【225-373回目】

 

【300回目】


 僕は着々と下層へと降りる。


 B10Fクリア後も、何度も死んだ。死ぬ度にその原因を探り、突破口を探りながら、下へ下へと潜って行く。気づけば、300人分もの僕が死んだが、そのぶん、下層へと進んだ。停滞することが全くなかったと言えば、嘘にはなるが、それでも、少しずつ前進をすることが出来たのだ。


 だが、すでに23回、同一の階層で留まっている。階層としてはB25階。B10階以来の停滞だ。


 B25Fで僕を待ち構えていたモンスター、それは石像だった。


 一本道の通路に石造が6体並んでいる。2体ずつが通路の左右の端に並んでおり、三か所に配置されている。そして、悪魔の形をしたその石像は、ガーゴイルというモンスターだ。石像に成りすまして、通過した冒険者を囲い込み、鋭い爪や炎の魔法で襲撃する。


 マッピング時に、一度レオン達がガーゴイルの石像状態を解除して、撃破をしたはずなのだが、これ見よがしに、再度、石像化して居座っている。別の個体が再度出現したのであろう。元の鞘に収まる形となっている。


 そして、僕にとっては、ここを突破することが最難関となっているのだ。


 このガーゴイルという悪魔は、1体1体の強さはたいしたことないにしても、集団行動をする習性がある。そのため、すり抜けて前進することもできず、また、後退するにしても逃げ場がない。さらに厄介なのが、宙を浮いていることだ。そのせいで、落とし穴に導いたところで、引っかからない。


 ナイフでの攻撃を試したが、1体に刺したところで、残りの5体が背後から襲ってきて、死んでしまう。


 さらに一本道となっているため、迂回路が存在しない。僕の行く手を阻む形となっているのだ。


 さて、ここでダイジェスト。僕が死んだ内訳は以下のようになる。

 ・無理矢理突破。ガーゴイルの攻撃で死亡:7回

 ・落とし穴のスキルでガーゴイルにあらがってみる。ガーゴイルの攻撃で死亡:11回

 ・ナイフでの攻撃。倒そうと試みる。ガーゴイルの攻撃で死亡:2回

 ・他の階層で抜け道がないかを確認。抜け道はやはりない。タイムアップとなり自殺:2回


 手詰まりだ。


 今回は違うやり方を試みる。B5Fを突破した際と同じやり方で、ガーゴイルの気が引けないかと考えた。6体が鎮座ちんざする、石像のちょうど中心部を目掛けて石を投じる。


 カツン。


 特になにも起こらない。石像はピクリとも動かず停止したままだ。とはいえ、奴らを呼び起こしたところで、策があったわけでもなかったが、なにか突破口への糸口になったかもしれない。やはり自分が石像に向かわないと反応しない。


 仕方がないので、僕は通路へと足を踏み入れる。特に反応がない。さらに、歩みを進める。


 左右に配置された石像を通り過ぎる。が、やはり反応はない。


 そして、二カ所目、ちょうど通路の真ん中に差し掛かった際に、石像が動き出した。ガーゴイルがモンスターと化して、鋭利な爪で僕を襲う。


トラップ発動!!」


 自分自身に対して、落とし穴を使う。姿を隠す目的で利用したが、敵の目前で隠れるのは流石に自殺行為だ。


 ガーゴイルはこいつ何をしているんだ、という侮蔑ぶべつの目を向けている気がした。


「うん、これは流石に無理があるなあ。……見逃してくれない?」


 そんな命乞いを魔物が聞いてくれるはずがなく。ガーゴイル6体の口から吐き出す火炎魔法によって、僕は焼死した。


 次。


 *


【372回目】


 B25F。何度繰り返しても上手くいかない。石像の悪魔が僕の行く手を阻み続ける。僕の中で何かが壊れ始める。進むことが出来ない焦燥感から、心が摩耗していくのを感じる。心が完全に崩壊する前にどうにかしないと。


 僕は叫び声を上げながら、最短経路を突破しようと試みた。分かっている。すでに、この方法は14回の僕が、死という痛みを被っている。絶対に失敗する手法だ。でも、もしかしたら数パーセントの確率で突破出来るかもしれない。


 いや、本音を言えば、もう疲れてきたのだ。打開策を見出すことが出来ない、絶望しかないこの状況に嫌気がさした。だから、突っ込む。自暴自棄気味に、全速力で。


 ガーゴイルの石像状態が解除され、僕を取り囲もうと、動き始める。それでも僕は突き進む。活路は目の前。今まで死んだパターンから、奴の攻撃の癖は予測している。目の前に僕がいる場合は爪の攻撃。地面スレスレまで腰を落として回避する。背中に擦り傷が刻まれるが、気にしない。


 もう一体、僕から見て右方に位置するガーゴイルの火炎魔法。これが鬼門。壁に衝突するくらい思いっきり左方に飛び込み、ゴロゴロと地面を転がる。


 よし!初めて上手くいった!!もしかしたら、もしかするかもしれない!!


 僕はすぐに起きあがり、後方のガーゴイルに囲い込まれないうちに、前進をする。


 僕は一度後方を振り返る。ガーゴイルが吐き出した火炎が、逆に隠れみのとなり、僕を見失ったようだ。


 やった!!これで突破……。


「は?」


 僕は唖然としてしまう。過去レオン達とマッピング時に確認したガーゴイルにの数は全6体。奴らは全員撒いたはずなのに……。どうして?


 そこにあったのは、悪魔の石像が2体。間違いない。僕に絶望を植え付ける、その2体はガーゴイルだ。通路の両壁に沿う形で佇んでいる。6体じゃない、8体ということか。


 僕の声に反応して、奴らは動き出す。


「キキキキキキ」


 ガーゴイルが僕を嘲笑あざわらう。


「……ふ、ざけるな! ふざけるなよッ!!」


 後方にいた奴らも僕に追いつき、不快な鳴き声を奏でる。


「キキキキキキ」

「キキキキキキ」

「キキキキキキ」


 僕は取り囲まれたガーゴイル共に刻まれ、ミンチになる。肉片となるまでズタズタにされたのだった。


 ……つ、ぎ。


 *


【373回目】


 宿屋の一室にて、僕は呆然と立ち尽くす。既にレオン達は僕を追放し、とっくにダンジョンへと向かっている頃だ。僕はダンジョンへと潜る気が起きずに、項垂うなだれる。


 もう駄目かもしれない。レオンも、マミも、ナイツも、そしてキュアも、救うことが出来ないかもしれない。僕は無力だ。


 窓に打ちつける雨音が聞こえる。次第に激しく打ちつけた。諦めるのは簡単だ。このまま、ただ時間を過ぎることを待てば良い。


 そうすれば自由になれるんだ。なのに、なんで?僕は気づくとアイテムインベントリからナイフを取り出して、両手に握りしめていた。


 自分を苦しめることになるのは分かっているのに……。諦めようとするとチラつくのは、キュアの笑顔だ。キュアと二度と会えなくて良いのか?お前は後悔しないのか?もう、苦しいんだと諦めようとすればするほど、彼女の眩しい笑顔を思い出すのだ。


 くそったれ。


 ここで諦めるということは、僕が彼女を殺すに等しい行為だ。そんなこと、許容出来るはずがない。


 だから。


 僕は震えるナイフを自分の首へと突き刺した。


 次。

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