第1章 6-2
次の日の朝、早速、炎珠(エンジュ)に乗馬について聞いて見た。
片足が悪くても乗れないことはないらしいのだが、問題は身長と腕の力だそうだ。
身長は、踏み台でどうにかなるとしても、馬に乗る為には、鐙に足をかけて体を馬の上へ持って行かなくてはいけない。
片足が不便な私にとっては、体を持ち上げるだけの腕力が必要という事だ。
「試しに、厩に行って見ますか?馬との相性もあるでしょう。朱家の訓練馬の中から、まずは相性の良い馬を見つけてみては?」
と提案されたので、是非にとお願いした。
「ただ、馬場がここから少し離れた場所にあるので、護衛の手配をしてまいります。少し、お待ちいただけますか?」
そういうと、朱家の本殿の方へ向かった。
華羅に馬にあっても威嚇しないようにと言う。
「僕はそんなに馬鹿じゃない。ちゃんと桜綾(オウリン)に合う馬を選んであげるよ。」
「華羅は馬とも話せたりするの?」
「桜綾(オウリン)、そんなの無理だよ。いくら僕でも、馬とは話せないと思うよ。」
何だか、馬鹿にされたような気分だが、ではどうやって選ぶのかと聞くと、
「人間には分からなくても、馬にだって表情はあるから、それを見れば分かるよ。桜綾(オウリン)を好いてくれる馬を見ればいい。」
と答えてはくれたが、まぁ華羅の言い分を信じてみよう。
それからそう時間もたたず、炎珠(エンジュ)が帰ってきたので、私達は郊外にある馬場へと移動する。
私と華羅、鈴明(リンメイ)は馬車で移動する事になった。
私が乗馬を習いに行くと知った鈴明(リンメイ)が、私も行きたいと言い出したので、一緒に行く事になった。
郊外とは言っても、馬車で判刻程かかる。鈴明(リンメイ)のお陰で道中、暇もしなかったし、華羅はお腹をすかせないですんだ。
馬場は思ったよりも広く、何人かがそこで、練習をしている最中だった。
その端を通って、厩へ向かう。そこには、手入れされ餌を食べている馬が十数頭いた。
近づくとやはり、大きい。隅にいるロバの方が私には向いている気がした。が、どうせなら馬に乗りたい。
綺麗に整列した馬を、まずは小屋の外から順に見ていく。
毛の色も白、茶、黒、灰と色々だが、どれも同じ表情に見える。どれも毛艶が良く、筋肉の付き方が分かるほど、しっかりした体格だ。
怖くはないが、相性と言われると、どれが良いのか分からない。
一巡したところで、もう一度、見て回る。
「鈴明(リンメイ)は、その馬が良さそうだよ。」
肩に乗った華羅が、そうつぶやくので、そのままを鈴明(リンメイ)に伝える。
私に華羅が選んだのは、黒毛の馬だった。
炎珠(エンジュ)に、その二頭を出してもらい、試しに餌をあげてみた。二頭とも素直に餌を手から食べてくれる。
それから、横顔辺りを撫でると、華羅のように頭をすり寄せてきた。
華羅の目は確からしい。
すぐに乗ることは難しいので、今日は鞍や鐙などの道具の説明と馬への接し方について習った。
その後、少しだけ炎珠(エンジュ)の前に座る形で、乗馬を体験した。
やはり、目線が高い。馬が歩くだけでも、私のお尻に衝撃がくる。意外と痛い。
それを伝えたものの、鈴明(リンメイ)は同じように馬に乗って、下りた瞬間、腰をさすっている。
「だから言ったのに。」
そう言って笑う私に、鈴明(リンメイ)が苦笑いをする。
「乗馬は思っているよりも、体力がいります。姿勢の訓練や手足の力も必要です。それに、技術がなければ馬を操ることは出来ません。乗ってみて分かったと思いますが、それでも習いますか?」
炎珠(エンジュ)は至極、真面目な顔で私達に聞いてくる。
「もし、出来るなら、時間がかかっても、乗れるようになりたい。」
「私も!桜綾(オウリン)と頑張るから、炎珠(エンジュ)、教えてよ。」
二人でそういうと、ため息をつきながらも、
「では、今、連れている馬に名前を付けてあげてください。そうすれば愛着も湧きますし、お二人以外が乗ることを避けられます。他の人が乗って、変な癖がついてもいけませんので。」
そう言ってくれた。
私達は、嬉しくて早速名前を考える。
「炎珠(エンジュ)、私の馬は男の子?女の子?」
「桜綾(オウリン)様の馬は雌、鈴明(リンメイ)の馬は雄です。」
(女の子か・・・黒い馬・・・ブラック・・・いや、なんか違うな。馬にこだわらずに付けるとすると・・・)
「桜華(オウカ)・・・私、この子桜華(オウカ)にする!」
私の一文字と華羅の一文字。これがしっくりくる。
「じゃぁ私の子は炎明(エンメイ)。おじさんと私の名前から作った。」
考える事は似ている。だが無事に二頭に名前を付けられた。
名前を付けると、何だか親近感が湧く。桜華(オウカ)はヒヒンと一鳴きすると、また頭をすり寄せる。
どうも、私は頭をすり寄せられる体質らしい。
「僕の桜綾(オウリン)だよ。たまになら良いけど、いつもはだめ!」
華羅は桜華(オウカ)にそう言っているが、桜華(オウカ)にそれが通じているのかどうかは分からない。
鈴明(リンメイ)も、炎明(エンメイ)に干し草をあげながら上機嫌に鼻歌まで歌っている。
「華羅、ありがとう。」
そうお礼を言うと、今度は華羅が頭をグリグリ押しつけてくる。
二つの頭に挟まれて、少しの痛みと温かさを感じながら、幸せな時間を過ごした。
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