」
「うっ、こういう熱い勝負には弱いんだ……」
「正直、かなり手強かった。紙一重というやつだな」
「ふふ、トライはやるときはやる、男の子なのですよっ! トライ―、大丈夫―??」
「うん、大丈夫だ!!」
「トライ、お前の努力は認める。だが、やはり負けは負けだ。連れて行くことは出来ない」
「そうか……わかった、じゃあ、レオン一つだけ約束してくれ」
「ん、なんだ?」
「勇者パーティーを追放された身だけど、遥か先――、もしも、僕が、ダンジョンの最下層まで辿り着いたそのときは、勇者パーティーの一員として、一緒にボスの攻略をしてほしい!」
「この街とは違うダンジョンの話か? ……であれば、分かった。俺は約束を守る男だ。今回の奮闘を称えて、お前がダンジョンの最下層に辿り着いたそのときには、お前をパーティーの一員として認めてやる」
「うん!!」
「じゃあ、またな、トライ。お前ら、行くぞ」
レオン達は踵を返し、野次馬を掻き分けて、ダンジョンへと向かう。その姿はこの落とし穴からは見えなくなった。僕がロープを使って、落とし穴から脱出すると、決闘を見届けていた冒険者たちは、すっかり手の平をひっくり返していた。
「うぉぉぉおおお、熱い戦いだった!!」
「惜しかったな、トライ!!」
「あとちょっとだったな」
いや、何を見ていたんだろうか。僕は痛感した、あと何度繰り返したところで、彼の高みには至れない。それほどの圧倒的な実力差が、僕とレオンの間にはあった。その証拠にレオンは勇者職のスキルしか使っていない。レオンは下位スキルであれば、魔法使い、戦士、僧侶、他の職業のスキルも使えるはずだ。だが、不公平と感じたのだろう。勇者職の基本スキル【月歩】とユニークスキルしか使わなかったのだ。
やはり、このやり方は不可能というのが僕の判断だった。であれば……。
次。
当初の予定通り、正攻法にて、ダンジョンを突破してやる。
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