【第一章 完】第51話 another episode『第三の男』


 暗い室内で、黒いローブを着た男が水晶に向かって話しかけている。彼は賢者『シカガ』と呼ばれる者だ。


 彼が居るのは、茨城県古河市鴻巣にあった中世の城館の跡地。その場所に魔法でやかたを作り拠点としていた。


無神論者エイシエストの現在位置を教えてくれ」


無神論者エイシエストとはコードネームではなく、相手を皮肉る意味で付けたあだ名である。


「はい。現在、成田市内の国道51号を北東方向に移動中。香取市の手前で宿泊しています。座標は234534の567865」


 水晶から返ってくる声は、電話のようにはっきりと肉声が聞こえるものではなく、くぐもった歪んだ声だった。ゆえに男か女か判別しにくい。


「ナナツカと接触したのだったな。あいつは、どれだけの情報を喋った?」

「シカガさまのお名前を出しております。薬の共同開発についても話しておりますが、それだけかと」

「それだけか?」

「はい。余計なことは話しておりません」

「ならば計画に変更はない」


 迷うことなく男は断言した。


「このまま北東方向に進んでよろしいのですね。魔王の動きはどうなっていますか?」

「拠点を動かず、ひたすら眷属を召喚し続けているよ」

「大丈夫なんでしょうか?」

無神論者エイシエストが本気になれば、数千の雑魚魔物でも余裕だろう。なにせ、勇者の素質を持たなくても一人で無双できるほどの実力を持っているからな」

「それは頼もしいですね」

「ただし、レッドドラゴンさえ召喚しなければな」


 男はそう言ってニヤリと笑う。


「話に聞いておりますが、レッドドラゴンはそんなに危険なのでしょうか?」

「属性との相性が悪い。あいつは神聖魔法と火属性しか使えない。レッドドラゴンは火属性には耐性がある。神聖魔法は、ドラゴン相手では攻撃手段としてあまり有効ではない」

「ならば、いざという時は、アレを使えば良いのでしょうか」


 『アレ』がなんであるかを男は理解しているようで、相手の提案に即座に同意した。


「そうだな。もし予定より早くドラゴンと遭遇した場合は、おまえが対応してくれ。その場合は、あいつに正体がバレてもかまわない」

「その場合、シカガさまの計画に支障はございませんか?」


 話の相手は、言葉を選びながら慎重に答えているようだ。


「その程度は想定範囲に含まれている。最優先すべきは、奴らを無傷で魔王軍と戦わせることだ」

「わかっております」

「今のところ、宝刀『パッシングレイン』だけが、ドラゴンに致命傷を与えられる武器だが、これから手に入れられる『ウィハのクロスボウ』は、竜族への特効を持つ武器だ。じきに仲間とも合流できるだろう」


 『パッシングレイン』は妖刀『村雨』を媒体として、異世界のアイテムを転移させ、媒体と融合させたものだった。もともと『ドラゴンスレイヤー』として竜族への特効を持つ剣である。


「そうですか。ならば心配いりませんね。私も下手にバレたくありませんから」

「あいつが気に入ったのか?」


 男は相手の感情の機微を読み取ったのか、そんな風に問う。


「いえ、そんなことは」

「まあ、良い。引き続き監視を続けてくれ」

「御意」

「他に何か報告や意見はあるか?」

「いえ、今のところは特に報告するような事はございません。ただ……」

「何かあるなら、意見を許そう」

「シカガさまはあの方にお会いしないのですか? お知り合いとのことですが」

「今はここを離れるわけにはいかないのだよ。それに、会ったところで憎まれ口を叩かれるだけだ。どうせ私は、あいつに本当のことは話せないのだから」

「それは、HRPに対しても同じじゃないのですか?」

「ふふふ、そうだったな」

「シカガさまの本当の目的を知ったら、あなたは憎まれるどころか、魔王以上の人類の敵になるのですから。赤い月だってシカガさまが……」


 人間たちが『ホード』と呼ぶ赤い月の夜は、シカガが範囲限定魔法によってゾンビたちを活性化させたものだ。


「知られたところで、それは想定内だよ。我が目的の為に最善を尽くすのみさ」

「……」


 男の悲しそうな言葉に相手の声が沈黙する。


「他に報告は?」

「いえ、ございません」


 相手がそう答えたところで、黒いローブを着た男は改めてこう告げる。


「では頼んだぞ。クレナイヒメ」



【第一章 完】

******************************

あとがき


これにて第一章は終わり、少し間を置いて次回からは第二章が始まります。


続きが読みたい、もしくは今後の展開に期待したいと思った方は


下部の『♡応援する』や『フォロー』をクリックしたり、『★で称える』や『応援コメント』をしていただけるとありがたいですね。


感想やレビューも随時募集しています。


※現在第二章を4万文字程度書き溜め中。


ポイントやフォローの伸びが良ければモチベーションが上がって、執筆速度が上がると思います。作者を応援したかったり、早く続きが読みたい場合は、なにとぞよろしくお願いいたします。


投稿の再開は二章全部書き終わってからになります。(10万文字程度かな)



お楽しみに!





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界からの帰還者は荒廃した日本を無双して歩く ~ スローライフを求めるクレリックは仲間を集めて最強となる オカノヒカル @lighthill

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画