空の青さ、海のかがみ

 青く輝く海の中、空の青さは海の鏡。

 海の中には江戸前の魚、おれは食べるよ丸々と。城ヶ島を越えれば黒潮だ、流されずともおれはここにいる。


 顔を出せば、そこには紫の船と黄色い船。遭難者と間違えられて、おれは助けられた。


「光隆!」


 おれを呼ぶ声、船の上。

 白い髪で紫の目の松浦光音。おれの幼馴染で、星空が好きな剣豪。紫の船は光音の船、海に出て遊んで、ずっと帰らなかったから心配かけてしまったよ。


 船は進むよ逆コース。

 橘の船に乗せられて、藤の船とは真反対。そうだ、明日から新しい学校に行くんだ。光音は先に学校を見て、帰ってくる途中。


 横浜の桟橋でおれ達降りる。

 赤い電車で帰るは瑞景。特急列車は少し混み、降りれば近くに新交通。元々の学校、歩いてこの先。最後のこの道、二人で歩く。


 家に帰ると、弟が必ず死んだふりをしている。弟は掛瑠、似てない双子と言われるよ。それでもおれは愛してる。

 死んだふりはきっとおれにそばにいて欲しいだけ、絵の具を沢山使わなくても…


 またお母さんに沢山叱られ、妹にも潮の匂いと言われたよ。体を洗って晩御飯。明日の旅立ち、掛瑠が用意してくれた。

 掛瑠にも、転校の届を貰っている。でも、本人は乗り気じゃない。父さんは単身赴任で船に乗り、人を守る活動をしてる。


 夜になり、おれは寝る。

 明日からの学校、どんな所だろう。


………


 朝、日課の愛犬ライちゃんの散歩。おれは瑞景海岸まで歩いて、今日も賑やかそうな水族館を眺める。

 ここの潮風、一番気持ちいい。


 そうこうしてる内に、行くべき時間。守らなきゃ祐希がうるさい。祐希は掛瑠にプリントを持って来てくれた、元学級委員の子。光音の従妹。


 瑞景島、しばらく来れないな。


 ライちゃんは走り、おれは自転車を漕ぐ。ライちゃんの走りは、自転車の常に先。最速のチワワ、それがライちゃん。


 新交通が架かる入江、家への近道。今日は何だかおかしいな。人の中に掻き行ってみると、子供が溺れて沈みそう。


 偶々従姉のおべんと買いに出てた光音に自転車とライちゃん頼み、おれは入江に潜る。今助ける、4月の海は慣れてないと冷たく辛い。

 子供をかかえて海を蹴る。おれの足から不思議な力、水が噴き出し高架を越える。


 下がパニックどうしよう。

 入江から離れて着地、子供のお母さんと光音、そしてライちゃんが待っていた。お礼を言われたけど、困っていたら絶対助ける。当たり前のこと。


 家に帰ると掛瑠が必ず、死んだふりをしていなかった。何故だか天井が丸く穴空き、掛瑠は気を失っている。光音と祐希の家はうちの部屋の上、うちはマンション。

 お姉さんにしこたま怒られる祐希と、そのお姉さんにおべんとをあげる光音。これから向かう学校のある敷島に、家族はみんな働きに出てる。光音の家庭、おれよく分からない。


 特急浦賀行き、昨日と違って人少ない。昨日ラッシュで今閑散。光音から借りたウィンドブレーカーが、暖かな春風になびく。

 光音のウィンドブレーカー、洗って返さなきゃと言ったら何着かあるからとお裾分け。掛瑠にチョロいと言われたよ、でも朝から何も食べていない掛瑠は焼きドーナツに夢中。光音と祐希と四人でおやつ。


 昨日と違うフェリー乗り場、久里浜からの直通便。商店街歩いて船着場。波止場は毒持ちの巣窟で、クラゲやガンガゼ浮いてるよ。

 来たのは大きな赤色の船。新しい船かなと思って乗ってみる。海賊のせいで船は壊される、だけどこの船少し硬い。


 船の名物はおうどんで、おれは大好ききつねうどん。お茶がなくなり買いに行くと、横から現る赤い影。

 幼稚園の頃からの付き合い、留学してた陸唯が帰って来た。アイツとおれはライバルで、いつも浜辺で競ってた。


「ブリテン御用達、森の紅茶の味は如何かな?」


 イギリスで人気のお茶、船でも売ってたなんて。陸唯の後ろから茶髪の双子。紺色コートのカンナと、カーキのコートのチョウナ。

 今度は日本に留学生。おれたちと同じ学校嬉しいな。積もる話もある訳で、みんなでお話しわちゃわちゃと。


 そしたら邪魔する砲撃音。

 海賊出て来た許さない、みんなで海賊やっつける。敵は卑怯に包囲して、ロケランと銃で脅してる。

 砂浜で競ったその力、もっと強くなって戦う。光音も祐希も、掛瑠も力を持っている。海賊への反転攻勢。


 光音も撃てるよ水柱、陸唯は炎で敵を焼く。カンナとチョウナはクリスタル、祐希は掛瑠を連れ去って、掛瑠は嫌だと拒んだよ。掛瑠は氷で船を包んで、そのまま砕いて粉微塵。


 その後掛瑠は低体温、陸唯がなんとか温める。祐希は奥に逃したかった。実はそれは間違い無くて、スタッフから逃げろと言われてた。


 周囲にいるのは漁船たち、だけど何故かに沈んでく。フェリーにすごい衝撃が来て、陸唯が柱の下敷きに。

 船の船長、おれたちの先生になる人だった。すぐに陸唯を一緒に助けて、気を失っている陸唯はスタッフに任せるしかない。

 今はあの、なんか撃ってきた奴が許せない。撃ってきた奴蜘蛛みたい、レトキシラーデと言うらしい。


 先生の名前は興一さん。船はそのまま、敷島の巨大要塞の中に吸い込まれる。


 白髪長身の、凛としたお兄さんがこっちに来る。だけど近づくと分かる、それは光音のお姉さんと。

 名前は景治、この要塞…海護財団の総司令。興一さんは、景治の部下。地下ドックに来たおれたちに、同じくしまわれている巨大な船に乗れと言ってきた。

 興一さん曰くその中が安全で、要塞が絶対に守るけど、要塞が落ちる時に単独で逃すつもりだ。だけども景治、死中に活を見出すならば消極策には応じない。


 おれと光音に、乗って欲しいと言ってきた。


………


 目の前に現れたのは、光音の船の何倍にもある藤色の船。本当に乗っていいのと、驚いた。

 光音はすごい怒ってる。姉は家に中々帰らないしお母さんが失踪、はらわたが煮え繰り返って仕方ない。


「帰ってきたら、殺すから」

「まずは乗れ」


 何でこんなに仲悪いの。昔の二人なら、もう少しよくやった。昔みたいに接したいと景治は言っていたけど、諦めの感情が染み出している。

 警報が鳴り、要塞の中は戦闘配備になっている。地下ドックから船を出す。


 だけども、このLA15という船に、おれには何故か懐かしい。一回も、乗ったことも見たこともないはずの異形の船。おれは知っていた気がする、ずっと昔からこの船を。


“おいで、アビリティアの子達”


 頭の中に、何故か響く言葉。光音には聞こえてなくて、ここにいる人だとおれにだけ聞こえた。

 その言葉に従うように、おれは船に意識を向ける。敷島は島じゃなく、浮かんでるだけのメガフロート。

 そのハッチを開けて、この戦艦…LA15ミライは羽ばたく。

 速力は爆発的に上昇、周囲の海水を蒸発させるほどだった。LA15は急速に艦首を上げ巨大な水柱を作り出す。本機関の轟音が鳴り響き、一気に空中へと躍り出た。


 メガフロートへと肉薄するレトキシラーデの群れに陽電子砲の大砲撃をお見舞いする。その威力は、メタリックな見た目のエイリアンを一撃で食い破る。

 そして放つ後ろのリニア砲。着弾すると、猛烈に爆発して消える。


 だけども敵はまだ沢山、全部倒して一緒に帰る。その為に精一杯を尽くす。艦首に向いてる巨大な砲身に力を込める。今のおれは、船と一心同体。力を溜めて、溜めて、ためる。


「まさか…母さんの本に書いてあった“星団破壊兵器”を撃つの?」


 知らないけど、そうかもしれない。今なら地球も割れそうだ。だけど、光音をもう一回景治と合わせる。その一心で、おれはプロトゲイザー砲を放った。


………


 目を覚ますと、光音がベットに倒れ込んでた。横に座って待っててくれた興一さんに、話を聞く。

 倒れた柱に巻き込まれ、陸唯とカンナ達は気を失っていた。おれはすぐに向かいたかったけど、みんな揃ってカリブディスって船にいる。その船が、おれたちの学校になる。

 それから眠ってる間に光音と景治がやった事を話してくれた。


 光音「チェストォォォ!!」

 

 その鬼神の如く覇気は武士そのものだった。だが景治は余裕の表情で瞬時に懐から扇子を出し光音の攻撃を受け止める。


 光音「…!?」

 景治「…で、この程度か?」


 何と手持ちの扇子で病床に突き飛ばしてしてしまったのだ。


 イズナ「カゲハール、幾ら妹とはいえこいつ姉に刃物向けたから拘束した方が良いよ」

 景治「いや、イズナのいう通りではあるがこれは「総司令」としてではなく「姉」としての僕の落ち度だ。かならず落とし前は付けさせる。」


 何とか対話する事は出来ても、頑固な姉妹、幼馴染が喧嘩してるのは嫌なんだ。いつのまにか横にはペンダント、おれのは謎の宝石で、光音は謎の筒だった。


 むにゃむにゃしていた光音だけど、何やら起きてくれた。筒のペンダントを見せ、そこにあのLA15ミライが仕舞われているみたい。


 姉を、景治を越える。おれと光音はそう誓う。

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アビリティア・チルドレンズ~幕間の譚~ 宮島織風 @hayaten151

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